それからというもの、雨の日はタオルを一枚窓辺に置くのが私の習慣となった。綺麗好きなその猫の為に、必ず洗ってからきちんと干した物を使う様にしている。私が家に居られる時は相変わらず窓を少しだけ開けてみたのだけれど、まだまだ室内へと足を踏み入れてくれる気配は無さそうだ。試しに餌でも置いてみようかと思ったが、それではあまりに露骨過ぎる。取り敢えずはタオルを気に入ってくれた様子であったので、それで良しとする事にしていた。そんなある日の事。
 
その日は朝から一日中雨が降り続き、夕方には強い風も吹き始め、夜には窓に叩き付ける程酷くなっていた。普段、雨脚の強い日はここよりも更に雨の当たらないような場所へと避難しているらしい猫は、出て行くタイミングを掴み損ねてしまったのか、私が仕事から帰って来た時も何処か落ち着かない様子で窓辺に座り続けていた。タオルもすっかり濡れてしまい、本来の役目を果たせていない。見るに耐え兼ね、私は窓に歩み寄る。その気配に気付いた猫がすぐさま振り向くも、構わず窓を開けて一言。
 
「入りなさい」
 
それだけを告げた。猫は切れ長の瞳を細め、探るようにじっとこちらを見詰めている。私達の間に奇妙な沈黙が流れる間も、雨はお構い無しに振り続け、部屋の中まで濡らし始める。もう一度同じ言葉を繰り返そうと口を開き掛けたその時、猫は静かに腰を上げ、私の足元をすり抜ける様にして室内へと入り込んだ。それを確認し、私は窓を一旦閉める。猫は私から距離を取るように少しばかり離れた位置に佇んでいたものの、部屋の奥にまで踏み入るつもりは無いらしく、私が窓辺を離れた所でカーテンのすぐ傍に戻り、そこに落ち着く事に決めたようだ。私は真新しいタオルを用意し、猫の近くへと置いてやる。ついでに温かなミルクでも用意してやろうかと思ったが、そこまではお節介だと嫌われそうだったので、止めておいた。普通の猫がそんな事を思うのかは解らないが、この猫ならばそれもあり得る気がする。
 
その後も雨は一晩中降り続き、雨脚が弱まったのは翌朝の事だった。猫をその場に残したまま眠りにつく事は聊か躊躇われもしたが、朝になってもその場を微動だにしなかったらしい様子を見て、何と無く杞憂であった事を実感する。私の存在に気が付くと、猫は腰掛けていたタオルの上から降り、窓を爪で軽く引っ掻き始めた。さも開けろと言っているかの様子に多少驚きはしつつも、促されるままに窓を開けてやると、猫はするりと外へ出て、いつも通りの場所に再び座り込む。私も仕事がある為、そのまま窓を閉め、朝食等の準備を済ませて家を出る。昼過ぎには降り続いていた雨も止んでいた為、帰ってみると当然の如く猫の姿は無くなっていたが、それでも私は、確かな満足感を得ていた。

 
 

 

【淫雨】 ながく振りつづいている雨
140316
 
 
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