短い相談の結果、私とキュウゾウさんは一先ず虹雅峡へと戻る事になった。
 
「都が何処にあるのか、カンベエさんは知らない様子でした。ならばまず、情報を集める為に街に向かうんじゃ無いでしょうか?途中、ホノカさんにもカンナ村での結果を報告したりすると思いますし…」
 
尤も、相談というよりかは、私が一方的に意見を述べていただけのような気もするが…キュウゾウさんはそれに対して何も言わず、元来た道を辿る様に歩き始めていた為、恐らくは同じ考えなのだろうと思う事にした。翼岩の傍で初めてキュウゾウさんとまともに言葉を交わした事、谷間の道で兎跳兎と戦った時の事などを思い出しながら、私もキュウゾウさんの歩調に合わせて歩く。歩幅の差もあって殆ど小走りのようになっていたものの、両足が既に機械になってしまった為か、然程疲れる事も無ければ苦に思う事も無かった。思わぬ所で恩恵を受けるような形になり、何とも言えない複雑な気分になる。ただ、どちらかと言えばひたすら黙って歩き続ける事の方がどうにも気まずく思えてしまい、私はキュウゾウさんの様子をそっと窺いながら、遠慮がちに尋ねてみた。
 
「あの…キュウゾウさんは、虹雅峡の差配を務めている方の下で働いていたんですよね?もしかして、都に行かれた事は…」
「御前の共で、一度」
「じゃ、じゃあ何処にあるかも…!」
 
知っているのではないかと、私は驚きと期待を込めた目でキュウゾウさんを見る。一拍置いて、キュウゾウさんは口を開いた。
 
「都は、動いている」
 
私は暫し言葉を失う。が、すぐに我に返り、どういう事かと尋ねた。返って来た答えは、都とはかつての大本営…本丸だというものだった。私は式杜人の洞窟で見た巨大な戦艦を思い浮かべ、その時シチロージさんから聞いた言葉を思い出す。
 
『本丸型戦艦。大戦時には二の丸、三の丸を従え、本拠地として使われていた戦闘艦でさぁ』
 
あの場所にあった物は半分程が壁に埋まり、所々朽ちていたが、それでもその大きさはかなりものだった。あんなものが空を飛ぶなど、想像すらつかない程に。それが今は一つの街、都となって動いている。そして、私達は今からそこへ乗り込もうとしている。都と言う言葉を耳にした時、言い知れぬ不安を感じたのはそのせいだったのだろうか。黙り込んでしまった私を、キュウゾウさんが静かに見ていた。
 
 
 
行きよりも遥かに早いペースで進む事は出来たものの、山を降りた頃には辺りはすっかり暗くなっていた。このまま目印も殆ど無い荒野に入るのは危険だと判断し、私達は一度休息を取る事にした。風をしのげる場所を見つけると、キュウゾウさんは私にそこへ入る様にと促す。当然、後からキュウゾウさんも続くものだと思った私は素直にそれに従ったのだが、私が中に入ったのを確認すると、キュウゾウさんは踵を返して離れた岩の方へと歩いて行き、そこに腰掛けてしまった。ここでもまたあの時の様に、自分は見張りに就くつもりらしい。キュウゾウさんは一体いつ休んでいるのだろうか、なんて素朴な疑問が浮かんでくる。斥候から帰って来た時も、眠ると言いながら実際は森の木の下で座り込んでいただけのようだったし。尤も、その時はカツシロウさんや私が現れた事で邪魔をしてしまっただけかも知れないが…。少なくとも、キュウゾウさんが人前で眠る姿は想像出来ないなと、思わず苦笑すら浮かべてしまった。
 
 
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