名前も顔も分からないその存在に想いを寄せ、送られた向日葵の花をなんとも言えない気持ちで受け取る。
ああ、良かった。

「俺、捨てられてなかった・・・」

「向日葵が来なかっただけで大袈裟な」

事務所から向日葵が送られてきたと電話があったのは夜の九時のこと。
いつもはライブなどの時に送られるそれがなかった事に落ち込んでいた俺はその電話があって直ぐにタクシーを拾って事務所へ駆け付けた。

「ふむ、『元気を出して頑張って下さい』・・・、晋助この向日葵さん千里眼でも持っているの出はないでござるか」

「はぁ、何でだよ」

「晋助は向日葵さんから向日葵を送られないで元気なかったじゃないでござるか、それをお見通しと言わんばかりのコメント・・・」

「ってめ!、勝手に読むな!!」

俺は万斉から手紙を取り上げる。ああ、俺が最初に読みたかったのに…
万斉を睨みつけ手紙に一通り目を通してからそれを丁重にポケットに入れる。
向日葵はまだ家に飾っているものが枯れていないので事務所に飾る事にする。適当に辺りを見渡して中身が入っていない花瓶を見つけ手に取り蛇口へ向かう。ジャーという音が部屋に響いて、ただそれだけにことに心が躍る。
水が溜まって重くなったそれを落とさないように慎重に抱えながらテーブルへと持っていく。
トン、と音を立てて花瓶をテーブルに置き、花瓶と一緒に持っていた向日葵を花瓶にいけた。

「ドライフラワーにしなくても良いのでござるか?」

スケジュール表をパラパラとめくりながらこちらも向かずに万斉が問いかける。

「もうしてるから良い」

「信じられないほど健気でござる!恋する乙女は変わるらしいが男でもこうも別人になれるのか、」

「だまれ」

やれやれといった風に言う万斉に苛付いてテーブルに転がっていた消しゴムを投げつける。それをいとも簡単にかわして万斉は明日のスケジュールが変更になったのを俺に伝える。俺はその態度にも何だか腹が立ってポケットに入れていたボールペンを投げつける。しかしそれもまるであざ笑うかのようにスッとよけスケジュール表で俺の頭をたたく。クソ、腹立つしウゼェ…。

「危ないでござる」

「くたばれ」

またスケジュール表で俺を叩いて向日葵さんには素直なのに…という捨て台詞を残し万斉は部屋を出て行った。本当に馬に蹴られて死ねば良いと思う。俺の恋はまだスタートラインにすらたっていないけど…。

テーブルに置いてある向日葵をみる。これを送ってくる人物は俺にどんな気持ちを抱いているのだろう。俺の歌が好きだと言ったその人はただ歌に聞き惚れただけなのか、それとも俺の案外整った容姿が気に入ったのか…。
俺の歌が好きだとしても嬉しい、顔が好きでも嬉しい、でも少しほんの少しだけ願って良いとするならば歌手高杉晋助が好きで有って欲しい。

この花束に少しでも俺への好きが入っていてはくれないだろうか、そんな事を思って万斉が言った通りではないかと苦笑した。








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