「名前さーん!たっだいまー!」
「正臣。久し振りじゃない、元気してた?」
「名前さんに会えなかったから俺、もう毎日が憂鬱で仕方無くて!そのうち寂しくて死んじまうじゃないかとすら思ったよ、まるで一人ぼっちで可哀想な程に震えているウサギみたいな俺…!という訳で名前さん、会えなかった時の分まで大人の女性特有のその暖かな包容力で優しく俺を包み込んで慰めて!」
「ごっめーん、さっき急に仕事出てくれって言われちゃって。正臣が来るとは思わなかったからOKしちゃったんだよねー」
「そんな!俺は名前さんに会いたくて会いたくて仕方が無くて、寝ても覚めても名前さんの事ばっかり考えてたっていうのに、今日俺がここに来るって事すら名前さんには届いていなかったなんて…!あぁ、なんという悲劇!」
「調子良いんだからー。ずっと連絡して来なかったのは正臣の方だよ?どうせまた他の女の人の所行ってたんでしょー」
「いやー、世の女性達が俺の事を離してくれなくって!え、何々?もしかしてもしかしなくてもヤキモチ焼いてくれちゃったり!?」
「それはないかなー」
「手厳しい!」
 
学校帰りにそのままこちらに寄ったのだろう、慣れた様子で部屋の隅へと鞄を降ろせば、甘えるような動作で私の肩へと後ろから両手を回す。鏡に映る私の顔を正臣が覗き込む。
 
「化粧した時の名前さん、俺の好みどストライク!って感じなんだよなぁ。他の男共に名前さんがその魅惑的な唇で美しい弧を描いたパーフェクトスマイルを振りまいてると思うだけで、俺はもう心が張り裂けそうだ…!あぁ、俺がもっと頼りがいのある大人の男だったなら、生まれるのが後数年早かったなら!名前さんに夜の仕事なんて絶対にさせたりしないというのに!」
「大袈裟だよねぇ、正臣は。私が好きでやってる事だから気にしなくていーの」
「…、…好きで、じゃないだろ」
 
不意に低く呟かれた言葉に、私は手を止め鏡越しに正臣の顔を見る。
 
「正臣」
「名前さんが昼も夜も必死になって働いてるのは、自分の為じゃなくて全部―…!」
「正臣」
 
少し声を強めて名前を呼べば、はっとしたように口を噤む正臣。項垂れる様に肩を落とし、申し訳なさそうな表情を浮かべる。
 
「ルール違反だよ、正臣」
「けど…」
「お互いの事には深く触れない、私達は互いが互いを代用品として利用し合う関係、そうでしょ?」
「……ごめん。でも俺やっぱり、あの人だけは納得出来ねぇ。どうして…どうして、臨也さんなんですか」
 
縋る様に力の込められた正臣の腕を、そっと解いて抜けだした。
 
「正臣にとって沙樹ちゃんが特別なように、私にとっても彼は特別なの」
「いくら名前さんがあの人を想ったって、あの人は絶対に名前さんを幸せになんかしちゃくれない」
「それでも良いの。いつか彼が誰かの温もりを求めた時、私が彼の一番近くに、傍に居てあげられたら、それで十分なの」
「そんなの、来るかも解らなければ、あの人が名前さんを選んでくれるのかも…!」
「正臣」
 
鞄を手に取り、靴を履く。振り返って見た正臣の顔はとても悲しそうだったけれど。
 
「ごめんね、もう行かなきゃ。帰る時に鍵、締めて行ってね」
 
そのまま外へ出て、ドアを閉めた。ねぇ、正臣。貴方のその言葉が、
 
 

110112
 
 
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