01.焦がれる

その、細く長い指が好きだった。髪をかきあげる指が、トリガーを引く指が、愛おしそうに愛剣を滑る指が、ただひたすらに好きだった。

◆ ◆ ◆

次元城の近くに広がる森は静かで、自然と皆の休憩場所となっていた。進軍もそこそこに陽の高いうちではあるが、既に腰を落ち着けようということだった。皆が思い思いにくつろいでいる。ウォーリアとセシルとクラウドは焚き火を囲んで次はどこに探索に行こうか、誰と誰をそこに向かわせるか地図を広げながら相談している。フリオニールとオニオンとティナはフリオニールとバッツが仕留めてきた獣を処理して燻製に、オニオンとティナが集めた野草を分け、お茶を入れている。バッツはジタンとティーダと水浴びに。その近くでスコールは日陰で愛剣の手入れをしていた。

「おーい、スコール。お前もこっち来て遊ぼうぜ!」

揺らめく水面から顔を出したジタンがスコールを呼ぶ。彼はちらりとジタンのほうを見るとふたたび愛剣に視線を戻した。

「ちえっ連れねーなあ」
「まあそういうなってジタン。俺らは俺らで楽しもうぜ!」

そういいながらバッツは不貞腐れたジタンの顔に思いっきり水をかける。あっくっそこの野郎! 負けじと水をかけあうふたりの様子を見ながらティーダはひとりゆらゆらと水面に浮かんでいた。

「あー気持ちいい……」

バシャン、と。思いっきりティーダの顔に水がかかる。驚きのあまり身体は浮遊力を失い、思いっきり水中に沈んだ。

「わっちょっと何するんスか!」

笑い声が聞こえる方向をきっとにらめば、いたずら好きのふたりがにやにやと笑っていた。

「こんっのやろー!」

わっと両手を広げて水をかける。ふたりはわらわらと散らばり、その水がかかることはなかった。水掛け合戦はだんだんと熱を帯びてゆく。心地よい日差しに揺れる水面が落ち着くのはずいぶんと先のことだった。

◆ ◆ ◆

「ティーダはさ、スコールのこと、好きなの?」

湖からの帰り道、先を行くスコールとジタンには聞こえない大きさでさらっとバッツが言った。

「えっ、なんでそう思ったんスか?」
「いやあ、なんかずっとスコールのこと、気になってたみたいだったから。勝手にティーダはスコールのことが好きなのかと思ってさ。ちょっと聞いてみただけ」
「別に、仲間として好きなだけっスよ」

ふーんと言うバッツにあ、信用してない顔してると笑って見せればああ、信用してないからなと返答がきた。

「お前がスコールを見る目は俺やジタンを見る目と違うんだもん。そりゃわかるよ」

真剣な目を向けられ、少し怯む。

「そんなんじゃ、ないっスよ」

そう言ってこの話はなしだとティーダはスコールとジタンのところに割り込んでいく。その後ろ姿をバッツは子供だなあと思って見つめていた。

◆◆◆

「ティーダ、飯だ」

そう言って差し出されたスープを受け取る。触れた指先がピリリと緊張する。一瞬だったから、それはスコールにはバレなかったけれども、その指に不意に触れて熱を持つ。

「ん、ありがとう」

恥ずかしくてそそくさとフリオニールたちのいる方へとかけていく。どうしたんだ? 顔が赤いぞ? 熱でもあるのか? と聞くフリオニールに何でもないと言えばそうか、でも心配だ、お前はいつも水浴びが長いからと見当違いの説教をされた。それは右から左に流されて、ティーダの瞳はスープを配るスコールを捉えて離さなかった。
説教をするフリオニールをなんとか説得してティーダはその日の夜番についた。具合が悪くなったらすぐに俺を起こしてくれというフリオニールに大丈夫だって! と言えばそうか、それでも……とごちる。

「フリオニール、心配しすぎ! オレのこともっと信頼してくれよ?」

そう言えば彼は渋々天幕へと入っていく。

「前にフリオニールに心配が趣味なの? ってティーダが言ってたけど、本当にそうかもね」

とセシルが笑えば、オレはそんなに信用ないんスかねと不貞腐れる。そんなことないよ、あとはよろしくと言って天幕に戻ったセシルにおやすみと声をかけた。

「それじゃあ俺は哨戒に行く」

気を付けてとクラウドに声をかければ片手をあげて彼は闇に消えていった。

チチチッと野鳥の声がする。こんな夜に難儀なことだとぼんやりと火を見つめる。パチパチと燃える炎は心の中を燻ってもやもやを募らせる。スコールたちが眠る天幕は炎の先にゆらゆらと揺らいでいて。苦しくなって目を逸らした。彼の細く長く、それでいて男らしい手が好きだった。いつか触れられることを夢見る自分はまるで恋する乙女のようでなんだか自分が自分で気持ち悪くなって困ったように笑った。彼の手に触れられたい。あの愛剣のように、愛おしく、触られたい。ゆらゆらと、パチパチと燃える炎が顔を舐める。体育座りをした足の間に顔を埋める。好きだ、好きなんだ。チチチッと無く野鳥が恨めしかった。早くこんな夜が終わればいいのにと、見上げた空は曇り空だった。

2017.1.3


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