水魚の交わり
△ こんにちは、愛情後。夢要素あまりなし。 ▽


週末の人の溢れた居酒屋に平均身長を越えた男2人に女1人、掘り炬燵の席に通されると席に案内してくれたお姉さんにいつものファンに向ける笑顔で及川が「とりあえず生3つお願いします」と言うと始めよりワンオクターブあがった声で注文を受けキッチンに戻って行くお姉さんを尻目に岩泉は舌打ちをして名前は溜息を吐きながら上着をハンガーに掛ける。

「名前今日も岩ちゃんの横なの?」

注文を伝えていた及川は二人に少し遅れながら着てきた上着をハンガーに掛け、自然な流れで岩泉の隣に腰を下ろした名前に声をかけると、岩泉は面倒くさそうな顔をした

「徹の隣に座るとファンにやられる」
「守るから隣座ってよ!」
「一のほうが安心感が…」
「お疲れ、くそ川」

半年ぶりくらいに顔を合わせたというのに3人の会話は高校時代と何も変わることのないテンポで繰り広げられていた。本当はもう少しばかり集まる予定だったが及川徹は顔が良いだけでなく仕事もできる男だったようで営業職に配属されてからは取引先の接待に忙しくなかなか時間がとれなかったようだ。

「そういえばさ、この間飛雄に会ったよ。相変わらずバレー馬鹿でむかついた」
「影山はやっぱりすげぇけどよ、教え方が下手だわ」
「でも優しくなったよね」
「え、2人飛雄とどういう関係なの!」

及川から発せられた懐かしい名前の人物に2人は最近会ったばかりだが、それを知っているのは2人のみで"面倒くさそうだから及川に黙っておこう"とその場で2人で話し合って黙っていたのだが話の流れでつい口から出てしまったら、想像通りの面倒な反応に岩泉は盛大なため息を吐く。

「この間俺んとこと練習試合の時に、影山が烏野に居たんだよ。帰省の時に烏野見に行ってるらしいぞ」
「あの飛雄が?」
「烏野のコーチ変わってねえからな、烏野はOBがよく来るらしいわ」
「社会人になってから余り行ってないかも」
「まあ普通はそうだろ。花巻と名前はやたら来るけどな」
「なにそれ、聞いてない!まっつんは?!」
「松川は仕事が早く終わったら来るくらいだな」

勢いよく流し込まれるビールはすぐに空になり「生追加で!」の大きな声に反応した店員さんが空のジョッキを引き取りに来る。及川は自分の知らないところで自分の知っているメンバーが顔を合わせていることに少しだけ嫉妬しているようで頬を膨らませては岩泉に舌打ちをされる

「名前は?」
「この間家に来たんだよ」
「どういうこと?!岩ちゃん知ってた?!」
「俺が住所おしえた」
「そして見舞いに来た」
「聞いてない」
「面倒くさそうだから黙っとこって一が」
「現にめんどくせえ」

溜息を吐き机の下からガツンと及川の足に自分の足を勢いよく当てると及川から悲鳴と文句が口を飛び出そうとするのを制するかのように岩泉が及川に説明を始めると、及川は言葉を飲み込んだ

「会った時に及川達は元気かって言われて名前は今風邪でくたばってるって言ったら見舞いに行きたいって言うから住所教えたんだよ。まあ勝手に教えたのは悪いと思ってる」
「住所はさておき、飛雄が来てくれて助かったよ。」
「名前の看病なら俺するし!」
「で、影山とは?」

真剣なのかふざけているのかわからない及川の発言を無視し二杯目のビールを飲みながら岩泉が核心に迫る言葉を発すると及川は返事を早く聞きたそうに名前を見た

「メールはしてるけど、なにもないよ」

成人した社会人の男女で昔から知っていてわざわざ押しかけてまで関係を繋いだとあれば何かあったのかと思っていたのだろうが、名前から出てきた言葉はソレを裏切るものだった。裏切られてよかった、安心したと安著のため息が漏れる。2人とも影山が嫌いな訳では無いが、知っている者同士のそういう話は今更ながらにもドキドキしてしまうようだ。

「いきなり付き合ったって言われたらびびってたわ」
「岩ちゃんお母ちゃんじゃん‥‥俺もだけど」
「何かあったら一には言うよ」
「俺は?!」

名前の岩泉贔屓が気に入らないのか何度も食ってかかってはしつこくて岩泉に足元をねらわれている及川は今夜も懲りないらしくまた同じやりとりを繰り返しているのを横目に名前は携帯を開き誰かにメールを送っていた。

「そういえばさ、徹明日休みなの?」
「そう!休みになった!」
「あー及川の随分出してねえから汚れてそうだな」
「じゃあ食べたら行こうか」

先日の影山が見舞いに来たという話に併せて北川第一時代と烏野時代の影山飛雄の話をしているうちに時間は結構たっていたようで、少しずつ注文した食べ物は少しばかり冷めていたがビールと共に食べれば関係ないようだった。
少し経てばすぐに平らげてしまい岩泉の「行くぞ」の声に続いて会計を済ませ店を出る。

「コンビニ寄るか?」
「うーん、スーパーの方がいいな」
「ちょっとまって!どこ行くのか教えて!」
「俺んち」
「泊まりで」
「あー、はい」

スーパーに立ち寄って食材を買い込み泊まりで岩泉の家に行くことを伝えれば納得したのか諦めたのか納得の返事だけが返ってきた。及川も岩泉も名前も久しぶりの気のしれた友人宅での泊まりがけで気分が上がっているのか、スーパーにつくと食材を選んでいる名前に対して岩泉と及川は目に入った気になる商品をどんどん籠にいれていく、金額など全く気にしていないようだ。飲み物もビールからソフトドリンクまでたくさんの種類を、歩いて持ち帰れる量いっぱい買い込んだ。
スーパーから岩泉の家まではそう遠くはなかったけどアルコールの入った体で重い荷物を持ち歩くはなかなか体にくるのか及川が「まだー?」なんて行っては岩泉に「だらしない」と挑発されてを繰り返していた。

「お、おかえり!」
「おつかれ」

エレベーターで岩泉の住む階まで上がり部屋への通路を歩み進めていると、部屋の前にはポロシャツにカーディガンを羽織スキニーパンツ姿の松川と、デニム調の七分丈のシャツにワークパンツを履いた花巻の姿だった。2人とも明日が休みのようで手には着替えが入ってそうな鞄を持っていた。
部屋に全員を入れればまるで自分の家かのように各々が自由に自分の荷物を起き場所を得る。名前は冷蔵庫に買ってきた食材をいれ岩泉は飲み物の準備をしていた。

「懐かしいね」
「まあな、なかなか会えねえもんだな」
「社会人って怖いね」
「でも、楽しいんだろ」
「はじめちゃんもでしょ」

キッチンからカウンター越しに3人を見ればテレビをつけ録画を漁りながら購入してきたおつまみとアルコール類を机に並べていた。

「あ!岩ちゃん影山の試合入ってるじゃん」
「まだ見てねえけどな」
「あー、プロだっけ?」
「いいじゃん、それ見ようぜ」
「えー!」
「弟子気になるだろ?」
「弟子じゃないしー!」

女3人姦しいとは言うものの男3人でも充分姦しく、その光景にキッチンにいる2人は顔を見合わせて笑いあった。

「影山とかナウいね」
「お前死後だろ」
「岩ちゃんに言われるとか
「まあ、でもなんか会ったらまた言えよ」
「ありがと」

お茶とグラスの準備も整いリビングに行くと、高校時代より少しだけ大人になった姿の5人が揃った。これから及川と岩泉と名前の後輩で、高校3年間を注ぎ込んできた最後の春高予選で戦い負けた相手の、プロになった影山飛雄の試合を見る。あの頃の悔しさを忘れたことはないが、戦った相手がこんなに大きな相手だったと、未熟だったとはいえ一度は買ったと思えば誇らしいやら哀しいやら嬉しいやら。選手説明の間に及川が影山と名前の話をして男4人はいろんな気持ちを交えテレビの中で活躍している人物に集中した、まだ5人の夜は長そうだ。
 
 
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