「Bonsoir,princess.
(こんばんは、お姫様)」
「Oui,Bonsoir monsieur.
(ええ、こんばんは月山さん)」
青白い月明かりの中で妖艶な笑みを浮かべる月山さんは綺麗だ。私から見たら一部の特殊な性癖を除き理想の男性像そのままで、密か、ではなくかなりオープンに想いを寄せている。
なのに彼はずっとどこか私を子供扱いしているのだ。
「まだ私はプリンセスなの?」
「おや、お気に召さないかい」
「だって…イリミさんとかイトリさんには、レディとかミスとかで呼ぶのに」
今日のお土産は、お決まりの花束とパステルカラーの可愛らしい包みに入った珈琲粉、そして手触りの良いうさぎのぬいぐるみだ。
少し大きめのそのうさぎをぎゅっと抱きしめると、私の心を代弁したかのようにぷーと鳴いた。
「それは君があまりに愛らしいからさ」
「む……私だって月山さんとみっつしか変わらないのに」
「エイティーンを過ぎてからの一年とは存外大きいものだよ、なまえ」
くしゃりと頭を撫でる手は優しい。普段血濡れのあの手と同じものだと想像も出来ないほどに。
好きだの何だのわめき散らす割に、いつも素直に甘えられない私を分かって甘やかしてくれる。さらさらと髪を梳く手を両手で捕まえると、不意に月山さんの顔が近付く。
「それとも……僕とこういうこと、したいのかな」
耳元で囁かれたと思えば、つ、と唇で首筋をなぞられる。あまりにも予想外の出来事にぎゅっと目を瞑ると、ジョークだよ。と笑われた。
なんだかとても悔しい。悔しいけれど心臓は皮膚を突き破りそうなくらいバクバクしているし、抱えていたうさぎは床に転がり落ちそうになった。我ながら酷い動揺っぷりだ。
しかしここで負ける訳にはいかない。
「月山さん、」
ネクタイをぎゅっと掴んで背伸びをし、勢いに任せてそのまま唇を重ねる。穏やかに微笑んでいた表情が僅かに驚きを含んだものになり、私はにやりと口角を上げた。
「私のものになって」
更に少し目を見開くと、後ろの壁にもたれ掛かって参ったな、と呟いた。
「甘く見ていたが…君もなかなか遣り手のようだね」
「月山さんにだけだもん。それに、お姫様の言うことだったら聞いてくれるんでしょ?」
「オフコースオフコース、勿論さ。でも、僕はもうとっくに君のものだ」
そうでなければ、快晴の夜は新しいご馳走探しに出掛けるのが得策というものだろう?と微笑んだ。
再び心拍数が上がり、指先から耳まで一気に熱くなる。一歩距離を詰められたと思うと頬と腰をホールドされ、動けない。
「愛しているよ……my princess」
籠姫
(どうかずっと捕らわれていて)