「蝶の羽ばたきが、遠く離れた場所で竜巻起こすって話し、知ってる?」
 
鮮やかな色をした風車を、それに比べて劣らぬ色の紅で彩った唇で吹いて居た彼女が急にそんな事を言い出したもんだから、あたしはその姿に魅入っていた事を悟られぬよう取り繕うのに必死でした。
 
「いいえ、初めて聞きやした」
「ほんの小さなズレが、将来の結果に大きな差をもたらすって事だったかな」
 
なにが可笑しいのかは解りませんが、フフッと笑いを溢した彼女のその吐息も、これから遠く離れた場所とやらで風になるんでしょうかねぇ。そんな事を言い出したら、おちおち外も歩けねぇやと茶化してみても彼女は益々笑みを深めるもんだから、あたしは観念してその話しを切り出した訳を聞いてみたんでさぁ。そうしたら彼女は何と言ったか解りやすかい?
 
「一輪の花を植える事で、焼けた荒野に緑が戻って、一粒の涙を流す事で、乾いた土地に雨が降って、一人が笑顔になる事で、皆が笑顔になれたなら、この世から戦なんて無くなるとは思わない?」
「それは、」
 
なんて素敵な夢物語。そんな言葉は言わずに置きましょう。あり得ないことだなどというのは目の前に居る彼女自身が一番よく理解していることだろうから。あたしはかわりに、苦笑を交えてそれに答える。
 
「さぞやあのお人にとってはつまらない世となってしまいましょうな」
 
だって貴女が望むのは世界の平和なんてものでは無いんでげしょ?その目にはいつだって、紅色しか映っちゃいない。彼女は困ったように「そうかも」なんて笑って、また風車をくるくる回す。その鮮やかな赤色が、あたしゃ憎くて堪りませんよ。彼女が望むその色は、もうここにはいないというのに。
 
 

 
 

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