月が綺麗というのは愛しているという意味らしい。その昔、私にしてみればそんなに昔ではないのだが夏目漱石という有名な作家が英語の教師をしていた頃、とある生徒が I Love You という言葉を「我君を愛す」と訳したらしい。それを夏目漱石は「日本人はそんなことは言わない」といってその生徒に月が綺麗ですねと訳しておきなさいと教えたらしい。我君を愛す・・・私的にはこれもこれでストレートで良いとは思うのだが月が綺麗ですねという訳し方も風情があって面白い。それに恋人達が愛し合うのも綺麗な月が出ている夜ごろだ。

「ねぇ、僕は思うんだけどさ、」

そんなことを考えながらぼうっと窓の外の月を眺めていると私の背中側に居る男が話しかけてきた。男二人がぎりぎり寝られる程度の広さのベッドに半裸状態でいるなか、必然的に二人ともスペースを確保するために横向きになって寝ている。後ろの男については知らないが私は相手の方を向いて寝るなど真っ平ごめんなので男に背を向けて寝ていた。だからてっきり男は寝ているとばかり思っていた。そいつは私が起きているということには気付いているらしく私が返事などしてはいないというのに勝手に口を開き話し始める。

「月明かりに一番映えるのは金髪だと思うんだよね」

「女の話ですか色魔」

「別に?女に限らないよ」

「・・・」

後ろの男が誰と寝ようが自分には関係ない、そう頭の中で結論付けて口を閉じる気配のない男の話を良心で耳に入れてやる。彼は一回自分に土下座をして感謝をするべきなのだまったく。

「赤毛や茶髪、アレはね昼。日のでている時が一番綺麗。情熱の赤だよ」

「・・・私は貴方のような遊び人ではないので昼にそんなことはしません」

クスクスと男は笑い私の言葉を受け流す。カサッと布団が動く音がして髪が触られる感触がした。ああ、さっきの音は布団の中から男の手がでてくる時に生じた音だったのか・・・、髪を触らせる行為を辞めさせようと声をかけようとして口を開きかけたがでてきたのは浅い呼吸。何だか全てのことがどうでも良い気分だ。

「そして・・・黒、これはね朝が良い。朝が一番綺麗なんだよ」

「・・・」

後ろに居る男、白澤はそういいながらもまだ私の髪に触れていた。私は自分も黒髪ではないかと心の中で思いながらも、やはりどうでも良く声に発したりはしなかった。

「朝日のあの控えめな光に照らされて少しだけ黒が強調される。そんな光景を眺めているのが好きなんだよ。鬼灯」

「そうですか」

「だからさ鬼灯、朝日が出ないうちに布団から出るのは許さないからね」

「どうしましょうかね」

そんな事を言ってまた月について思考を戻す。男は言いたい事を言い終えたようで私に触れていた手を引っ込めた。

「月が綺麗ですので、アレが沈むまでは居てあげてもかまいませんが・・・」

そんな言葉をポツリと呟いた。そうしたら後ろから死んでも良いと聞こえてきたので知らないふりをした。







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