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右腕には月山習、左腕には金木研。

文字だけ見れば美男二人に取り合われている女――両手に薔薇。しかし私の脳内には常に二人分が居座れるスペースはないのだ。どちらか片方ではなく、二人共、だ。

私にあるのはただ食欲のみ。目の前に鎮座しているその美しい形状をした生地の層を、少しでも早くこの手で切り崩して口に運びたい。ただそれだけだ。


「もういい加減にして!私は早くこれを食べたいの!」

「嗚呼僕のプティトワゾ、許しておくれ。食事を大事にする君の気持ちは良く分かる……しかし人には何人たりとも譲歩し難い局面があるものだよ」

「月山さんがその手を離せば済む話ですよ。さあ早くして下さい、なまえがそれを食べたがってます」


私を挟んでバチバチと火花を散らす。普段月山は金木の尻を追っているのだから、こんな時こそ二人で仲良くしていればいいのにと心の中で独り言ちった。

それでもどうやら私に興味があるらしく、顔を合わせれば迫られるという始末。本当は有り難い事なのだろうが、生憎私は今のところ関心がない。だから何度もお断りしているのに、ここまで来ると流石に迷惑だ。特に私の人生の楽しみであるスイーツを食そうとしている時は尚更。


「Pardon?一体何故僕なんだい?」

「月山さんは美食家じゃないですか。僕にはそこまで食に対する執着心が無いので分かりませんけど、貴方になら理解出来るのでは?」

「フランボワーズストロベリー…ヴァニラでアロマティゼしてエアレイションしたジェノワーズをグラサージュ…」


時間を有効活用しようと、未だ手の届かないデザートをまずは目で味わう事にした。製作過程に想いを馳せていれば「なまえが月山さんみたいになってるじゃないですか」と更に少し力を強めた。


「それではこうしよう、カネキくん。僕は君の言う通り手を放そうじゃないか。これで異存はないね?」

そう言い終わるとなまえが使うべくして添えていた銀のフォークを手に取り、頬に手を滑らせて其方を向かせる。そしてその小さなスイーツに先を突き刺そうとした時、突如なまえが大暴れしだした。


「いやあああああああああ!!!ストーーーップ!!!やめて!!!何してるの!私のスイーツに勝手に食器をつけるなんて最低!眼中無人の気随気儘!」


金木がしがみついているのも忘れて立ち上がりフォークを奪い返す。その勢いで床に転がった金木と、手を宙に浮かせたままの月山は揃ってぽかんと口を開けている。


「こう…自分の手で生地を崩していく瞬間が堪らないの。切り口から覗くパイの層も美しいよね。それをこうやってクロテッドクリームに絡めて……真っ赤なミックスベリーのソースも本当に綺麗…」


さくりと口に広がる甘酸っぱさは至高だ。ふわふわと蕩けそうな意識の端にこちらを見つめる二人が掠めるが、私にはやはりこちらの方が良いようだった。




最低値愛情のトラヴァイエ
(…喰べたいですね)(嗚呼、食べたいね)


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