*女体化、子供、モブ注意。ラブラブな話ではない エレンのお腹の中には赤子がいた。妊娠8ヶ月だ。彼女はその子供を愛した。自分のお腹をさすりながら優しく話しかけ、愛していると何度も何度も呟いた。しかしそんな幸せいっぱいの彼女には赤ん坊の事で一つ、悩んでいる事があった。 それはこの子供が誰の子供なのだろうか…というものだった。 彼女は結婚をしていた。半ば金持ちであった今の夫のごり押しのようなものである。エレンは最初、結婚を嫌がっていたが、結婚しなければならないところまでだんだん追い込まれていき、泣く泣く調査兵団に別れを告げた。ただの女のような生活に身をおいた彼女は今でも、こんな話が来なければと思うときがある。しかし自分から巨人を取り上げた夫は、悪い人ではなく、よくエレンを気遣ういい人だった。だから彼のことを彼女は恨むことも出来なかった。 子供がお腹の中に出来たのは結婚して直ぐだった。まるで結婚した自分を励ますように宿ったその命の存在を知った時に、彼女はなんとも言えない喜びを感じた。自分はこのために自分の全てを何もかも捨てたのではないか、そう思えるほど彼女にとって子供という存在は大きかった。 一月二月と月日が流れていくにつれ、大きくなってゆくお腹を見守りながら。彼女は、子供が出来た時からずっと思っていた疑問を思う。この子は誰の子供だろうか。いや、正確に言えば、この子の『父親』はどちらであろうか、である。 「どちら」という表記に入っている男性の一人はもちろん夫である。もちろん彼女も結婚した身である、夫をないがしろにしたりなどしない。しかし結婚して直ぐに子供がお腹の中に宿ったので、肌を合わせたのは片手でも余ってしまう程度だ。そしてもう一人はエレンの想い人だった。結婚する前も結婚した今でも、自分たちが両思いだったのかどうか分からない。愛の言葉も交わさなかった自分たちが、キスは交わしていた事に驚きはしてもそれを後悔などはしない。もう随分と昔の事だった。本当はさほ時は経っていないのだが、彼女にとっては随分と時間がたってしまったように思えてしまうのである。 今でも、あのたくましい背中を思うと笑みがこぼれてしまうのは、彼女がまだ彼のことを愛しているからだった。だから彼女は願う。この子がどうかあの人の子供でありますように。もしこの子供があの人の子供であったなら。その証に自分はこの子に彼の名を与えようと…。 彼女は、赤子を抱き上げながら微笑む。元気な男の子だった。その子の髪の色は黒色だった。瞳は金色。どちらもエレンが持ち合わせているものだった。しかし彼女は分かった。この子が誰の血を引いているのかを。夫には強い子供になってほしいからと、自分が尊敬する人の名前を付けてもいいだろうかといった。優しい夫はそれを笑顔で了承してくれた。本当は夫が寝ずに考えた名前があったことにエレンは気付いていたのだが、彼女は今日ばかりはそれを見てみぬふりをした。 「リヴァイ」 彼女は愛しそうに赤子をそう呼んだ。 【誰が誰の】 子供の顔は、リヴァイにそっくりだった。違うのはその瞳の色だけで後は本当にそっくりだった。あのとがった目も唇も鼻も彼そっくりで、もしかしたら直ぐにバレてしまうかもれないと彼女はヒヤヒヤしていた。だから、何とか気付かれないように彼女は努力した。両親に似ていないといわれたら自分の祖父に似ているのだといい、その言葉に大抵の人が納得した。彼らはエレンの祖父の顔を知らなかったのだ。それで何とかごまかしそのことはさほど話題に上らなかった。 非番の時にちょくちょく遊びに来るミカサとアルミンにはあまり赤子を見せないようにした。見せるのは赤子が瞳を閉じて眠っている時だ。それに、ミカサが会いに来るたびに子供の名前を変えるよう熱弁するので、おきてしまうからという理由で、赤子は余り二人の前に出さなくてもすんだ。 夫にもなんとなく、合わせたくなくて、エレンは赤子を独り占めするかのように自分の近くに置いた。夫はそんな彼女にずるいと言ったがこればかりはゆすれないエレンは悪いと思いながらも子供を独り占めにしていた。 本当の父親であるリヴァイは赤子が自分の子供だという事を知らない。それはエレンがあえて隠したからだ。しかし、彼女に子供が生まれたことは知ったようで、子供が生まれた時、祝いだと言ってお金をごっそり持ってハンジと一緒にやってきた。そんなにいらないといったが、彼は耳を傾けず逆にこんなにもらえないという自分を脅しにかかってきたほどだ。 因みにリヴァイは子供の名前をリヴァイと付けた事を知った時、彼女の頭を叩いた。しかしその顔は嫌というわけでもなさそうで、どちらかというと気恥ずかしさが勝っているような気がした。 アルミンやミカサは非番が入ればいつでもエレンに会いに来た。他の面々は子供の誕生日が近くなると誕生日プレゼントをごっそり持ってきた。もしかしたら自分と張り合えるぐらい子供のことを可愛がっていたのかもしれない。リヴァイは二番目と三番目が生まれたときはまたごっそりお金を持ってきて会いに来たが、それっきりだった。 子供が成長し、四つになったころから言い逃れが難しくなるくらい父親に似てきた。だからエレンは出来るだけ子供が父親に似ないように勤めた。子供の髪をミカサぐらいまで伸ばし、父親似のつんとした目を出来るだけ隠せるように伊達メガネをかけさせた。子供には、貴方は目がちょっときついからという理由でかけさせた。しかし、父親似の顔を隠す事が出来たのはいいが、子供が髪が邪魔だという。彼女は髪を切ってあげることも出来ないので子供の髪を結ってあげた。子供はそれが気に入ったのか、それからあまり髪について何も言う事はなくなった。 今では子供は12という年に成長していた。子供はとても無表情な子で、寝起きでボーっとしているリヴァイにそっくりである。性格もリヴァイのように短気ではなかった。何と言うかエレンの血とリヴァイの血が旨いぐわいに合わさってプラスマイナスゼロになったようなそんな子供だった。 しかし、ちゃんと血は繋がっているらしく、手が出るのは早かった。この前、ミカサとアルミンが遊びに来たときのことだ。エレンには今では三人の子供がいる。彼女は出来るだけリヴァイと面識がある人物に彼との子供を合わせたくなくて、二番目三番目が生まれたときから、調査兵団の面々にはよくこの二人を合わせていた。二番目は女の子でこの子はどちらかという夫に似た子供だった。しかし瞳だけはエレンそっくりで、父似の金髪と母似の金色の瞳を客人にじっくり見られながらこの子は美人になるとよく言われていた。三番目は男の子でこちらは二番目の反対でエレンにそっくりだった。ただこちらは瞳の色が父親似で緑色である。ミカサはエレンが大好きなのでこの三番目が大のお気に入りだ。すきあればいっつも抱きしめている。 そんな時だった、長男であるリヴァイの子供が手、正確には足を出したのは。エレンに用のあった長男がアルミンとミカサを招きいれていた部屋に入ってきたとたん、いきなりミカサのことを蹴り飛ばしたのである。それに驚いてエレンはミカサ!と叫び、アルミンはびっくりして目を見開いていた。 「…呼吸が荒れぇんだよ」 いつもは大人しく礼儀正しい長男がこんな事をミカサにしたのは始めてでその時エレンはとうとう反抗期が来てしまったのだろうか…と嫌な汗をかいた。そうエレンが思っていた矢先、長男がぼそりとそう呟いて、ペッと部屋でも関わらず彼は唾を吐き出す。そしてそっと現在六つである弟をかばうようにして前に立った。それを聞いたエレンは、ハッとしても呼吸が荒いとはもしやどこか悪いのではと思いいたり、それは大変だといってミカサに病院に行かなくていいのかと心配した。長男は頭を見てもらえと母の言葉に付け加えて、部屋を出て行く。アルミンはそんな現場を見て、エレンは少し抜けてるよね、と思いながらミカサに視線を向けた。 「アルミン」 「…?どうしたんだいミカサ」 「私はチビが嫌いだ、だから同じ名前を貰ったあの子ともなかなか打ち解けない」 「そうみたいだね、」 しかし、アルミンは知っている。今さっき突然ミカサのことを蹴り飛ばした彼だが、別にミカサを嫌っているわけではないことを。ただ彼はミカサを正気に戻したかっただけなのだ。 「そういえばミカサ、君、さっきの蹴りは、よけようと思ったらよけれたんじゃない?」 アルミンが不思議に思ってミカサに尋ねる。ミカサは神妙な面持ちになって真面目な顔で答えた。 「…、よけようと思った。でもあのエレンと同じ金色の瞳を見たら動けなくなって」 「ミカサ、病院にいこうか」 ミカサ・アッカーマンはエレンが結婚してから、少しこじらせているものがある。 ミカサ達が帰ってから、子供はエレンの元へまた尋ねて来た。彼女はそんな息子を笑顔で受け入れると自分が座っていたソファーに座るように言う。彼はすんなりとそれをきき、母の隣へと腰を落ろした。 「どうしたの」 エレンがそう問いかけると、子供は少し言いづらそうな顔をした。子供は無表情が多い子だったが、時々困ったように眉をハの字にするときがある。そういう時は大抵どうしたものかと悩んでいるときで、彼女は息子が話しやすいように促した。子供はそれから口を開く。 「俺、訓練兵団に入ろうかと思ってる」 子供のその言葉は力強くて、エレンは息子が並々ならぬ決意でその事を自分に言っている事を悟った。エレンは少し潤んでしまう瞳を隠すように目蓋を閉じた。悲しかった、もし命を落としてしまったら…そう考えると辛くてたまらない。しかし、そんな感情よりも嬉しさがエレンの中を駆け巡っていた。ああ、この子はやっぱり兵長の子供なのだと、今は懐かしい人を思い出した。 「そう、ねぇリヴァイは何処に所属するつもりなの?」 そうエレンが問いかければ子供は驚いたように目を見開いた。反対れるかと思った。子供が素直にそうエレンに告げると、それを聞いたエレンはその言葉に曖昧に微笑んだ。それを若干不審に思いながらも子供は聴かれたことに素直に答える。 「調査兵団」 何の躊躇もなく告げられた言葉を聞いて彼女はその時、子供の父を思い浮かべた。彼もまたこんな風に堂々としたものだった。 エレンは少し考える素振りをみせながら息子の瞳をじっと見つめる。 「実はね、母さんはね…」 エレンは声を振り絞って息子に語りかけようとした。しかし、いざそれを口に出そうとすると声が震えてしまって、とんでもなく情けなくなってしまう。兵士ではなくなってから随分と時がたったが、その間に自分はこうも弱くなってしまったのかと項垂れる。息子は心配そうに彼女を見ていた。 「皆に秘密にしている事があるの」 「秘密?」 「えぇ、秘密。今からその秘密をリヴァイだけに教えるから」 彼女は一呼吸してから続ける。 「リヴァイだけね…お父さんが違うの」 子供はそれを聞いて、母を見つめる。その目には困惑の色が写り、瞳がゆらゆらと揺れていた。 「誰だ」 「……無事に調査兵団に入れたら…会える…から。誰にも言っちゃいけないよ?母さんとリヴァイの二人だけの秘密」 「……」 エレンは息子を見つめる、子供はそれだけで全てを悟ったのか首を縦に降った。しかし、納得はいまいちしていないようで、重いため息を吐いて、ぼふっと音をたてながら背もたれに体重を預けた。 どうやら拗ねているらしいその子供は、いつものようにぼそぼそとまるで腹いせのように「本命か…」と呟いた。 そんな言葉を耳にした彼女は久しぶりに少女時代によくしていた赤面をしたのであった。 ********************** それは子供が調査兵団に入ってからだいぶ月日が経った頃だった。部下である彼から書類を受けとったリヴァイはその部下である青年を見つめ、ふとあることに気がついた。彼の名前は自分と同じリヴァイ、母親の名前は昔部下であった女、エレンである。しかし、その二つはわかっているのだが、どういう訳か彼女の夫、すなわち彼の父親の名前が出てこない。 「おい、」 「そういえばお前、父親の名前は何だ」 リヴァイから言わせてみればただ気になったから聞いただけなのだが、青年の方はそうとは取らなかったらしく、リヴァイの言葉を深読みしすぎてしまった。 「リヴァイです」 青年は目の前の男が、自分が男の子供であることに気付いて、それを今問うているのだと勘違いしたのだ。バレているのならと本当の事を話してしまった。母とは秘密にしておくという約束だったが、バレているのなら隠し通さなくてもいいだろうと青年は考えたのだ。 しかし、ここでまたリヴァイも勘違いをする。リヴァイは、青年は質問が父親ではなく自分の名前だと勘違いしているという勘違いをした。だから彼はもう一度青年に問いかける。 「手前じゃねぇよ、父親の名前だ」 「だからリヴァイって……あ?」 「は?」 それから数秒経って、お互いが勘違いをしていたことに気がついた。だが気付いた後にはもう遅かった。 「……おい、どういうことだ」 父親のその問いに息子は淡々と自信の感想をのべた。 「いや、俺の父(戸籍上)より先に、あんたが母に手ぇ出してたってだけな話だろ」 リヴァイはその言葉を聞いて項垂れた。 |