星、魚、それから
*死ネタ
ザナルカンドでこうして輝く満天の星空など見たことがあっただろうかと不意に思った。あの街はいつまでも明かりが灯っていて、暗い夜など考えたこともない。星など地上に点々と散らばるネオンに霞んでその存在さえも認識することは無かったかのように思う。
あ、流星。
大したことないと思っていた。あのとき、これぐらいのイミテーションならふたりで倒せると思ったんだ。ちょっと怪我があったところでそんなにオレ、弱くないし。まあ、そんな自惚れのおかげでいまオレは地面に無様に転がされているわけで。あの硝子人形、剣の切れ味とかそういうのは一丁前なんだ。ハアハアと息遣いがうるさい。腹からじくじくと血が流れゆくのを感じる。クソッ、身体が自由に動かないことがこんなにもイライラするなんて。もしかしてこれってやばいのか?
死ぬということに直面して、その恐怖を感じて、さらに恐怖を感じたことに笑いが漏れた。死ぬ? 存在などない、オレが? そのことに怯えていることに笑ってしまう。
「気が触れたか」
そうやって笑っていたら隣から声が聞こえてきて。横を見ると同じように地面に転がっているスコールが顔をこちらに向けている。ああ、そんな風に悩ましげに眉を顰めて。その傷、新しいものじゃないだろ? いつもいつもそんな風に眉を顰めてるからその傷、治んないんスよ。
「なんか、死にそうだから」
「……そうだな」
そう言うとスコールは顔を空に向けた。オレも倣って空を見る。
星は死にそうなオレたちにも、どこかで戦っている味方にも、未来を憂う女神にも等しく瞬いているのだろうか。スピラを救った英雄たちにも、異界の誰かにも。
星が、眩しい。目を閉じる。オレって死ぬのかな。スコールも、死ぬのかな。……スコールと一緒に死ねるなら、それは至上の幸福だ。
頬に、触れる。びっくりして目を開く。スコールの手が頬に触れていた。
「なんスか」
「……」
彼は無言でオレの頬を撫で付ける。ゆるゆる、ゆるゆる。その手つきがひどく優しいもので、オレは心地よくて目を閉じた。
キラキラと、目の裏で星が輝いた。ゆらゆらと揺れる。スコールが触れた部分からボロボロと、自分自身が崩れていくような気がした。崩れたところからいま、オレが溶けてく。潮の匂い。漣の音。ああ、オレが、オレが溶けてく。ぴちゃんと魚が跳ねて、飛沫が触れた。温かい。
「なあ、スコール、オレ、オレさ」
スコールの手はもうオレを撫でてくれない。もっと、撫でて欲しい。そのままオレを溶かしてほしい。もっと、もっと。オレをスコールに溶かしてほしい。
「いま、めちゃくちゃ」
揺れる、光。
「しあわせ、っスよ」
2017.6.2