ある夜のこと
*R15

「……?」

何かが肌に触れた気がした。浅い睡眠からゆるゆると現実に引き摺られる。

「……スコール?」

帰ってきたのだろうか。彼は夜の哨戒に行っていたはずだから。

「帰ったんスか?」

ふらふらと。目の前の影が揺れる。オレの頬に、唇に、首筋に触れる彼の指は酷く熱を持っていて、ゾクゾクとする。

「……ん」

吐息が合わさり、そして離れる。胸の突起に彼の手が触れる。彼の顔は月明かりに影って上手く見えない。

「スコール? 早く治療しないと! どこに行ったんだい!? スコール!」

天幕の外から聞こえる怒号。慌ただしく巡る足音に目の前の彼を見つめる。

「スコール、みんなが、」

彼の血が流し込まれていくように、口から喉へと流れる熱。荒々しい口付けになされるがまま、溺れるようにしてスコールの背中へと手を伸ばす。ふっと熱が離れる。彼の頬を撫でる。

「怪我……はやく治療しないと」

彼の目は飢えていた獣のようで、また打ち捨てられた道端の子猫のようにも思えた。

「……はやく」

蒼い目がユラユラと揺れて。永遠にも感じる刹那、彼は立ち上がると天幕から出ていった。
遠い喧騒のように仲間が走り回る音が聞こえる。きっと今頃彼は不寝番をしていたセシルに起こされたティナとオニオンナイトに治療を受けているのだろう。彼と共にいたフリオニールやクラウドもおそらく。オレも起きなきゃ、そう思うのに。スコールから渡された熱が、ずっと燻って、口から喉から胃からみんなみんな焼けてしまいそうに熱い。胸を掻きむしりたくなるような衝動が襲う。頬に垂れた彼の血を掬ってそのまま唇に触れた。

「ティーダ! 起きてくれ! 人手が足りないんだ!」

天幕の入口が音を立てて開かれる。ジタンの声。オレの顔の血はきっと見られてないだろう。オレはすぐに行くと声をかけてくるまっていた毛布で顔を拭った。血が付いても別に構わない。スコールのなら、なおさら。
乱れた上着を正して、脱いだままのオーバーオールはそのまま天幕から出る。外は冷えて脳が覚醒するように全身を冷ましていく。怪我をした3人の姿は見えない。焚き火のもとに座り込むティナの横に腰かければ彼女は弱弱しくオレの名前を呼んだ。

「フリオニールもクラウドもスコールもまだ寝ていてるわ。傷もひどいし、それだけじゃなくて、魔法焼けを起こしていて……。私やたまちゃんのケアルだけじゃどうしようもなくて……」

ポーションは貴重品だ。それが手に入ることは最も稀有なことだった。こういう時、オニオンナイトやティナのケアルに頼りっぱなしになっている。今も彼女はぼんやりとしながら口を開く。バッツがいまお薬を作っているの。ごめんなさい。大変な時に。疲れて……。

「ティナ!」

後ろに倒れかけた彼女を受け止める。昼間の疲れもあるだろうに魔法をたくさん使ったからだろう、気を失ったティナを抱えて天幕へと運ぶ。横たえると彼女はごめんなさいと呟く。気にすることは無いッス、ちゃんと休んでというとまたごめんなさいと呟いた。

「ティナは?」
「疲れてたみたいだからテントに」
「そう……ありがとう、ティーダ。彼女に無理をさせちゃったな」

セシルは少し俯きながら疲れたように言った。オニオンナイトにもそろそろ休んでもらわないと。バッツが薬を作ってるんだ。足りないものはジタンとWOLが取りに行ってるから。僕とティーダでここを守らないと。
セシルの言葉に頷く。天幕から飛び出してきたままの格好はあまりに戦闘になったときに不利だ。オーバーオールを羽織ってくるといい、天幕に戻る。薄暗い天幕で、あの時のスコールの情景が思い浮かぶ。捲られた毛布の赤いシミ。ふっと触れるとまだ熱を孕んでいるようにピリピリと痺れた。スコール、スコール……。
オーバーオールを羽織って、フラタニティを握る。なんとなく、長い夜になりそうだと感じた。
2017.4.3



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