冬場の朝は、空気が肌を裂いてしまいそうな程寒い。毎年の経験から多少は身体が慣れているとはいえ、深々と冷え込んでいく日々に、少しずつベッドから這い出るのが億劫になる。暖かい毛布に肩まですっぽりと包まりながら、より一層の熱を求めて隣で眠るリヴァイへと身を寄せれば、気配で目覚めてしまったのか、はたまた疾うに目覚めていたかは定かでないが、先程まではお腹の上へと力無く乗せられていた腕に力強く腰を引き寄せられた。
 
「おはよ」
「……あぁ」
 
胸にぴたりとおでこをつければ、彼は私の髪へと鼻先を寄せるように小さく身動ぎする。そうして二人寄り添ったまま、心地良い微睡みに身を委ね、再び夢の世界へと旅立ってしまいたいという欲望に駆られるのもまたいつもの事であるけれど、甘い誘惑に負けじと今日も葛藤する。
 
「そろそろ起きないと」
「まだ時間はあんだろ……」
「そうやってまた私が寝ちゃった後、一人置いてくつもり?」
 
ゆっくり寝かせてやりたかった、なんて尤もらしい理由をつけて。寝坊した私が、後でハンジやエルヴィンにからかわれるのもお構い無しなのだから。
 
「起きねぇ方が悪い」
「だから今起きるって言ってるの、ほら」
 
腰に回された重たい腕を何とか引き剥がして、毛布を纏ったまま身体を起こす。必然的にリヴァイの上へと掛かっていた分まで取り上げる事になるので、冷たい外気に晒されたその身が微かに竦むのが見えた。彼に風邪をひかれてしまうと困るのは私だけでは済まないので、直ぐに奪ってしまった毛布のうち一枚を返しておく。そうしてベッドを降り、何よりもまず熾火になってしまったストーブに薪をくべる。火が盛んになるにつれて部屋の温度も緩やかに上昇し、そこで漸く毛布の束縛から解放されるのだ。
 
それでも、まだ熱の届き切らない浴室周辺で息を吐けば白く煙る。起き抜けは確かに辛いのだけれど、この冷たい空気は嫌いじゃない。水も凍るような温度だが、お陰で先の眠気など何処へやらだ。顔を洗い、歯を磨き、髪を整え終えたところで、一向にこちらへとやって来ないリヴァイに疑問を覚え部屋へと戻れば、彼は未だにベッドにその身を横たえていた。具合でも悪いのだろうか。そんな不安が過りもしたが、私が既に起きている分、自らはギリギリまで浅い眠りの縁を彷徨い続けるつもりらしい。私の想像を裏付けるように、平素の険しさや鋭さが抜け落ちた双眸は、私の怪訝な表情を捉えた時、穏やかに細められたのだった。
 
いっそいつぞやの仕返しをすべく、リヴァイが再び寝入ったところでこっそりと部屋を出て行こうか。そんな考えが浮かびはしたものの、彼がそのように浅はかな策に掛かる筈も無いと早々に諦めて、着替えを済ませるべくクローゼットへと向かう。けれどその途中で、外の景色がやけに明るく輝いている事に気付く。温度差により曇った窓を拭うと、その先には丸一年振りとなる白い雪景色が広がっていた。毎年見ている光景とはいえやはり感慨深いものがあり、思わず窓を開け放てば、当然ながらそれまで蓄えられてきた室内の熱は急速に失われて行き、替わりに凍てつくような風が入り込んで来る。ふわりと舞った粉雪が、瞼の上へと落ちて溶けた。
 
「……風邪でもひきてぇのか」
 
咎めるような声と共に、背中へと僅かな重みが加わる。同時に回された腕によって、私は再びリヴァイと毛布に包まれる。首だけを動かしその顔を見やると、呆れ混じりの視線を向けられた後、瞼に小さな口付けが落ちてきた。
 
「寒ぃから閉めろ」
「初雪なのに?」
「これから嫌ってほど降るだろ」
「それはそうだけど」
 
今日は特別な日だもの。そう言って軽く身を捩り、互いに向き合う形となる。腰に軽く腕を絡めても一向に思い当たる節が無いのか、眉間に僅かな皺が寄るのを目にし、仕方が無いと思わず苦笑する。
 
「貴方が生まれて来た日の朝に、心からの感謝を」
 
軽く背伸びをし、そっと唇を重ねれてみれば、少しばかり驚いた顔。祝福は夜にね、なんて冗談交じりに付け加えたところで力強く抱き寄せられて、その表情は見えなくなってしまったけれど、痛い程の抱擁から答えを想像するのは容易い。
 
「……後悔するなよ」
 
言葉とは裏腹に余裕なんてものは感じられず、震えてこそいないけれど、如何してか頼り無く思える背中に腕を這わせて、優しく抱き締め返す。リヴァイとてただの人の子なのだと、彼自身に教えてくれるこの日が、他のどんな日よりも尊い気がした。

 
 

title by 家出
141226

 
 
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