委員会のせいで帰りが遅くなった。もう少し早ければ雨が降りだす前に帰れたのに…ま、今朝は珍しく早起きしてバッチリ天気予報見てきたから、傘はちゃんと持ってきてあるんですけどねぇ。昇降口には朝の快晴にだまされた人達がちらほら。いつもなら私もその一人だけど、今日は違う。私は勝ち組なのだ。せいぜい羨ましげな目で見送るが良い!…って、あれ?あそこに居るのって、もしかして土方君?やや、やっぱりそうだ!あの後ろ姿は間違いない!伊達にいつも目で追ってる訳じゃないんだから。そう、私は同じクラスの土方君に片想いをしてるんだけど、なかなか話し掛ける事が出来なくて、今までずっと見つめる事しか出来なかったんだ。でもでも、今は絶好のチャンス!周りに知ってる人は居ないし、自然に話し掛けられる口実もある。良かった、早起きして!良かった、おは●タじゃなくニュースなんかつけといて!早起きは三文の得何ていうけど、あれって本当なんだ。明日から頑張ってみようかなー。っとと、こんな事考えてる場合じゃなかった。うかうかしてたら他の人に先を越されちゃうかも知れないんだし、勇気を振り絞って!
 
「あ、あれ?土方君、どうしたの?誰か待ってるの?」
 
あぁっ!ちょっとわざとらしかったかも!土方君も少し驚いて曖昧な答え方してるし…も、もしかして私、土方君に名前すら覚えられてなかったりして!?あ、良かった、ちゃんと覚えてくれてたみたい。そうじゃなかったらちょっと、いやかなりショックだったよ。うん、そうそう。私も委員会で遅くなっちゃって。よし、ここでさり気なく、
 
「もしかして、傘、忘れちゃったの?よ、良かったら…」
 
あ、れ?今後ろの方から、十四郎さんって呼ぶ声が聞こえたような…?十四郎って、土方君の名前だよね。なんでその人は土方君の事を名前で呼んでるの?土方君に付き合ってる子は居ないはずでしょ?いつも見てたけど、そんな事一度も…、それにさっきも誰かを待ってる訳じゃないって。…あぁそっか。周りには秘密にしておきたかったんだ。へぇ、その人沖田君のお姉さんなんだ。それじゃあ秘密にして置かないとね、土方君ってば沖田君としょっちゅう喧嘩ばっかりしてるもん、お姉さんと付き合ってるなんて知られたら何言われるか解らないしね。そっか、だからさっき、曖昧な答え方をしてたんだね。同じクラスの私が声なんか掛けてきたから、困ってたんだね。本当は、置き傘を取りに行ったその人を待ってたんだ。でも、やっぱり無かったんだって。どうしようか。…そこで、どうして話しを戻すかなぁ。そんなの、
 
「あ、よ、良かったらこれ使って?私、教室に置き傘あるから」
 
としか言いようがないじゃない。だってここまで聞いちゃってから何でもないなんて言って、目の前で傘差して帰っちゃうなんて、印象悪いでしょ。今さらそんな事言ったって仕方ないって解ってるけど、それでも、嫌われたくはない、よ。…あーあ、お気に入りの傘だったんだけどな。それを使って、好きな人が別の人と相合傘して帰ってくのを見送るなんて、悲し過ぎるよ。彼女が濡れないように傘を持ってる土方君、優しいなぁ。自分は半分くらい出ちゃってるのに。きっと明日には、ありがとうって言ってその傘を返してくれるんだろうけど、もう使えそうにないよ。それから、秘密を知ってる仲って事で、前よりは少し仲良くなれるのかな。あんまり嬉しくないなぁ。それよりも、私はどうやって帰ろう。雨、さっきよりも強くなってるし…ついてない。傘を忘れた他の人達は、もうとっくに帰ってるけど、私はもう少しここで雨宿りをして行こう。
 
 

090810
 
 
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