「臨也が私に乱暴したって言ったら、静雄は貴方の事を殺してくれるかしら?」
 
横たわる彼女が不意にそんな事を言い出すものだから、俺は思わず手を止めて、伏せていた顔をあげた。顔色一つ変わっていないその様子に苦い笑みを浮かべて見せるも、その視線をどこか遠くへと向けている彼女がそれに気付く事はないだろう。その名を耳にしただけで俺の気分はかなり害されてしまったのだが、自然な風を装って顔の位置を彼女の上へと移動させる。
 
「さぁ、どうかな。少なくとも尋常じゃ無い怒り方はするだろうけど、そう易々と殺されるほど、俺も間抜けじゃないしね」
「そう。じゃあ、私が貴方と浮気してるって話したら、静雄は私の事を殺すと思う?」
 
なおも淡々と言葉を紡ぐ彼女の真意を虚ろなその表情から読み取る事は、中々に至難の技だった。仕方無く、拭った手を彼女の頬へと添えて顔をこちらへと向けてやる。漸く視線が交わった事に、何故だか安堵に似たものを覚えた。
 
「俺としては非常に喜ばしい事に、精神的にはかなりダメージを与えられるだろうね。それでも、君を手にかける程の勇気は無いんじゃないかな」
 
絡み合っていた視線は、やがて彼女がそっと瞳を閉じた事で途絶えてしまう。それを不満に思いながら、その瞼の上へと軽い口付けを落とし、徐々に耳元へと降りて行く。
 
「君は、シズちゃんの事を一体どう思ってるの?」
 
わざと囁くように問い掛けてやると、耳にかかる吐息がくすぐったかったのか、彼女が小さな身震いをした。そんな些細な反応にも優越感を感じてしまうなど、俺も大概どうかしていると思う。けれどそんな思いを知ってか知らずか、彼女の発した答えに俺は眉を顰めざるを得なかった。
 
「あいしてる」
 
呆れた振りをして、ありったけの嘲笑の意を込めた笑みを浮かべながら身を起こす。彼女の瞳は既に開かれ、真っ直ぐに俺を捉えていた。
 
「俺とこんな事をしておいて、よくそんな言葉が言えるね?まさか嫌々やってるなんて言わないよね、君の方から誘って来たんだからさ」
「うん、解ってる」
 
じゃあどうして、なんて下らない言葉を吐くつもりは無いが、理解出来ないという気持ちは募る一方で、俺はますます不愉快な気分になっていく。少しばかり乱暴に愛撫を再開させると、彼女の表情が僅かに歪むのが見えた。白い肌に顔を寄せながら、最後に一つだけ問い掛ける。
 
「なら君は、シズちゃんの事を、どうしたいの?」
 
その答えは彼女自身にも解らなかったのか、それとも適切な表現を模索していたのかは解らないが、珍しく彼女は言葉を発するまでに時間を要した。けれど、やがて弾き出されたその結論は、少なくともこれまでに積もった俺の不快感を一気に払拭するだけの効果はあったようだ。
 
「壊したい」
 
俺は満足気に口元を歪めて、彼女の肌へと唇を添えた。
 
 

110605
title by 虚言
 
 
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