数多の屍が横たわる戦場跡。真っ赤に濡れた衣が、重い。やがて精も根も尽き果てた身体がその場へと倒れるのに、そう時間は掛からなかったと思う。けれど、何故かそれは酷くゆっくりと感じられて。最後の記憶は、視界の端に捉えた、赤い、
 
「…か、さ」
「あ、気が付いた?」
 
ぼんやりとした視界に広がる、赤。ここはまだ戦場なのだろうか。そんな事を思うよりも前に、だとしては似つかわしくないような、明るい声が聞こえた。徐々にはっきりとしていく意識の中で、それは赤い傘を持ちながら私を見下ろす誰かの声である事を理解する。
 
「これ、君が一人でやったの?」
 
仰向けに横たわる私に指し示す為か定かではないが、そう言いながらその人物は事も無げに足下に転がっていたのだろう骸の首を蹴って見せた。まるで毬でも蹴る様に。首は弧を描くようにして私の視界を過った後、鈍い音を立てて落ちた。その首に貼りついていた断末魔の表情を捉えても、何ら私の心が動く事はない。ただ、問い掛けに答えようにも声が出ず、首を振る力さえない事だけが、もどかしく感じられた。
 
「近くで大きな戦があるって聞いたから、わざわざ寄ってみたのにな」
 
しかしその人物はさして気にするでもなく残念だと零す。もとより答えなどどうでも良かったのかも知れないと、勝手ながらも結論付けてしまえば、気の緩みと共に再び意識が沈むのを感じた。この場にあるまじき異様な存在を前に、こうも落ち着いていられるのは何故だろう。
 
「それならそれで、君と戦えば良い話しだけど」
 
あぁ、そうか。異常な程の殺気に包まれて、避けられない死を前にした絶望、諦め、覚悟。もしくはようやく生を終える事が出来るという安堵故、か。意識を手放す時に見たのは、眼前に迫る赤と、
 
 

090805
 
 
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