しあわせじゃなくても構わない
高校を卒業して10年たって初めての同窓会。髪も少しだけ巻いてお気に入りのコロンを控えめにつけ、ドレスコードの指定はなかったものの綺麗目のワンピースにカーディガン、低めのヒールを穿き同窓会会場のホテルで受け付けを済ませロビーのソファで休む。何人かはすでに会場内に入っていったけど時間ぎりぎりでいい。おしゃれをしてきて気合い十分な雰囲気を醸し出してはいるけれど、こういう大勢の人が集まる場所はいまだに苦手だ。おしゃれをしてきた理由は、女子に埋もれてしまうためだった。結婚した噂を聞かない及川徹ともしかしたら・・を狙って着飾ってくる女子は少なくないはず。そんな女子が多い中で普通の格好をしていたら逆に目立ってしまう。

「苗字?」

肩をたたかれ振り向くと高校時代と髪型は変わりはせず、少しだけ目じりに皺を刻んだ花巻の姿があった。

「わー!久しぶり!」
「無理に女子ぶるな」
「そういうところも相変わらずー」
「お前のテンションも相変わらずー」
「松川は?」
「松川もーちょいで来る」
「相変わらず仲良しなんだね」

高校時代、松川と3年間同じクラスだったのに花巻と仲が良くなったのは彼のスウィーツ探しに付き合っていたからだ。

「お前は俺や松川じゃなくて岩泉だろ」
「いやいや、もう28だよ」
「お前、岩泉と別れてから彼氏いないらしいじゃん」

高校の頃付き合ってた岩泉一は、花巻は松川と同じバレー部で今日も狙われているであろうイケメン及川徹の幼馴染。
別れた、というより、春高で負けた岩泉になんて声をかけたらいいかわかなくて、そこで逆に気をつかわせてしまって、それが私にとって負い目になって大学進学後、彼がちゃんと向き合ってくれているなか私は、連絡先を変え逃げた。
そのあと及川伝手で岩泉に「ごめん」と伝えてほしい、と言ったら「岩ちゃんは大丈夫だよ」と言われた。
それが後ろめたくて彼氏を作らなかったわけでも、出会いがなかったわけでもない。28歳、それなりに告白もされたり合コンだって参加してきた。それでも交際に至らなかったのは結局岩泉一の存在が私の心の中で大きかったから、だと思う。

「もうそれはいいよ、そのうちできるよ」
「嫁に困ったら俺がもらってやろうか?毎日シュークリームで」
「お断りします」
ケラケラとにこやかに笑う花巻は、本当に変わらず私をからかってばかりだ。それが心地いいんだけれども。

「マッキー、やっほー!」

私と同じソファに腰かけていた花巻を後ろから抱きしめる形で飛び込んできたのはイケメン及川徹。変わらず華やかな顔。

「マッキーこの子名前ちゃんだよね?」

花巻に叩かれ離れた及川は私と花巻の向かいのソファに座った。確認されるほど変わったかな。

「どっからどう見ても名前だろ。」
「及川ご無沙汰」
「岩ちゃーん!名前ちゃん見つけたよー!」 

及川徹、相変わらず空気を読まないのか読めないのか。私の後ろの方に向かって手を振りながらにこやかに声をかけているってことは岩泉が後ろにいるってことか、怖くて振り向けはしないけれど、後ろを向いた花巻が少しにやつきながら拝んできたってことは確定だろう

「名前」

背後から岩泉の変わらない強い声が聞こえ、気まずくも後ろを向くとデニム時のカッターシャツを着て髭を少し生やした岩泉の姿があった。

「お、ひさ」
「・・おう」
「名前ひさしぶり」
「松川!!久しぶり!!!」

救世主松川現る。松川の声を聴いて立ち上がる、はやく逃げたい岩泉の顔はまともに見れない

「岩泉もさ、名前のこと怒ってないんでしょ」
「怒ってはねーよ」
「名前は?」
「ごめんってずっと思ってる・・」
「だから、あれから彼氏できねーんだよ」
松川がいい感じに話を進めてくれているときに花巻がぼそりと爆弾を落とす。
それに反応して岩泉が目を見開いた、ほら恥ずかしい。

「名前本当なのかよ」
「及川振ったらしいし、本当じゃね?」
「マッキーちょっと!」
「及川あとでころす」
「話の流れ物騒なんだけど、彼氏いなかったのも本当だし、及川のは、酔ったときに言われたあれで、本気じゃないと思うから生かしてあげてよ」
「じゃあ、あとでしばく」
「及川おつ」

花巻が及川の話を知っているなんて思いもしず予想外の爆弾投下に私まで目を見開いた。花巻は悪気はないのか相変わらずにやにやしている。

「岩泉、名前、おれら先中行ってるから」

松川の大人な発言に従い、花巻も及川も会場内に入っていく。ほとんどの人が受付を済ませたのか受付をしていた子たちも中に入ってしまったようで受付の場にも誰もいなかった。どうしようか、悩んでいると岩泉がさっきまで花巻が座っていた私の横に腰を下ろしたのでそれにしたがって、私も座る。隣同士、3人掛けソファの端と端とはいえ手を伸ばせば届く距離に岩泉がいる。

「俺さ、名前に連絡とれなくなったときくっそ心配した」
「ごめん」
「そのあと及川から言伝きいて何かあったわけじゃねーんだ、って安心した」
「ごめんね」
「さっき花巻がいってた名前が彼氏いなかった理由に、俺の事まだ好きだって思うんだったらこれから頑張ればいいと俺は思う」

岩泉の顔を見れず下をむいてスカートは握りしめてた私は岩泉の言葉で顔をあげ岩泉を見つめた。岩泉は冗談を言っているわけでもなくいつもと同じ真剣な顔で私を見て話していた。こんなときでも岩泉はいつも、まっすぐ

「私逃げたんだから、だめだよ」
「俺は別れたって思ってねーって言ったら?」
「そんなことある?」
「名前はいま俺を振るか?」

スカートを握りしめていた私のうえに岩泉の大きくてすこし骨ばった手を重ねられる

「そ、んなの、いじわる」

許されたとか許されていないとか、怒っているとか、10年ぶりの再会とか、そんなことどうでもよくて、わたしの10年がこの一瞬でこの岩泉のひとことで受け止めてもらえたような気がして、鼻がツンとして視界がぼやける。

「10年あいたぶん、忙しくなるから、覚悟しとけよ」
「10年分、甘えてもいいの?」
「仕方ねーから許してやるよ」

そういって岩泉は私の前にしゃがみこみハンカチを差し出してくれた。がさつで、ぶっきらぼうで不器用で、及川に対しては酷くて、誰よりも仲間おもいで、そんな彼のやさしさをたくさんもらった高校時代、勝手に逃げて負い目を感じた10年間、そして今日からまたこうやって、やさしさをたくさんもらって。差し出されたハンカチであふれ出そうな涙を拭って、差し出された手にひかれ、手をつないだまま会場前の扉に立つ。

「ねえ、すき、だいすき」
「同窓会おわったら俺んちな」

これから、ふたりで10年分埋めていけば、それでいいか。そんなふうに思わせてくれるのはこのひとだから。

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2017/6/10 岩泉一 happy birth day
 
 
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