「いやー大量大量!式杜人って良い奴等だよなぁ!こんなにお土産くれるんだからよぉ、だっはっは!」
 
キクチヨさんの言葉の通り、式杜人からは多過ぎる程の物資を受け取った。水や食料、毛布などは勿論の事、私が見ても良く解らない部品や工具などもある。それらの大荷物は全て、どの様な地形でも数メートルほど宙に浮いたまま滑る様に走る事の出来る、機械で出来た大きな大八車に積まれ、私達もそれに乗って移動する事になった。これもまた式杜人が提供してくれたもので、普段は蓄電筒を運ぶ為に使うという。
 
「おぉ、キクの字の肩より高いです!」
 
そう言ったコマチちゃんの言葉を聞いたキクチヨさんが「こっちの方が高いぞー!」と言ってコマチちゃんを肩車しながら走り始めると、その重さに釣られて荷台が大きく左右に揺れる。荷物はしっかりと縄で固定している為に動く事は無かったが、私は転ばないようにと必死に車体にしがみ付くので精一杯だった。前方にある操縦席は荷台とは別になっているのか、まるでそこが軸になっているかの様に殆ど揺れていない。そちらに乗れば良かったと軽い後悔を感じている間に、近くへとやってきたヘイハチさんが不思議そうに言った。
 
「何者なんでしょうね、式杜人」
「サムライだ」
 
それに逸早く答えたのは、珍しい事にキュウゾウさんだった。私は二つの意味で驚く。
 
「野伏せりになる代わりに、刀を捨てた者達、か」
「あー、やっぱりねぇ。通りでこんな物を大量に持ってる訳だ」
「意外と調子の良い奴らですな。目端の効く商人と変わりゃしませんね」
 
カンベエさんの言葉にヘイハチさんが納得した様な声を上げ、シチロージさんがそう言う。私は傍らに居たゴロベエさんに尋ねてみる。
 
「式杜人の人達は、梟や鎧のような機械のサムライだったって事ですか?」
「うむ、中には雷電や紅蜘蛛といった大型の者も居るやも知れぬな」
「え?あの…戻れるんですか?その…人間に…」
「簡単にとはいかんが、無理ではない。但し、弊害もある。四六時中天井から逆さまにぶら下がり、木の汁しか口に出来なくなるというのも、恐らくはそうした理由からだろう」
「そう、ですか…」
 
成程、と思いながらも、私は僅かばかり肩を落とす。どうした?と問われても答える事は出来ず、何でもないと軽く首を横に振る。もしかしたら紅によって機械となってしまったこの身体も、元に戻す事が出来るのではないかと、一瞬そう思ったのだけれど、やはり人を機械に換えるというのは生半可な事ではないらしい。
 
やがて洞窟の外へと出る頃には、操縦係がシチロージさんからヘイハチさんへと交代していた。ボートといいこの大八車といい、なんでもそつなくこなしてしまうシチロージさんも凄いと思ったが、鋼筒すら乗りこなすヘイハチさんの運転は流石としか言いようが無い。式杜人の大八車なんて、中々触れられる機会が無いのだろう。ヘイハチさんは何処か嬉しそうですらあった。
 
「あー!長ぇ穴倉だったなぁ!」
 
後ろの方でキクチヨさんが清々したとばかりの声を上げながら肩や首のこりをほぐすかの様に動かしている。
 
「オラお腹空いたです」
「まぁ、また?」
 
コマチちゃんの言葉に、洞窟の途中で軽い昼食を取ったばかりなのにとキララさんが笑う。そんな様子をサナエさんが静かに眺め、リキチさんは気まずそうな面持ちでサナエさんの横顔を見詰めている。出来れば何か声を掛けたかったけれど、ここへ来るまでの間、私はサナエさんと言葉を交わす機会が無かった為、このタイミングで何を言えばいいのか解らない。そんな事を一人でうんうんと悩んでいる間に、前方に村があるというカンベエさんの声が聞こえ、私は意識を移す。視線の先には岩に囲まれた窪地に広がる鮮やかな緑が見える。都の情報を集める為、サナエさんとリキチさん、キュウゾウさんを大八車に残し、私達はその村を訪ねる事にした。
 
 
 
「御天主様なれば、既に立ち寄られて居るが」
 
カンベエさんの問い掛けに、その村の警護役を務めているらしいサムライが答える。村人の何人かも、物珍しげに集まっている中、カンベエさんは質問を続ける。
 
「いつだ」
「一昨日の事だが…ははん、さては御同輩、いづれかで我らの話しを聞きつけたのだな?」
 
解ったぞと言わんばかりのサムライに、私達は思わずきょとんとした顔を浮かべる。サムライはそれに構わず言う。
 
「御天主様より、警護役の仕事を賜ろうというのであろう。急いだ方が…」
「違う違う!俺らはよぉ、天主をぶった斬りに行くのでござる!」
 
その言葉を遮って、キクチヨさんが威勢良く声を上げた。皆が一様に驚いた表情でキクチヨさんを見やる中、シチロージさんが額に手を当てて「あちゃー」と小さく呻くのが聞こえてくる。それもその筈、現にサムライや村人達は、一拍置いて盛大に笑い始めた。キクチヨさんとコマチちゃんにはその理由が解らない様子で、何が可笑しいんだと首を傾げている。
 
「いやぁ、これは御無礼。あまりに突拍子も無いこと故、つい…失敬」
「おんもしれぇ事言うおサムライ様だなぁ」
 
そう言って尚も笑い続けるその人達に対し、ついにキクチヨさんは大太刀を突き付けながら「笑うな!」と吠える。
 
「ウキョウは仏の振りをした悪党だぁ!」
「キクチヨッ!」
 
勢い良く大太刀を振り降ろそうとしたキクチヨさんの手を、カンベエさんが咄嗟に抑える。「だってよぉ、コイツら…」と半べそをかくような声でカンベエさんに文句を言うキクチヨさんに対し、サムライは警戒心を露わにして腰の得物に手をかけている。この雰囲気のままでは不味いと感じ取ったカンベエさんとゴロベエさんは、瞬時に場を取り繕うかのように、努めて明るい声を出す。
 
「この男、ちと壊れておってなぁ。関わらぬ方が良いぞ」
「何ィ!?」
「このお馬鹿。叩き斬るのは天主様では無く、天主様を困らせている野伏せりだと何度も言ったではないか」
「は、はァ!?」
 
二人の言葉に戸惑う様子のキクチヨさんがこれ以上何かを言ってしまわない様に、私はカンベエさん達の後ろに隠れながらこっそりとキクチヨさんの袖を引く。言い返そうと口を開き掛けていたキクチヨさんが拍子抜けしたようにぐるりとこちらへ顔を向けた時、私は自分の口元に人差し指を立てて黙っている様にと示す。何とかそれを察してくれたらしいキクチヨさんは、納得がいかないと憤慨したように噴気孔からぶしゅっと白い煙を吹きながらも、口を閉ざしてくれた。
 
「では、我らは先を急ぐ故、これで失礼する。仕事が無くなっては堪らんのでな」
 
最後にカンベエさんがそう締め括ると、何処か釈然としない様子だったサムライや村人達は納得したかのように緊張を解いて、早く行くようにと言った。その際、都についたらついでに御殿医に頼んで直して貰うと良いと言われたキクチヨさんがまた怒り出しそうになったのを何とか抑え、私達は大八車へと戻った。
 
 
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