*死ネタ *暗い


「ティーダが死んだんだってさ」
「……は?」

昼下がりの喫茶店。まるで明日の天気を告げるようにさらりと言われた。

「だから、ティーダが死んだんだって。昔よく遊んだろ?」

そう言いながら目の前で対してうまそうでは無い大盛りのナポリタンをヴァンは啜る。
タバスコ取って、とか。俺も無言で渡している。
ティーダが死んだ? そういえばブリッツのスタジアムで見なくなって久しい。事故で大怪我をしたがリハビリもして今期は復活できるだろうと噂されたばかりだ。

「……なんで死んだんだ?」
「さあ? ああ、でも自殺じゃないかって。まだわかんねーけど首吊ってたらしいし」
「……」

飲もうとして持ち上げたコーヒーカップを口元に持っていき、しかし飲む気にもなれず再びコーヒーカップはコーヒーソーサーの上に戻る。

ティーダが死んだということを聞かされて思うのはなぜ、どうして、とか、例えばあの夏の終わりに海辺で花火をしたことだとか、あいつの青い瞳だとか、そういうつまらないことで。その全てが過去形なのだと思い知らされた。

「……」
「……なんだ?」
「いや、スコールってティーダのこと好きだと思ってたから。もっとショックとか受けんのかなって思ってたんだけど」

ズルズルと音を立ててヴァンはナポリタンを食べ進める。

「なんだそれ」
「違うんならいいけどさ。あ、おれ、デザートも食べていい?」
「……好きにしろ」

ヴァンとは旧知の仲である。だからと言って久しぶりにで思い出話をしようとかそういうものじゃない。こいつと再会したのはいまさっきであるし、連絡先を知ったのだってたまたまだ。今日はただ仕事の話をしに来ただけだ。ケーキセット、あとこいつにコーヒーのお代わり。静かな店内にヴァンの少し高い声はよく響く。



「これ、頼まれてたやつ」
「助かった」

手渡した資料にざっと目を通して俺はそれを仕舞った。仕事はちゃんとできるこだから、と紹介したセシルの言う通り、俺が依頼したことはきちんと出来ているようだ。チーズケーキをたった三口で平らげたヴァンはあんまり美味しくないなと言いながら立ち上がった。

「じゃ、おれもう行くから」
「お前……財布も持ってきてないのか」
「だってスコールの奢りだろ? 持ってくる必要ねーじゃん」
「俺も行く」
「ん、ゆっくりしていけばいいのに」
「次の仕事の打ち合わせがあるんだ」

飲み込んだため息が漏れる。わかってはいたが、調子が狂う。ヴァンといい、こちらもたまに仕事を頼むバッツといい、飄々としていて、普段から接しているようなタイプではない。たまにはそういうのと話したら、気分転換にもなるじゃないかと言ったのは誰だったか。余計疲れるだけだ。

代金を払う間、うろちょろしてるヴァンは喫茶店の名が入ったマッチ箱を手に取った。

「奢ってくれてありがとな」

おれはさ、

「ティーダの気持ち、分かるから」

じゃあなーと手を振って歩き出したヴァンを俺は追えなかった。

2020.12.31

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