同属嫌悪
なんだよアイツ、話しかけてもこっちを見るだけで返事もしない。最初は聞こえてないのかなって思ったけど、そうじゃない。意図的に話さないだけだ。すかした顔してさ。オレが何をしたってんだ。ただ話をしたいだけなのに。なんで、なんでこんなに気になるんだよ。こんなに癪に障るんだよ。
2016.1.8
多分上手く笑えていない。
どうしてアンタがそんな顔するんだよ。「スコール!眉間に皺、寄ってるッスよ!」オレはつとめて明るく言う。そんなに睨むなって。言いたいことがあるならちゃんと口に出して言えっての。言いたいこと、わかるよ。だけど、口にしないからわからないふりをする。オレもアンタもきっと上手に笑えてない。
2016.1.8
香水
「スコールって香水付けてるんスか?」
「…嫌だったか?」
「ああ、違うんスよ。いい匂いだなって。オレ、この匂い好きだな」
「…そうか」
よかった。お前が好きだと言ってくれて。些細なことだけれども、好きだと、そう言ってもらえることで、俺がどれだけ救われているのか。香水の一つでさえ。
2016.1.10
聞こえなかった告白
「なあ、スコール!」
オレは先を行くスコールに声をかけた。
「…?なんだ?」
足を止め、無表情に振り返る。
「あ、いや、何でもないんだ」
そういうと少しムッとした顔でなら、呼ぶな、とスコールは言う。去る背中にオレはありがとう、と呟いた。この世界で出会えたことに、ありがとう。
2016.1.11
いっそ心中する?
お前が消えるのは嫌だ。そう思った。自分は夢の存在で、帰る場所なんてこの世界以外にはもうないと。なぜ、そんなことを笑って言える?俺は笑って欲しいんじゃない、そばにいて欲しいだけだ。はっとしたようにこっちを見てそのまま泣きそうな顔をして、なら、いっそ心中する?とお前は笑った。
2016.1.27
たった二人の世界
水の中は静かだった。ただたゆたうだけで、身も心も溶けていくようだった。本当にこのまま溶けてしまえばいいのに。
「ッ…!ティーダッ!」
そんなことをぼんやり考えていたら思いっきり手を引かれてそのまま抱きしめられた。
「…スコール…風邪ひくよ」
ただその温もりだけが優しかった。
2016.2.25
境界線の引き方
「スコール!」
そうやって俺を見つけると勢いよく飛びついてくる。周りも日常のように笑っていた。
「やめろ、暑苦しい」
「そんな事言っても離さないッスよ!」
そうやって俺を困らせるようなことを言うな。そう声に出さずに悪態をつく。
とうの昔に境界線の引き方を、俺は忘れてしまった。
2016.2.26
君のいない春に眠る
春眠暁を覚えずって言うじゃんか。春の夜は、とても気持ちが良くて朝がきたことが分からなくなるんだ。いまは春でもないし、気持ちがいいわけじゃないけど。
オレたち、負けたんだ。この世界でひとり眠るのは、とても悲しくて、二度と目が覚めないような気がする。スコール、そばにいてくれよ、なあ。
2016.2.26
雨も、悪くない
いつも輝いていて、ただ眩しいと思っていた。だから、その笑顔の裏に何が隠れているかなんて知らなかった。
「…お前でも、泣くんだな」
「オレをなんだと思ってたんスか…」
その思いも、悲しみもすべて受け止めて流してやれる。
雨だって、悪くないと、そう思ってくれたら。
2016.2.29
だいたいいつもあいつのせい
いつもそうだった。気がついたら些細なことで言い争って、終いには殴り合いにまで発展していた。
だいたいいつもあいつのせいなんだ!
それが彼らの言い分だった。
気がついてないのかな?2人ともお互いに相手を気にして、それでも言葉が出ないから。言葉にしないと伝わらないのに。
2016.5.16
いえない我儘
半分に分けたリンゴは歪な形をしていた。それを気にとめず差し出してくる。
「スコールの分はこっち」
たとえ歪であっても、綺麗に分け合うことが出来なくても、俺とお前が背負っているものをこのリンゴのように分けられたなら。そう思いながら口にしたリンゴは決して甘くはなかった。
BGM アシンメトリー
2016.5.18
ごめんね
神々の戦いとか、世界の崩壊とか、そんなものどうでもよくなってしまった。思い出したくもなかった。オレが夢だってこと。みんなと同じじゃないってこと。帰る場所なんて最初っから無かったんだ。馬鹿みたいだよな。どうしてスコール、お前がそんな顔するんだよ。
2016.5.18
君と別れるなら、夏がいい
海岸を歩くと湿った砂が靴底にまとわりつく。波と遊ぶティーダはまるで同じ年だと思えないほど無邪気に見えた。足元にきらめく貝殻は拾うと砂がこぼれた。もう二度と、この季節は来ない。太陽の熱さもきらめく砂浜も波の囁きも渚に誘われたお前も。その全てが輝くから。
君と別れるなら、夏がいい。
2016.5.19
指切り
あほらしいって思ってたんだ。そんなのただの子供だましだろって。オレはもう子供じゃない。そりゃ大人でもないけどさ。約束なんて、指を絡ませたぐらいで守られるものじゃないって分かっていたのに。
離れた指先に残るスコールの体温が、ただ熱かった。あほらしくても、子供だましでも、また会えますように。
2016.5.19
もう一度、恋をしよう
恋、してえなあ。
隣からの呑気な声が俺の意識を奪う。
「なあ、スコールは恋したくない?」
「はあ?」
我ながらマヌケな声だったと思う。何を突然、そういうと彼は静かに言った。
「だって、恋していたらこんな世界でも生きてるって思えるじゃん」
はっとして隣を見る。彼はけらけらと笑っていた。
2016.5.19
幸せの終わり
彼の匂いが好きだ。彼の細い指が好きだ。厚い胸板が好きだ。薄い腰が好きだ。長い足が好きだ。
スコールが好きだ。
こうして、ただ言葉もなくひたすらに抱き合って、夜を過ごす、この空間が好きだ。朝なんて来なくていいと思うのに。ぎゅっと抱くと、より強く抱き返された。
2016.5.21
消えた足跡
水の中を泳ぐ、さかなを見た。
自由におよぐさかなはキラキラと太陽の光を浴びて金に光る。まるでさかなだと思ったそれは、ひとのようにも見えた。
触れた瞬間に壊れてしまいそうだ。伸ばした指は空を掻く。どうして。知らないはずなのに。
この感情を、俺は知らない。
2016.6.26
好きにならないはずがない
相手は同い年の、男なのに。性格も、戦い方も、何もかも違うのに。
違うから、惹かれてしまったんだ。
あーあ、オレかアイツが女ならこんな思いしなかったのに。なんでアイツなんだろうなあ。
なんとなく見つめていると、目が合った。にやりと笑うその仕草に頬がほてる。
バカみてー。相手はスコールだぞ。
2016.6.26
愚者の集い
スコールにアンタ、馬鹿だよなって笑いかけたら、とても不服そうな顔をした。いや、だって、馬鹿でしょ。オレはアンタに振り向かないのに、アンタはずっとオレが振り向くのを待ってる。馬鹿だよ、馬鹿だ。世界一の馬鹿だ。もっと、オレが欲しいって、求めてくれればいいのに。アンタは、馬鹿だ。
2016.12.2
神様は残酷
神様に残酷だねって言ったら、困った顔をされた。困ってるのはこっちなんだけど。どうしてオレを人間みたいに作っちゃったのかなあ、感情なんて余計なもの付けたのかなあ。ポンコツにも程があるだろ。オレは消えてしまうのに、スコールにはオレがスコールを愛した記憶が残るのに。残酷じゃんか。
2016.12.2
忘れろ、なんて残酷だね
想いを伝えてキスをしてセックスをして。好きだった。どんなこともオレが受け止めて、彼が受け止めてくれるんだと思っていた。自分達だけが世界から切り離されたような感覚。スコールの冬の空のような青灰色の目は静かにオレを捉えて離さない。揺れる唇が紡いだ言葉はオレにとっての死刑宣告だった。
2016.12.6
ちゃんとしろよ
だらしなくしていたら、ちゃんとしろよって。そう言いながら襟を正してくれるスコールが愛おしくて、そのまま軽く唇を押し付けた。ちゃんとしろよ。彼がそう言いながらもう一度した口付けは、唇から甘く広がって全身を通り抜ける。ちゃんとなんか、できない。今はただ気持ちいい、ただそれだけなんだ。
2016.12.16
消える
大丈夫、オレがいるから。大丈夫。この悪夢は終わるから。そうやって幼子に言い聞かせるようにいう。俺とお前は同い年の、17の男だ。不満そうな顔をすれば、強く俺の手を握る。オレはそのために呼ばれたのだから。はっと彼を見るとへにゃりと笑っていて、俺はどことなく不安になってその手を離した。
2017.2.26
罠
どうしようもなく好きなのだ。スコールのことが。彼の流れるような髪。額の傷。形のよい唇。ふっと口付けた。まるで誘われるかのように。食虫植物の罠ってこんな感じなんだろうかとぼんやり思う。こんなにも甘い罠ならば、身体も心も溶けて消えること、それが本望だと思ったんだ。
2017.3.5
郷愁
「あっちに」
そういった彼の目は遠い郷愁を讃えていた。
「泉があるんだ。行ってみよう」
三日月の形をした泉は泳ぐには浅すぎる。彼は靴を投げ出し、足を浸して鼻歌を歌っていた。その歌が、あまりにも下手くそで俺が笑うと、彼も笑って、これしか歌は知らないんだと困ったように目を伏せた。
2017.3.10
逃亡
自覚はあった。こんなことして何になるんだって。結局、神様に迷惑かけて仲間裏切って、オレはこうして血を流して倒れている。でもさ、ちょっと嬉しかったんだ。スコールがついてきてくれたことも、神様の顔に泥を塗ったことも。スコール、ありがとう。ごめん。オレは今、とても幸せなんだ。
2017.3.15
君の最期に
それは唐突にやってきた。
燎原の炎の如く膨れ上がるソレは瞬きをするうちに胸を焼き尽くした。その刹那が今という存在だということを認識したのは全てが終わった後だった。
「……ティーダ」
もう動かない彼の四肢を撫で付ける。眠るような彼にキスを落とす。溢れる気持ちはとどまることを知らない。
それは唐突にやってきた。
2017.4.8
サイダー
ぬるいサイダーを回し飲みするたびに、からからと音が鳴る。もう二度とない季節にはじけたのは二酸化炭素の気泡でも青く輝くビー玉でもなくて、自分の恋心だと気がついたのは、彼が笑顔でさよならを告げた時だった。
BGM サイダー
2017.5.14
top