・白鬼、ベルリリ前提で白リリ風味




女の子から色々な匂いがする。十代からは甘いお菓子のような匂い。二十代は花の香り。三十代からは日の匂いがする。柔らかい身体を抱きしめるとそれらの匂いが漂ってきて、それがひどく好ましかった。
 女の子はいい、優しいし柔らかいし温かい。女という生き物は男よりも起用で上手に人生を生きているから、こちらの望むものを何でも理解して、それを与えてくれる。甘やかしてくれる。ああ、これが女が子供を産み母になる理由なのだと、女を抱くたびに思う。女の子はどこまでも強かだ。
 そんな女の子の中で一番の強かさを持っているのは、僕の知っている限りでは閻魔大王の第一補佐官。あの女が一番、女としての強さの完成体なのだと思う。凛と前だけ向く姿があれほど似合う女などいるはずがない。男なんて馬鹿ばかりだと、そう思い誰にも頼らないことを美学としている。
 その何食わぬ顔に塗られている赤い赤い血のような口紅を見る。白い肌に咲いた一筋の赤が印象的で、僕はそれを見るたびに胸が掻きむしられる衝動に駆られる。細い手には長い指と何色も塗られていない爪。だというのに、それが動くたびに目が離せなくなる自分がいる。
 柔らかいが温かくもなければ優しくもない。抱きしめて僕を甘やかしてくれる訳でもないのに、彼女と深く深くつながりたいと思う自分がいる。身体も心もぴったり一つになればとても心地がよくて満たされる・・・そんな予感。
 
「何故私ではだめなの?白澤様」

 僕に思いを寄せてしまった女の子はいつも別れ際にそんなことを言う。多くの女を抱く僕に自分一人だけを選んでほしいと可愛い顔を哀しそうに歪めながら懇願するのだ。そんな彼女たちに僕は曖昧にほほえんでごめんねと謝るのだ。

「みんなが好きだから一人を選べないんだ。」

 違う。一人が決まっているから選べない。

「君のことは好きだよ。嫌いにはならない。」

 違う。最初から好きではないから嫌いにならない。

「それじゃあまた今度。」

 違う。もう会うことはないのだから。

 辛くあしらわれ、暴力をふるわれ、悪態をつかれる。僕がもっとも嫌で嫌いなこと。それを常に行うのがあの女。鬼の灯りと書く女。哀れで捨てられた無力で脆くて弱い強がりな女。ひどく醜く美しい、だからこそ愛おしい。

「貴方、もしかして清潔な清い乙女が好みなんじゃないの?私みたいな女とは全く逆の。」
「は?」
「そうよ、そうに違いないわ。」

 ベッドの上で、夜をともにしたレディ・リリスが納得げにうなずきながらほほえむ。僕はいきなり何を言われたんだと考えてみたが、結局意味がわからなかったので考えることを放棄した。
 彼女と寝るのは良い、お互い気持ちよくなれればそれでかまわないから、面倒臭いしがらみがどこにもない。ギブアンドテイク、僕が彼女を気持ちよくして、彼女が僕を気持ちよくする。それで終わり。とても簡単で好ましい。

「貴方の性質上、よってくるのはすぐ足を開くような女ばかり。貴方はセックスができればそれで良いから何も言わないけど、それでもそんな女たちを好ましいとは思ったことがない。」
「・・・・・・」
「貴方が抱いた女たちは、従順でそれでも恥じらいながら男を誘い足を開くような女ばかり。だから貴方は反抗的で、ふてぶてしくて、凛として媚びない、男を知らない清潔な乙女が好きなのよ」

 そういって彼女はクスクスと嫌みたらしく僕を見ながら笑う。その笑顔は数多の男たちを手玉に取った女の顔。怪しさがその存在からにじみ出ていた。
 彼女は胸元を手で覆い隠しながらベッドから起き上がる。そしてベッドの脇に脱ぎ散らかされた衣類を手に取り、それに腕を通し始めた。

「帰るの・・・?」
「ええ。」
「どうして?いつもはもっと居座るのに」
「理由?そうね。旦那に早く会いたくなったからかしら?」

 今すぐ抱きしめてあげたくなったの。そういって楽しそうにしながら着替えを済ませていく彼女を、僕は何をするでもなくただ見ていた。

「自分だけを愛してくれる人というのはとても大切だわ。貴方と私は似ているから貴方にもこんな私の気持ちがわかるんじゃない?まぁ、貴方の場合、勝手に愛しているだけで愛されているか微妙なところだけど」

 そんなお節介な言葉を残しながら彼女は悠々と僕に手を振って部屋を出て行った。残された僕はというと、何だか彼女に負けた気がして、歯がゆくて、愛しいあの子に会いたくなった



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