ただでさえプライドの高い面倒臭い奴等の中で音楽をしなければいけないのにそれプラス五月蝿いって何だよ最悪だろ。 そう思いながら、しかしその事に本気で苛立つ事が出来なかった。 大学が五月蝿いのは彼のせいだったからだ。 高杉晋助、今売れている歌手で俺の一番好きな歌手。 俺は彼がテレビに出て有名になる前からのファンで、写真の切り抜き・・・はないがCDを保存用・観賞用に二枚ずつ買うくらいには彼の歌が好きだった。 そして今日大学登校初日、どういう訳か、どんな法則が働いてか俺は彼が登校してくる時間と被って登校してきてしまったらしい。 彼のファンであるから会えたのは嬉しいがこうも周りが五月蝿いとうんざりしてしまう。 彼もそれは一緒のようでどことなく・・・というかあからさまに鬱陶しそうな顔をしている。 一応芸能界の人間なのだからあからさまはまずいと思うが、しかしそのくらい周りが五月蝿いので仕方がない。 俺は心の中で彼に同情しつつ教室に行くために足を進める。 俺はこの大学でピアノを極めるつもりだ。 極めたいなら外国に行けという話なのだが、俺は彼のコンサートに行かねばならないのでそれは断念した。 ピアニストにでもなったら外国に行くことにしているのだ。 だからまずは日本のコンクールくらいでちょうどいい。 彼ほどではないが俺もそこそこテレビに顔くらいはのる。 俺のレベルはそのくらいだ。 ******** まぁ歌手なのだから当たり前と言われれば当たり前で彼は声楽を学びに俺と同じ音楽学科を習いにこの大学に来ているらしい。 俺の席の前の方に彼がいるので間違ってはいない。 (しかし地味に高杉と会うな) そんなことをしみじみ思いながら、さてせっかく目の前に本物がいるのでと、話かけに行くか行かないか迷う。 ぶっちゃけ向日葵とメモ用紙程度の手紙しか彼に渡してはいないのだがそれでもやはりファンなので気になるのは気になるのだ。 どうしたものか、 「高杉さん!」 とそんなことを俺が模索していると前の方から声が聞こえた。 どうやら先を越されてしまったらしい。 「俺、ずっと高杉さんのファンでした」 少し、ほんの少しその言葉に顔をしかめる 。 「これ、その・・・ファンレターとプレゼントです」 そう言って高杉のファンさんはその二つを高杉に差し出す。 「・・・」 しかし高杉はと言うとそんなものには見向きもせず頬に手を当てて知らん顔している。 「あの・・・」 なかなか受け取って貰えない高杉のファンさんは恐る恐ると言うように高杉の顔を見る。 すると高杉はチラリとファンさんの方を向いて口を開いた。 「いやファンレターもプレゼントも要らないから、なんか楽屋にいるとジャンジャン俺のとこに来るけど邪魔なんだよね」 それだけを言うと高杉は前の方を向いてしまった。 ファンさんは凄くショックを受けているようでそうですかと言うとトボトボと自分の席へ戻って行った。 辺りはしーんとしていて固まっている。 そして俺はというと言われた言葉の内容に愕然としていた。 (そうか、要らないのか) そんなことを考えつつ俺はノートにシャーペンを走らせた。 |