「深刻な臨也不足です」
「…」
「臨也が著しく足りていません」
「…」
「これ以上臨也が低下すると死に至ります!」
「じゃあ死ねば良いと思うよ」
 
にべも無く、それはもう満面の笑みで新羅が言った。
 
「友達に対して死ねとか酷くない!?しかも女の子に対して!」
「ごめん、僕等いつから友達になったんだっけ?ただの知り合い、いや顔見知り…この場合赤の他人というのが適切かな」
「段々遠ざかってる!扱い酷くなってる!」
「あ、それから俺、女の子扱いをしてあげるのはこの世で一人だけって決めてるから」
「それって遠回しに私は女ですら無いとか言ってる?」
「珍しく頭の回転が速いね、明日は雨かな」
「ねぇ新羅最近酷くない?前から私の扱いはその辺の人より酷かったけど最近益々酷くない?」
 
途中からはもはや本を読みながら片手間に受け答えをしていた新羅だったが、そこでようやく再び顔をあげた。
 
「僕は恋敵には容赦しない事にしているんだ」
「え…っ、ま、まさか新羅って実はそっち方面の趣味が…!」
「俺が愛しているのはいつだってこの世でセルティただ一人さ。そのセルティが、そのセルティが…私には一向に向けてはくれないような笑顔でこの前『新羅!聞いてくれ、今日初めて同性の友達が出来たんだ…!彼女は凄く良い子だな、私に首が無いせいで店などに入る事が出来無い分、今度はどこか広い公園でピクニックでもしよう、なんて言ってくれたんだ…!』ってそれはもう嬉しそうに話していたんだよ!」
「まじでか。セルティかわゆす…きゅんっ」
「ちょっと止めてよ、セルティが可愛いなんて事は、今更論じる価値もない程当たり前の事実だよ。そんな事はこの俺が一番よく解ってるんだから。っていうか君がセルティにときめかないでよ、君には臨也で十分だろう」
「そうだよ!臨也!臨也が足りないの!」
「さっきから臨也の事を何かの成分みたいな言い方をしてるけど、それは色々と誤解を招く表現だから止めた方が良いと思うよ。もう諦めて一応聞いてあげるけど、何があったの」
「もう一週間も会って無いし電話もしてないしメールすら返って来ない…!」
「それって振られたって事じゃないかな?」
「うわあぁぁ!人が必死で考えないようにしてた事をあっさり!」
「同じ学校に居るのに一週間全く接点が無いなんて、余程本気で避けられてるんだろうね」
 
最後の言葉が特に深々と私の心に突き刺さった。それはもう、グサグサッ!って勢いで。
 
「…どうしよう、このまま臨也がいなくなったら、あたし、生きていけないかも…」
「そこで泣かれるとまるで僕が君を泣かせたみたいになるんだけど」
「だめ、泣きそう…新羅と話してたら泣きそう。セルティに慰めて貰う」
「いつの間にアドレス交換なんてしたの!?最近忙しいらしくて今の時間はまだ休んでる所だろうからそんな事でセルティの手を煩わせないでよ、というかそうでも無ければこうして君の愚痴に付き合って居残りなんてせずに真っ直ぐ家に帰ってるよ!」
 
なるほど、それはとても説得力があるね。…って事でセルティに送ろうとしていたメールを打つ手を一旦止めた。じゃあ代わりに新羅が慰めて下さい、なんて言えば新羅は無遠慮なまでに盛大な溜め息をついた。うん、コイツ、こんなに性格悪かったっけ…とか幼馴染ながら切なくなったわ。
 
「これはあくまで俺の独断と偏見による見解だけど、多分それ、この前君が静雄と仲良く下校してたのが原因じゃないかな」
「え、この前っていつ」
「丁度一週間くらい前。臨也が黙って先に帰ったって、教室でわんわん泣いてたやつ」
「あー!そうそう、後で聞いたらどうしても外せない用事があったとか言ってたんだけど、メールでも良いからせめて一言いって欲しかった!その日は放課後デートしようねって約束してて、私すっごく楽しみにしてたのに!映画観に行く気満々だったのに!」
「それは私も散々聞いたよ、問題はその後」
「その後?えーっと、確か静雄が慰めてくれて、臨也の代わりに映画付き合ってくれた。面白かった」
「…その事に君は何も感じて無いの?」
「えー、だって別にただ映画観てマックでご飯食べただけだし…普通に遊びに行ったのと変わらないじゃん」
「じゃあ君は、学年で一番可愛いって噂の子と臨也が同じように映画を観て食事をしてても気にならないんだ?」
「え…それはやだ」
「臨也もきっとそうだったんじゃないのかな」
「それってヤキモチ焼いてくれてるって事?」
「さぁ。そんな事は僕じゃなくて本人に聞いて来なよ、…屋上に居るってさ」
「えぇぇ!ちょ、早く言ってよ!」
「話してる途中にメールが来てたみたい、俺もさっき気付いたし」
「いいい行ってくる!!」
「はいはい。…全く、世話が焼けるなぁ。でもこれで、セルティも僕の事を少しは見直してくれたりして…」
 
全力で階段を駆け上がり(勿論二段飛ばしで!)屋上の扉を勢いよくあけると、携帯片手にフェンスへ寄りかかる臨也の姿が見えた。
 
「い、ざや!」
「…やぁ、久し振り。シズちゃんの次は新羅?君って、普段俺の事を好きだとか言ってる割には結構行動が軽はずみだよね」
「臨也、好き!」
 
話しを聞き終わる前にその胸へとダイブ。私よりも細いんじゃないかって思う腰とかもう大好き。
 
「は?…ねぇちょっと、俺が今言ってた事聞いてた?」
「ヤキモチ焼いてくれてたなんて全然気付かなかった、うへへ、嬉しい」
「…ヤキモチ?」
「私が静雄と映画観に行ったのが嫌で一週間も会ってくれなかったんでしょ?今も私に直接メールするんじゃなくて、わざわざ新羅にメールして待ってるって伝えてくれたんでしょ?もー、臨也可愛い!好き!!」
「あぁ、成程。そう言う事か」
 
ぐひひ、と笑い声を漏らすと臨也に「気持ち悪い」って言われた。そんな暴言にもときめく。やがてべりっと引き剥がすように肩を押されて距離を取られたかと思うと、目の前にそりゃもう素敵な臨也の笑顔があった。やばいやばい久し振りで鼻血出そうあぁでもキスしたい超したい!とか思いながらぎゅっと目を瞑る。
 
「あのさ、勘違いしてるみたいだから教えてあげるけど、俺はヤキモチなんてこれっぽっちも焼いて無いよ。一週間君との関係を断ったのは、君の悲しむ姿を見てシズちゃんが自分のせいだと自己嫌悪する姿が見たかったから。さっき新羅に連絡をしたのは、ちょっと内密で診て貰いたい奴が居たから、その関係で。勿論君がその場に居る事なんて知らなかったから、呼んでくれなんて一言も言って無いしね」
 
サーッと、心の中に冷たい風が吹く音が聞こえた様な気がした。見開いた目からほろりと涙がこぼれても可笑しくない状況だったが、何とかそれは耐えられた。あぁ、新羅の奴に言われた時より切ない。
 
「でもまぁ…」
 
ふと臨也の影が落ちて来たと思ったら、おでこに柔らかい感触があたった。
 
「これくらいのご褒美はあげとこうかな」
「いいいいいいざや!」
「はいはい鬱陶しいから離れて、じゃないと一緒に帰らないよ」
「いえっさー!でも手くらいは繋ぎたいであります!!」
「仕方無いからそれくらいは許す」
 
臨也大好き!
 
 
 
以下NG会話。
 
「…その事に君は何も感じて無いの?」
「え、感じるとかいやらしい…」
「ごめん僕の言い方が悪かったからその顔止めて何か凄く腹立たしい」
 
「じゃあ君は、学年で一番可愛いって噂の子と臨也が同じように映画を観て食事をしてても気にならないんだ?」
「…?それって私の事じゃないの?」
「もう良いや、君ちょっと黙ってて」
 
 

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