「鬼灯ぃぃぃぃいい!!!!」

「はい、なんでしょう」

ゴウゴウと風が吹き髪を掻き乱す。私は帽子が飛ばないように最低限の注意をはらいながら隣のギャーギャー五月蝿い神獣に相槌をうってやる。本当に私は優しい鬼だ。

「お前これわざとぉおぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「知りませんよそんなこと」

神獣の叫び声を聞きながら私は真っ逆さまに落ちていった。

【失態】

現世という場所を訪れる時の理由は大きく分けて二つある。一つは仕事、もう一つは観光。つまり現世にいる自分は主にきびきびしているか、あるいは少しだけ、ほんの少しだけ気が緩んでいる時かのどちらかだということだ。そして今の自分は後者、仕事で疲れきった体と精神を休め思う存分遊び羽をのばす。今日は日頃のストレス発散に遊園地に来ていた左手にはフリーパスをつけ、絶叫アトラクションのところから聞こえてくる悲鳴に耳を傾けている。

心地よい悲鳴が鼓膜を揺らしいい気分になる。やはりストレス発散には現世が一番だ、遊園地や動物園、温泉・・・ああ、そうだこんどの休みは温泉に行こう。数々の絶叫マシーンを乗りながら次の休みのプランを立てる、実に平和で有意義な時間だと私は思っていた。

アトラクションから降り次は日本最長のジェットコースターにでも乗ろうかと思い、足を進めていると見覚えのある男が女性からビンタを食らっている所を目撃した。ああ、観光に来ていてついうかれてしまい気が緩み過ぎていた、でなければこんなこんな失態を犯すわけがない。
暫く突っ立っていると男も私の存在に気付いたらしく、一瞬ばつが悪そうに顔をしかめたが、無理矢理その顔を笑顔にしてソイツにしては珍しい弱々しい声で私に手をふる。

「あー・・・ニーハオ?」

いつものトレードマークともとれる頭巾と白衣を身に纏っておらず、とても珍しい現世の一般的な服を着た姿。手首にはフリーパスをつけておりソイツもまた私と同じように遊園地という施設に遊びに来ている事が分かった。私はチラリとソイツの右の頬を見やる、赤く腫れていて手形が少しだけついていた。

「・・・」

「・・・・・・・・・」

「・・・あの」

「・・・・・・あは、鬼灯お前一人だろ?一緒にアトラクション回らない?」

「ふられた上に一人のアトラクション巡りはさぞかし寂しく哀れなのでしょうね。お断りします」

私がそう答えるとソイツは眉をピクッと動かし目を細める。誰から見ても苛ついてる事が分かった。私は本当の事を言ったまでなのだが・・・言葉には出さずそんなことを思う。

「いやいや別にぃ〜寂しくも哀れでもありませんがぁ?それより初っぱなから一人のお前の方が可哀想だわ!このボッチ!!」

「は?何語を話ているのか分かりかねますね、ふられ男略してふれ男」

「略すな!!」

*****

という訳で冒頭にいたる。という訳というかどういう訳?な感じなのだがなにぶんこれから一時間近く歪みあっていたので色々と省略させてもらった。まぁ、簡単にその後の事を説明するとその後疲れきった私が、なんか知らんがとても必死な神獣が可哀想になって一緒にアトラクションをまわってやることにしたのだ。後で土下座をさせて感謝の言葉を言わせよう。

「はぁ、はぁ、なにあのジェットコースター・・・長いし怖い」

「日本最長ですから」

「なにそれ信じらんない、何でそんなの乗るの」

「では次はジャイロストームですね」

「ちょっと待て!!」

「お前バカなの!?今まで何乗ってきた!!」

「ジェットコースターのみ」

「そんなカルビのみ、みたいに言ってんじゃないよ!!」

私はついてきた分際で駄々をこねる偶蹄類に苛々して顔面に鉄拳を食らわせる。偶蹄類はそれで少しだけ黙り混み両手を挙げる。多分白旗の代わりだ。

「大体そんなに嫌なら一人でまわれば良いでしょう。私は別に一緒にいる事を強要した訳ではありませんよ」

私はそう言ってソイツに背を向ける。ああ、これでやっと清々する・・・そう思ったのもつかの間後ろの方からグイッと袖を引かれる。何なんだと思いながらもこのままでは先へ進めないので後ろを振り返る。

「じゃっじゃあさ、ソリに乗ろう。そしてその後にゴーカートに乗ろう」

「ソリ?」

「そ、この遊園地ね坂道が多いじゃん、それで一番高い所にお化け屋敷があるんだけどそこから下の方へ降りるときソリに乗って降りれるんだ。あ、ソリって言っても芝生の上を適当に滑るんじゃなくてすべり台みたいな所をソリで滑るんだよ?あそこは案外高いからそっから滑り落ちるのもスリルがあると思うよ」

「・・・」

ソレが言うにはそのソリはブレーキの付いてある類いの物で一人、または二人のり用らしく一般的には小さな子供連れが遊ぶアトラクション(?)らしい。まぁ、お化け屋敷の後に興味本意でする客も要るらしいが、兎に角ブレーキを一切使わずに滑るとかなりのスピードは出るらしい。勿論安全を考慮しジェットコースターのようなスピードは出ないらしいが。

「で、それはどこにあるんですか?」

「!、ああそれはねまずリフトに乗って上まで行くんだよ」

あっ、ちょうどアレだね。指を指された方向に会ったのは二人乗りのリフト。私は少しだけ眉を寄せるがそんな事知らないとばかりに私の手をひいて偶蹄類白澤がリフトへずいずいと足を進める。

係員にフリーパスをかざし手をひかれながらリフトへ乗る。座ったと同時に捕まれていた手を払い膝の上えとそれをのせる。相手の方は掴んでいたことに気付いていなかなったらしく何故かきょどっていた意味がわからない。

「?、どうしたんですか?キモいです。死んでください白澤さん」

「本当にお前は・・・」

何かを言いかけて白豚は黙り混む。今度はなんだと呆れながらも隣を見やると隣は別の方向を向いていた。その方角に白豚が黙り混んだ理由があるらしく、私は仕方なく同じ方向を向く。
そこは向かい側のリフトでこちら同様そちらも男二人でリフトに乗っていた。多分友人同士なのだろうと結論付けてそのまま見ていると左側、この場合私から見て左側の男性が手に持っていたジュースをストローに口を付けて飲み、そのまま友人らしき隣の男性にそれを渡した。そしてジュースを受け取った方の男性もまた渡した方の男性同様ストローに口を付けジュースを飲んでいた。

「仲が良いんですね。まぁ私達には縁のない話ですが」

そんなことを言っていると彼にしては珍しくとてもとても珍しくまるで怨念のようなドスのきいた声で、

「リア充爆発しろ・・・」

そんなに友人が欲しいならその無駄に良い顔を使って女遊びをするのではなく女友達を作れば良いのに・・・やはりバカはバカなのか。隣の方を冷ややかな目で見ながら私はそんなことを思った。

(このリフトが終わったら白澤さんを無理矢理同じソリに乗せて怖がらせながら下に降りていこう)

死んだような顔をしながらもどこか満ち足りたオーラを放っている神獣の姿を見るのはこの数分後の事だった。多分Mに目覚めたのだ気持ち悪い。

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