この人には勝てない
「苗字今日菅原誕生日」

彼氏である菅原孝支の誕生日を知ったのは今日の朝。朝練おわりの澤村大地に言われてから知った。付き合って3か月、誕生日をなぜ聞かなかったのか、なぜそういう流れにならなかったのか。そんなことを悔やんでももうどうにもできない。何も用意しないで学校に登校してきた私に誕生日をお祝いする特別ななにかを持っているはずも、考えれるはずもなく夕方になってしまったせめても、と一緒に昼食をとった昼休みに、おめでとうの言葉と、部活が終わるまで待っているからいっしょに帰ろう、と誘った。菅原は当然遅くなるから、と断られたがそれを押し切って、今、校門前で菅原を待っている。

「名前」
「菅原」
「本当に待ってたのな」
「誕生日だし・・、バレー部の皆は?」
「もうすぐ出てくるけど、みんないた方がいい?」
「途中からはふたりだし、それまではみんなと一緒でいいよ」
「じゃあ、大地に肉まんおごってもらおーっと」

バレー部の皆は坂ノ下商店につくと肉まんやらスポドリやら各々いろいろなものを買っては菅原にプレゼントしていた。うれしそうな菅原を見て私も何かここで・・と思ったけれど、彼女という立場でみんなと同じって結局色気がないじゃない、と気づいて断念した。
坂ノ下商店前でひとしきり騒いで、怒られて、各々別れ道で離れる。菅原と澤村は次の交差点まではいっしょだから先を歩いている澤村について行こうとすると菅原に腕を掴まれ立ち尽くす。

「大地、俺今日こっち」
「ああ、知ってるよ。じゃあな、スガ、苗字」

手を振る澤村につられ手を振りかえし、菅原を見るといつものにこやかな笑顔をしながら「じゃあ、いくべ」といって一歩足を進めていく

「孝支、今日はわたしが送ってくから」
「だーめ。俺が名前ん家寄っていくから」
「でも、今日は誕生日・・」
「一緒に帰れるだけで、俺は満足だから」

な?とでもいうかのように笑顔に誤魔化され、一歩一歩と進んでいく菅原において行かれないように横に並ぶ。

「菅原」
「俺が送ってくから」
「そうじゃなくて、ごめんね、誕生日なのになにもなくて」
「なんで?いっしょに帰れるから満足だべ」

それじゃわたしが満足しない、けど菅原がそう言っている、あまり押し通すのもよくないのでは、と思ったり、それか後日いっしょにお祝いする?って案を脳みそを働かせて考えるものの、そんな時間ないだろうと答えでおわってしまった。せめて我侭くらいは聞こう、それなら今すぐにでも、そう思い隣を歩く菅原の手を掴みグっと引っ張り立ち留まってもらう。

「どうした?足いたい?」
「そうじゃなくて、せめてなにか菅原のわがままきく」
「えー、なんでもいい?」
「ここで対応できるレベルで!」
「そうだなー、じゃあ、名前で呼んでくんね?」

簡単なようで難しい我侭をつきつけられ、困惑するも、自分が言い出したことだし、誕生日だし。胃なのか心臓なのかとにかく鳩尾の辺りがぎゅっと締め上げられていく感覚に襲われながら脳内で菅原の名前を唱える

「こ、うし」
「それじゃ牛だべ」
「、、こうし」
「ありがと」
「、こうしたんじょうびおめでとう」

はじめて話した言葉のようにボロボロの発音でも伝えれば、目を細めくちを大きく開いて私のすきな笑顔で髪を撫で上げてくれる。

「ありがとなー!1番うれしいわ」

満面の笑みをみせながらも孝史の頬が朱く染まっているのが目にはいる。私だけが恥ずかしかったわけじゃないのかと思うと、安心感とすこしの余裕がでてきて、もうすこしなにか。
そう思いついたと同時に、孝史のジャージの首元を掴み、引き寄せ、背伸びをし、ほんの一瞬、唇を重ねる。手を離し孝史を見上げると、大きな目をさらに開き驚いた表情をしていたので、腕を絡め手を握る。もちろん恋人つなぎで。

「名前いつそんなの覚えたの」
そう言う孝史は耳まで真っ赤にしてあいている方の手で口元を隠しながらごにょごにょと小声で話していた。

「名前で呼ぶの、今日だけでいいの?」
「ずっと」
「がんばる」
「はー、俺も名前の誕生日がんばろ」
「またちゃんとお祝いするから」
「そんときは俺我慢できないかも」

まだ少し朱い顔をしながら口角を、にやり、と持ちあげて笑う姿に思わず目を見開いてしまった。キスしたらこんなに驚いて、赤面してくれるのに、それ以上のことをこの人はするんだ。そんなことを意識してしまったら今度は菅原じゃなくわたしのほうが赤面してしまい、その姿をみて菅原はうれしそうにしていたし、恥ずかしいけど、お互い顔が朱いのは夕日のせいってことにしておこう。
 
 
BACK
 
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -