「へいちょおぉぉぉ!!」
 
がったーん!と盛大な音を立てて兵長の部屋のドアを開け放つ。リヴァイ兵長は愛の力で私が来ることを予想していたらしく、然程驚いた様子も無く机越しにいつも通りの、いやいつもより三割増しくらい険しいお顔をこちらへと向けていらっしゃった。
 
「おい、もしかしなくとも今ドアを蹴り開けやがったか?」
「へいちょおぉ!納得出来ません!どうしてですか、なんでですかあぁっ!」
「黙れ、そして人の話を聞け」
 
バンッ!と音を立てて机に両手をつき勢い良く身を乗り出す私とは逆に、兵長は椅子の背凭れに寄り掛かって私から身をひき、机の上へと片足をあげられたかと思うと靴底で私の顔面を踏むようにして押さえた。ぶふぅ!ちょ、流石にこれはあんまりじゃなかろうか!
 
「兵長!女の子の顔を踏むなんてあんまりです!将来のお嫁さんが傷物になっちゃったらどうするんですか!」
「少なくともそれはお前ではねぇから問題無い」
「はっ!つまり傷があろうが無かろうが貰ってやるって事ですね!?って今はそんな事じゃなくてえぇぇ!」
 
いやそれも大事なんですけど!と言いつつ顔面に押し付けられた兵長のおみ足をずらさせて頂き、改めて真っ直ぐに兵長の鋭い目と向き合う。その視線は私への慈しみに満ちていて、面倒くせぇとかうぜぇとかうるせぇとかそういう感情は一切無い、一切無い!
 
「どうして兵長の補佐官である私が特別作戦班こと通称リヴァイ班のメンバーに加えられていないんですか!?明らかにおかしいじゃないですか!」
 
納得出来ません!大事な事なので二回言うと、兵長はチッと大きな舌打ちをなさって上げていた片足をそこに添えていた私の手を振り払うようにしてから降ろされた。ああ、靴越しとはいえもっと触っておけば良かった。
 
「その件については散々説明しただろうが」
「されました!されましたけどリヴァイ班なんて呼ばれるなんて聞いてませんでした!」
「んな事、俺が知るか。周りの連中が勝手に言ってるだけだ」
「周りの人ですら兵長直属の特別な集まりであると認識をしているというのに!補佐官である私が!将来の妻である私が!兵長の事をあんな事からこんな事まで理解しているこの私が含まれていないなんてえぇぇ!」
「…いい加減にしねぇと本気で削ぐぞ」
 
あんまりだ!と頭を抱えてその場に蹲ると、二オクターブくらい低くなった兵長のお声が頭上に響いた。それでも尚めそめそ啜り泣いていると、「おい」という声の直後、急激に視界が上へと移動した。座り方を元に戻された兵長が私の髪を掴み上げて無理矢理に顔を起こしたからだ。引っ張られてる髪が地味に痛い。
 
「お前はエルヴィンと俺の判断に従えねぇってのか?」
「うぅ、命令にはちゃんと従いますよぉ…でも気持ちの整理がつかないんです…兵長の身の回りのお世話が出来なくなるばかりか、暫くの間離れて生活しなくちゃならないなんて…!」
「俺は清々するが」
「もしかして、離れ離れになってしまう事で私の心が兵長から離れてしまわないかと心配なさってるんですか?私の愛を試されているんですか!?そんな事しなくても私は身も心も兵長に捧げぶっ!」
 
ガコン!いっそ小気味良いくらいの音を立てて私の額は机に打ち付けられた。一瞬意識が飛びそうになったが愛と根性で踏み止まる。再び髪を引っ張られて顔を起こした時、目の前で星がちかちかして、兵長のこれ以上無いってくらいご機嫌悪そうな顔が輝いているように見えた。ぐいっと後ろへと頭を放られ、私は数歩よろめきながら後退する。コブの出来ていそうな額を両手で押さえていると、微妙な、いや絶妙な沈黙を醸し出されていた兵長が長い長い溜息をついた。
 
「前にも言ったはずだが、俺が本部を離れている間、ここでの仕事を肩代わりする奴が必要になる。非常に不本意ではあるが、それが出来るのは今のところてめぇだけだ。…それに、ここと向こうとを繋ぐ連絡役も、全ての事情を知った上で頻繁に往復しても怪しまれねぇ人材っつったら、てめぇくらいしか居ねぇからな。どうせ来るなっつっても、連日押しかけて来んだろ」
「無論です!」
 
言うまでもありません!勢い良く頷くと目の前がぐにゃりと歪んだが、何とか倒れずには済んだ。それよりも重大な事に今、気が付いてしまったのだ。
 
「それは、私だけの特別任務という事ですよね…?」
「まあ、そうなるな」
「つまり、兵長と二人だけで行う、初めての共同作業…っ!?ど、どうしよう、そう考えたら一気に緊張して来ちゃいました…!い、いえ、私はとっくに兵長と一緒になる覚悟は出来ていましたので躊躇してしまうって訳では無いんですが、やっぱりその、こういう事にはちゃんとした順序があるんじゃないかと…」
「気持ちわりぃ事べらべら垂れてんじゃねぇ…そもそもエルヴィンを入れれば三人でのやり取りだ」
「で、でも、兵長がそこまで仰るなら、不肖の身なれど全力で取り組ませて頂きます!つきましては今回の任務の命令書代わりに婚姻届けにサインを…!」
「…もう良い、さっさと出てけ」
 
しっしっ!とぞんざいに手を払う兵長。いつもお忙しいからか若干疲労の色が浮かぶそのお顔が色っぽくて鼻血が出そうになったが、既のところで堪えて敬礼をし、部屋を後にしようとする。が、扉を閉めようとしたところで言い忘れた事があるのを思い出し、兵長、と小さく呼んだ。再び書類に向かうとしていた兵長が視線だけをこちらに向ける。
 
「浮気したら嫌ですからね?」
「…しねぇよ」
 
その言葉を聞いた私は笑顔で部屋を後にして、兵長の為の紅茶を淹れに行くのだった。 
 

何だかんだで相思相愛
131023

 
 
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