「おっお前さぁ、」

「はい?」

私は書類に目を通し、手を動かしながら適当に相槌をうつ。それは多分非日常への合言葉だったのかもしれない。時間を巻き戻さない限りこの合言葉が取り払われる事はないがそれでも後悔せずにはいられない。

「明日休みだろ、閻魔大王に聞いた」

「貴方が私の休みを把握しているなんて気持ち悪いですね。吐きそう」

「っ〜〜!」

売り言葉に買い言葉が出ないことに違和感は感じた。でもただでさえ休み前で忙しくフル活動している脳ミソに負担をかけないようそれらを無視した。

「実は僕、おっおっ温泉旅行のチケット、持ってんだけど・・・一緒に行かない・・・?」

ああ、多分私は今空いてしまったパンドラの箱の目の前にいる。


【失敗:上編】


「・・・え?すみません、ちょっと疲れているようで、今さっき何か有り得ない単語が聞こえたんでもう一回言ってもらっても良いですか」

「僕と、一緒に、温泉、に、行きま、せんか?」

彼は罰が悪いのが何なのか知らないが顔を下に向けてボソボソとそんな言葉を口にする。私はそのご丁寧に区切られた言葉の意味を理解しジーとかの神獣白澤を見る。

「友達がいないからって・・・」

「違う!!違う!!そういうんじゃない、違うから!!」

そう言ったとたんガバッと顔を上げ私に否定の言葉を投げ掛ける神獣はパッと見で分かるほど顔を赤くしていた。友達がいないことがそんなに恥ずかしいのか・・・。

「友達がいないなら桃太郎さんと一緒に行けば良いじゃないですか」

「だから違うって!何でそうなるんだよ!!」

「それ以外の何だって言うんですか」

「っ!・・・」

ワザワザ仕事の用もないのに地獄まで来た神獣は私が当たり前の正論を口にすると喉をヒクつらせ、まだ顔が赤いまま黙り混む。私はその行動の意味がわからず首を傾げる。本当におかしい。

大体おかしいのは今日に始まった事ではない。この前たまたま遊園地を一緒にまわった時から・・・というかそれ以降から何やらこの遇低類の様子はおかしかった。

店に注文しに行ったときや薬を取りに行ったとき馬鹿が仕事をサボるせいでまたされている時間などやたら馬鹿の視線を感じる、それに話していると何故か時々黙り混んだりもする。酷いときは突然もうダッシュで走り出す。

そして今日はこれだ・・・。

「どうしたんです、頭でも打ったかあるいは変な薬ですか」

「違うって、ああもうこの鈍感」

「はっ?」

偶蹄類は項垂れて頭を抱えおまけにため息まで付いた。ため息付きたいのはこっちの方だまったく・・・。しかも鈍感とはなんだ鈍感とは、失礼にも程がある。

「俺はお前が未知の生命体に思えるよ」

「奇遇ですね私もです。貴方が未知のゴミに見えます」

「生命体とゴミは全く別物だろう!?・・・因みに富士山の見える露天風呂がある。部屋にも露天風呂付きのとこ、料理は夕食は肉と山菜メインだけど朝食は魚。一泊二日」

「貴方を生命体扱いしたら数多の生命が可哀想です。マッサージ等は・・・」

「足つぼとか、つぼおし系のやつ」

なんか知らんが、どうだ!という目で私を見ながら私の返答を偶蹄類は待っている。

ちょうど温泉に行こうとしていたときにこんな話をふられたので正直行ってやらん事もないかなっという心境になっている。条件もなかなか良いもので正直こんな温泉のチケットをどうやって手にいれたのかが気になる。というかこんな条件の良い温泉旅行を何故私と一緒に行きたいのかが分からない。やはりあれか友達か、友達候補としてターゲットにされたのか。

「誘って貰ったのはありがたいのですが・・・」

「何が不満?何が足りない!?それ付け足すから言ってみて!!」

すんなり承諾するのが癪だったのでちょっと冗談半分で断ろうとしたら肩を物凄い勢いで捕まれそう問われる。

(なんだ、これは・・・)

誰コイツと思いながらもその必死さに何故か気圧される。椅子に座りながらの状態だったのでバランスを壊す事はなかったが、多分立っていたらよろけるか後ずさるかしている。

「言って!!僕なんでもするから!!」

「・・・・・・あっじゃあ近くに甘味があるところが良いです。」

「見付けたら来てくれる!?つか見つけるから来て!!」


(何でこんなに必死なんだ・・・)

私は黙って頷いた。気持ち悪い、気持ち悪いと思っていた存在が意味不明な行動をとると脳内でオーバーヒートをおこすということを私はこのとき始めて知った。
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