教えて
もっと、相手のことを知りたいと思った。好きな場所とか好きな色とか好きな歌とか。好きなことだけじゃない。嫌いな食べ物とか嫌いなにおいとか。そんなの、この戦いしか、生きるか死ぬかしかない世界に必要ないって言われるんだろうけどさ。それでも知りたいんだ。
「なースコール、もっとスコールのこと教えてくれよ」
オレがそう言うとスコールはとても嫌な顔をして言った。
「そんなこと、知る必要ないだろ」
「そら戦いには必要ないけどさ、オレ、もっとスコールのこと知りたいんだよ」
「俺はアンタに知られたくない」
「またそういうこと言う」
「……なんとでも言え」
あっちょっと待てって、そう言ったオレを無視してスコールは席を外した。なんだか悪いことしたな……。
知りたいんだ。自分のことも、みんなのことも。全然知らない。そりゃ、突然異世界に呼び出されて、突然戦え、殺しあえ、って時に、好きな食べ物は? なんて聞いてるほうが馬鹿らしいけどさ。せっかく会えたんだ。相手のこと、知りたいと思ってもいいんじゃないか?
「ふられちゃったね」
「あ、セシル……見てたんすか」
セシルは笑いながらオレの横に座った。
「なんかさ、みんなのこと、もっと知りたいんだ。せっかく知り合えたんだから」
「うん、そうだね」
「でも上手くいかないんスよね〜……」
そういうとセシルは笑って、スコールは難しいからねって言った。
「あーー!!なんだかそう言われると意地でも知りたくなるッス〜!! 」
「その心意気だよ。頑張って、応援してる」
立ち上がって大きな声で言ったオレにセシルが微笑んでくれる。もっと知りたい。スコールだけじゃない、みんなこと。
「セシルのことももっと教えてくれよな」
「うん、ティーダのことももっと教えて?」
「まだ全然記憶、思い出してないけど、思い出したら言うッス」
「待ってるよ」
好きな場所も好きな色も好きな歌も。嫌いな食べ物も嫌いなにおいも。みんな、知りたい。記憶はあやふやで、自分がどんな世界にいたのかもよくわからないけど、相手のことが知りたいんだ。きっといつか忘れるだろうけど、そのたびに教えて欲しい。
風が吹いた。
戦いは終わらない。
2016.2.24
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