ぽきぽきと良い音をたてながらそれを口と手で折り舌を使って口の中に入れる。
口の中で広がる甘さは俺の好きないちご牛乳に似ていて、それでいてどこかさっぱりとした甘さだった。
ああ、やっぱりチョコも良いけどイチゴも良いな・・・そう思いながらまたポキッと折っていまさっき買ってきたばかりのイチゴ味のポッキーを食べる。
ああ、甘いものってなんて素敵なんだ!嫌な思い出もなにもかも忘れさせてくれる!

「ちょっと銀さん!いくら甘いものが好きだとしてもこれは買いすぎでしょう!!そんな裕福じゃないんですからちゃんと考えてください」

「そうアル銀ちゃん!私にも一つちょうだいよ!!」

そう言って俺のイチゴポッキーを取ろうとした神楽の手を俺はピシャッと叩いて止めさせる。

「バカヤロー今日はなぁ銀さんが昔やらかしてしまったことを悔やみ自分を慰める日だ。この儀式は毎年必ずや行われている言わば万事屋の行事のようなもんなんだぞ!うかつにイチポキ様に触れるな!!」

「いやイチポキ様って何だよ。崇めてる癖に省略してんじゃねぇよ。」

俺の言葉にすかさず突っ込みを入れた新八はそのあとはぁとため息をついて俺の落としたイチポキ様の袋と箱を拾う。

「で、どうしたんですか本当に机が埋まるほどのイチゴポッキー買ってきて・・・。慰めるとか言ってましたけど。」

「・・・昔チョコポッキーで失敗したんだよ。11月11日に。それでこの日、11月11日はチョコポッキーの存在を忘れるためにイチポキ様を死ぬほど食うんだよ・・・」

「すみません言ってる意味さっぱり分かりません。て言うか普通のポッキーが見たくないんだっらなんでイチゴポッキー買うんです。そのまま家に引きこもってたら良いじゃないですか。」

「甘党のこの俺がポッキーの日という甘いものを祝う日になにもしないはずないだろーが!」

そう、俺はいずれ糖分王になる男なのだ。
お菓子を祝う日にそのお菓子を食べてやらない訳がない。
だがしかしさっきも言ったように俺は昔チョコポッキーで失敗した、これは俺の人生の中で最大の過ちでありまたこれがあったからこそ今の俺がいると言っても過言ではない。

11月の11日それは俺の中の何かが、またアイツの中の何かがころっと変わってしまったそんな日だった。
今思えば若気の至りだ、馬鹿すぎる。

【ポッキー爆発しろ】

俺はそれまでアイツの事が嫌いだった。
それはアイツも同じ事でいつも会った時はまずは朝の挨拶・・・なんて事もするはずがなく、いがみ合いの喧嘩から始まった。
朝っぱらから何をしているんだと先生には叱られ、先生が大好きなアイツは大好きな先生に叱られたことに朝っぱらから落ち込み、俺は別に気にする訳もなかった。
そしてアイツはそんな俺の態度を不快に思いまた喧嘩が始まる。
俺とアイツは会った時からそんな関係だった。

これから話す事はそんな俺達のとある11月11日の出来事の話し。

*****


どうして、いやどうやってこんなことになったのだろう。
それは分かりきっていた事なのに頭の中で自分自身にそう問わずにはいられない。

目の前には大好きな甘いものがある。
それはとても素晴らしいものなのに何故か俺の心は曇っている、いやこれもわかりきっている。しかし認めたくないだけ。

俺の目の前には甘いチョコでコーティングされたポッキーがある。
そのポッキーは今日がポッキーの記念日だと聞いて俺の貧相な財布から出てきた金で買ったものだ。
ゆっくり食べるはずだった、味わって。
ただ、ゆっくり食べると言ってもこんな感じでゆっくり食べたかった訳じゃない。

「・・・」

目の前にはポッキー、しかし残念なことにその他も今の俺の目の前にはある。

俺とは違うサラサラの黒い髪、丸い目、どこか上品な服・・・おまけに赤めらせた頬。

(最悪だ、なんで俺が、女の子ならまだしも男と、しかもコイツと、高杉となんでこんな・・・)

頭の中はそのことでぐるぐるぐるぐる。

最初はただのいつもの口喧嘩にすぎなかった。
初めて知ったお菓子の記念日、それを自慢するように話していた、そしたら高杉がいちゃもんつけてきただから始まった口喧嘩。

それがいつしかポッキーの日の話ではなくポッキーゲームの話になってしまった。
今思えばなんでそんな単語を口に出したのか・・・思い出したくもない。

『ポッキーゲームも赤面して出来ないくせに!』

『はぁ!?そんなの余裕ですけど』

『じゃあやってみろよ!!』

『お前がやれよ!!』

そうして、そんな馬鹿な言い合いをしているうちに俺と高杉は流れ的にポッキーゲームをするはめになってしまった。買ってきたポッキーを二人でくわえて最初に思ったのは案外顔の距離が近い・・・ということだった。
その事実に内心げんなりしながらも体の熱が上がった。
それは高杉も一緒だったようで目キョロキョロと動かして顔を赤くしていた。
ほらやっぱり赤面して出来ないじゃないか、まあ俺がそれを言える立場かどうかは謎だが・・・

本来なら嫌と言えば止められた、だが変なプライドが邪魔をしてしまって止めることが出来ない。
ヅラか誰かがいてくれれば止めて貰えただろうが、先に呆れて部屋を出ていってしまった。

カリ、

一口、ほんの一口だけポッキーを食べる。
高杉はそれにピクリと反応し俺に負けじと一口だけ食べた。

一口、一口食べるごとに俺と高杉の距離はつまっていく。
本当は半分以上俺がポッキーを食べてしまえば俺の勝ちでそこで止めてしまえば良いだけの話なのだがそこまで口を動かす事が出来ない。
こんな風に二人で同じように食べ進めていったら口と口が当たってしまいそうで怖い。

嫌だった、止められた、だが出来ない
変なプライド、ああ、これがファーストキスなのに

一口、一口俺も高杉も進んでいく顔が近い、限界だ

(もう止めようこんなこと、馬鹿にされても良いから。)

そう思って、ポッキーから視線を外し高杉の方に目を向ける。

しかし、「止めよう」という言葉は俺の口からは出なかった。
高杉を見ながら俺は一口一口とポッキーを食べていく。

止められた、だけど変なプライドが邪魔を・・・いやもうそんな理由ではない。

止められない、違う止めたくない。
何を思っている、さっきまであんなに止めたがったてたじゃないか。
しかし高杉の顔、高杉の顔をみたらそんなことはふっ飛んだ。

赤めらせた頬、上目遣いで俺の方を見ては目をそらす。

何故か分からない、
何故止められない、
分からないがもう止まらないああ、これがファーストキスなのに・・・

*****

それがまぁ、俺とアイツ・・・高杉との若気の至りだった。
11月11日の俺の失敗談と言っても良い、兎に角あれは俺の人生最大の恥であり、また悪い思い出だった。

俺は机にいっぱいあるイチポキ様の中からある特別な一個を取り出す。

「あれ銀さん・・・」

新八の不思議そうな、それでいて呆れた声に俺は知らんふりをしてそのポッキーの袋を開ける。

普通のチョコポッキー、俺のファーストキスの味がするポッキーを手に取り俺はそれを口に運んだ。







――*―――
銀さんたちが小さい頃にポッキーがあるのか・・・!というのはスルーしてもらうと助かります。



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