結婚しろと言われる。

誰に、といったらやはり、閻魔大王…ではなく何故か神獣白澤からだ。 会うたんびに結婚しろ結婚しろと五月蝿くて仕方がない。はて、あれはいつから私の親になったか……?考えて、あれが私の親になどなってたまるかと、考えることを放棄した。想像しただけでおぞましかったのだ。

いつ頃から、あれが私の結婚をせかすようになったか…、私は思い出す事が出来なかった。春であった気もするし、冬であった気もする。何月か前の気もするし、何年も前の気もする。気付いたら、そう、気付いたらあれは私の結婚を望んでいたのだ。

どんな相手でもいい、お前が選んでハズレる訳がないのだから。そんな、結婚を当たりハズレのあるくじ引きのようなもののように例えながら白澤は私に女を貰えと言うのだ。

「何故、貴方がそんなことをとやかく言うのです」

「必要だと思ったからだよ」

「だから、それが何故だと聴いているのです」

そう聞くと白澤は、黙りこくって曖昧に微笑んだ。そのさまが何とも腹立たしく思えて顔をしかめると、困ったような眼差しをあれは私に向けてきた。どうやら理由は言いたくないらしい。

「……貴方が、私に何を思おうが勝手ですが、だからといって、貴方が私にとやかくいう筋合いはありません。思い上がらないで下さい」

「……、そうかい」

「そうですよ」

だって、そうだろう。あれは私にとって、私を束縛するような存在ではないのだから。そんな権利、白澤は持ち合わせていないのだ。だから、あれが何と言おうが、それを聞いてやる筋合いなど、私は持ち合わせていない。というか、大王から言われてお断りしたことを、何故あれにむし返されなければならないのか、理解に苦しむ。

「……貴方は、何がしたいんですか」

「さぁ、……何だろう? 」

「貴方、馬鹿にするのもいい加減になさい」

常々、意味がわからない男だとは思っていたが、ここまでひどかっただろうか。まるで、自分からそう仕向けているようである。というか、本当にそうなのではないだろうか。もし、そうなのであったら、やはり腹立たしくて苛々する。

「……何だろう、ただ、そいしてもらった方が良いような気がするんだよ」

そういいながら、白澤が手を伸ばした先にあったのは私の頬だった。故意にしたそれは、無意識に行って要るように見えた。そして私は、そんな白澤の行動が理解できなくて、やはり、苛立ってしまった。ゆっくり私の左頬に触れるその手が、自分の頬の体温より、温かくて、自分とあれは違う種族なのだということがこんなことでひしひしと伝わってきた。白澤がスッと目を細めて、それが私の視線とぶつかりあう。払い落とそうか…と考え、止めた。好きにさせてやろうと、何故か思ってしまった。

しかし、私が何もしないでいると、白澤の目に動揺の色が写った。怯え…なのかもしれなかった。自分でしたにも関わらず、その先をどうしたものかと迷っているのである。馬鹿馬鹿しい、そう思ったがあえて黙っておくことにした。そうすると、白澤は触れた手を引っ込め、鬼灯、と一言名を呼ぶ、その男の何と情けない姿。その姿に呆れを覚えるが、しかし、逆にそのざまが何とも可笑しくて笑ってしまった。

クスクスと笑われて、あれは馬鹿にされたと思ったらしく、顔を朱に染めて何かを喚く。その姿もまた、可笑しくて笑ってしまう。

「鬼灯!!」

「フッ、こんな格好の悪い男が私によく一丁前に結婚などとほざきましたね」

「ッ!!……」

「馬鹿馬鹿しい」

笑っていた顔を引っ込めて、そう告げる。本当にそうだった。馬鹿馬鹿しい、それ以外の何ものでもない。

最初から最後まであれが何をしたかったのか、私には分からなかった。例え分かったとしても対して変わりはしないだろう。だから、やっぱり私は結婚しないのだろうし、まだあれは、多分私に結婚しろとせがむのだ。しかし、私はそれはそれでもいいのかもしれないと、そんな柄にもないことを思ってしまった。






それから月日が立って、どうやらあれが私に結婚をせがんでいたのは、あれが失恋したいがためだったらしいことが分かった。あれは諦める踏ん切りが欲しかったらしい。あれは私の事が好きらしい。

馬鹿が、告白しろヘタレ。あと諦めるな。



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