影山 ふたとき
「返事、少し待ってろ」

けたたましい目覚ましの音が部屋中に響き渡る。なんだ夢か、なんて最悪な夢なんだろう。こんな最悪な寝起きだというのに非常なことに時間は止まってはくれない、一刻一刻と学校に行かなくてはいけない時間になっていくし「夢見が悪かったので休みます」が通用するほど社会は甘くないし学校も甘くない、社会人じゃないんだからそれくらいの我儘学生のうちだけは許して欲しいとは思うものの学校が許しても親が許さないと思う、そんな理由で休んだ事がバレたらどんな顔で怒られるか、想像するだけで恐ろしい。親に怒られたくない一心で学校へ向かう

「げ」
「おい」
「おはよー」
「おう」

先ほど夢で出逢ったばかりの今1番逢いたくない相手に最初に会ってしまうなんて今日の運勢は最悪だ、姿を確認し気づかれなければまだなんとかなったのかもしれないが、直ぐに影山にも姿を見つけられてしまい思わず出た言葉は先ほどの"げ"である、失礼にも程がある。
今日の授業の内容や宿題、部活の話をしているうちに学校に着いてお互いに朝練に出た後に授業に出て放課後部活をする、なんてことない普通の日だった、朝夢を見てしまったこともお昼には忘れてしまう程に普通の日だった。

「飛雄のこる?」
「おう、待ってるか?」
「待ってるー」
「わかった」

日向も当然のように残るらしい、というより殆どの人が残っているから自主練なのか部活なのかよくわからない状況だ。得点版を片付け小物を纏め、とりあえず自主練で使わなさそうなものを片付けていると田中さんが近づいてきた、清水先輩は用事で帰られましたよ

「名前ちゃんさ、前から思ってたんだけど」
「付き合ってないですよ」
「えっ」
「昔振られましたし」
「ふられたあ?!」

内容を聞く前にまたこの質問か、と思う程に色々な人から投げかけられた質問だった、田中さんは付き合ってないことを告げると固まっていた癖に振られた事実を告げると叫んでしまった、これは私飛雄に怒られるかと思っていると飛雄がこちらに向かってくる、怒られる。

「ふられたのか?」
「はい?」
「おい!影山!忘れるなんて最低だぞ!」
「俺っすか?」
「名前ちゃんがお前に振られたって!忘れんなよ!」
「まあ昔のことだからいいんですけど」
「俺、振ってないっすけど」

何を言ってるんだろうこの王様は。月島くん風に言えば庶民の言葉と上流階級の言葉では全く違うと言うのでしょうか。田中さんも飛雄の言葉に固まってしまっている、いや、私もだ。

「まだ返事だしてないだけっス」
「まだ?」
「名前ちゃん何年前の話?」
「2年前ですね」
「振るどころか無視とか影山やべーな」
「及川さんに勝ってから付き合おうと思って」
「は?」
「は?」
「公開告白ー!!」

飛雄のちんぷんかんぷん発言に田中さんは日向の方に走り去っていったものの日向がこちらを気にしてチラチラ見ている、ごめんね日向、私もそれどころじゃないかもしれない。目の前にいる影山飛雄という男は何を言っているのかちゃんと聞かなくてはいけないから

「なんで徹?」
「お前が仲良いから」
「 え、そこ?」
「比べられたくない」
「比べないし」
「せめてバレーだけでも勝ってからにしようかと」
「ばかなの?」

確かに徹とは家が近いし烏野進学決まった時は怒られたし一くんと徹にはよく構ってもらってるけど、好意の話はまた別だというのに、飛雄の言い分を聞けば聞くほど馬鹿なのかなって気持ちが膨らんで遂には口から出てしまった、勿論飛雄は日向に言うように"あ?"なんて口で入っているけども少しだけ気まずそうで視線も合わせてはくれない

「イケメン徹よりも飛雄の方が好きだったのに」
「いまは」
「‥今も」
「でも、俺両立とか多分できね」
「しってる、たまに休みの日遊んでくれたらいい」
「及川さんの彼女の人たちみたいに言わないのか」
「言わない、しってるから」

北一バレー部の皆がしってる「バレーと結婚したら?」は及川徹が彼女に振られる時に決め台詞第1位である、ちなみに2位は「思ったより面白くない」
きっと飛雄にはそれがトラウマだったのかもしれない、確かに1年の頃からあの姿を見ていればトラウマになるのもわかる、でも私は勝つことに必死な飛雄もバレーを楽しんでる飛雄もすべて好きで

「待たせた、悪い」
「本当にね」
「あ?‥おねしゃす」

手を差し出す飛雄の手を握り返すと顔を背けられてしまったが、下からはすべて丸見えで耳まで赤くして少しだけ口角があがっているのを見たらジワリと胸が暖かくなっていくのを感じた。
2年は長かったよ、とぼやきたい気持ちはあったが今はこみ上げてくる幸福感に身を任せたい。
 
 
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