ちっぽけな私がいくら必死に願ったところで、無情にも時はその速さを変える事無く進んで行く。って、時間に情も何もあったもんじゃないか、なんて、ちょっと哲学チック?とか思っちゃったり。…馬鹿みたい、だなぁ。昨日の夜は眠れないまま明けてしまうんじゃないかとも思ったけど、結局は泣き疲れていつのまにか寝てたし。私にとって失恋ってその程度の物だったのかな。そんな鬱々とした私の気持ちとは裏腹に窓の外は苦々しい程の快晴。こんな陽気の日に傘を持ち歩いて周囲から好奇の目を向けられる自分の姿を想像したら、ますますうんざりとした気分になる。土方君も同じ事を考えて、傘を返すのは後日って事にしてくれたら良いのに…でも、土方君は真面目だから、きっとそんな事お構いなしにちゃんと返してくれるんだろうな。いや、そういう所も好きだったんだけどね…うん、好きだったんだ。……あー!やだやだ、考えたらまた涙出て来ちゃったじゃん!顔洗いに行こう、でもって歯を磨いて朝ご飯食べて…ちゃんと学校、行こう。
 
「え?え…?」
 
教室に着いた途端、早速土方君から声を掛けられた…までは想像してた通りだったんだけど、今の状況はどういう事?どうして土方君じゃなくて、沖田君のお姉さんが私に傘を返してくるの?え、あ、ミツバさんって言うんだ。昔の人が名前はその人を表すんだとかなんとか言ってたけど、今なんとなくその言葉が解った気がします。…じゃなくて、どういう事?傘のお礼のお菓子って、私とお近付きになりたいって……あぁ、そっか、そっか。ミツバさんは最近転校して来たばっかりで、まだ知り合いが少ないんだ。そういえば土方君達って、小さい頃は地方に住んでたって聞いた事があった気がする。ミツバさんは最近こっちに引っ越して来たんだ。その上、土方君と付き合ってる事を知ってるのは今のところ私だけだから、色々相談に乗って欲しいとか、そういう事なのかなぁ…。……やだ、なぁ。ミツバさんの嬉しそうな顔を見てると、土方君の話しが出て来ると、ズキズキって胸が痛いよ。羨ましくて悔しくて悲しくて、頭がおかしくなっちゃいそう。お願い、止めて、止めて。
 
「…私も、土方君の事が好きだったんです。ずっとずっと好きだったんです!あの時、本当は傘を貸す気なんてなかった、私が一緒の傘に入って帰りたかった…ッ!貴女の為じゃないんです、貴女の為になりたかったんじゃないんですッ!!」
 
溢れ出した言葉が止まらなくて、堪えてた涙も零れ落ちて、もう訳が解らなくなった。気付けば私はその場から駆け出してて、国語準備室に飛び込んで思いっきり泣きじゃくってた。いつも銀ちゃんがサボるのに使ってる事で有名なこの教室に人が来る事なんて滅多になくて、一時間目が終わった頃に銀ちゃんが心配して探しに来てくれた。教室から少し離れた廊下で話してたのに、私が大声を出したせいで教室まで聞こえてたらしく、銀ちゃんに連れ戻される格好で入ったクラスの空気が凄く居心地の悪いものに感じられて、取り分け土方君と沖田君の視線が痛かった。もう嫌だ、二時間目が終わったら気分が悪くなったって言って帰ろう。……それから一週間、何かと理由を付けて学校を休んだ。神楽やお妙ちゃんから何度も連絡があったけど、風邪を引いたって言って殆ど無視してたら、とうとう家にまで押し掛けて来られた。こういう時、本当に3Zの皆の行動力は凄いとつくづく思う。疎ましく思いながらも、嬉しかった。心配してくれた事が。けど、話しに一段落がついた時、急に二人の顔が暗くなったような気がして。
 
「…何か、あった…?」
 
その問い掛けに返って来た言葉に、私は…
 
 
無情にも、時は戻らない
 
 
ごめんなさい、知らなかったんです。ミツバさんが病気を抱えている事も、過度のストレスがそれを悪化させるって事も、あの後ミツバさんが私の事を気に病んで、深く深く悩んでくれていた事も、…今日、発作を起こして亡くなった事、も。ごめんなさい、私は何も、知らなかったんです。
 
「姉上が死んだのは…全部アンタのせいでさァ」
 
冷たい目をした沖田君の言葉に、私はただ、涙を流す事しか出来ませんでした。
 
 

101121
 
 
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