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「失礼致します」

フォーマルなエプロンドレスに身を包んだ女性が3人、扉を開けて室内へと入って来る。それからサンプルというには目を見張るほど沢山のドレスが搬入され、再びドアは元の通りに閉まった。


今日は結婚式のドレスの採寸とデザインの打合せだ。本来なら式場などの手配が済んでから選んだ方が良いのだろうが、何故か習の方がドレス選びを楽しみにしてしまい、事あるごとに衣装の話を持ち出すため少し早めに決めてしまう事にしたのだ。

ドレスショップはどこにしようかとパラパラ情報誌を捲っていると、どうやら月山家が懇意にしている呉服屋があるらしく、しかも「採寸等は家の者が出来るから心配しなくて大丈夫さ」と言われてしまった。改めてブルジョワは違うな、と思いながらもいつかは自分もこの環境に馴染んでしまうのかと考えると少し頭が痛くなった。



「なまえ!もう決まったかい?!」



ようやく型に合わせて採寸が始まったかと思えば、数分もしないうちにドアの外から声が聞こえる。しかも壁1枚隔てているとは思えないほど声が大きい。明らかに興奮し過ぎだ。どうにも習は私を着飾らせるのが好きらしい。


「まだ測り始めたばっかりだよ!30分も経ってないよ!」

「C'est exact…その通りだ。僕としたことが…嗚呼、すまない…女性を急かすなど全くジェントリーじゃないね………それでも僕は…!この扉の向こうでなまえがドレスファッションショーをしているのを一時たりとも見ることが出来ないのが堪らなくデュール!辛いんだ…!」


膝から崩れ落ちたのか、廊下からドサッと音が聞こえてくる。
私としてはドレスは式当日まで秘密にしておきたかったのだが、よく考えてみればこれから毎日「どんなドレスにしたんだい?教えておくれtell me」と付きまとわれるのが目に見えるようだ。


「だからまだ測ってるの!試着の時になったら入れてあげるから!習はそこから3歩下がって左にずれて!」

「ンン、どうしたんだい?言われる通りにしたが……」


まだ採寸にも少し時間がかかるだろう。デザイン一覧と型が描かれている表を習に持って行って貰うように頼む。さっき指定した位置に移動していてくれれば、例え少しドアが開いてもここは死角になって見えない。いくら結婚するといえども、一糸纏わぬ姿を見られるのに恥じらいを感じない訳はないのだ。


それから全身十数ヵ所のサイズを測る間も、外から非常にエキサイティングな独り言が聞こえたが、聞こえないふりをした。そもそも聞こえても日本語ではない言語が多すぎてあまり意味が分からないのだが。

一通りイメージしているヘアメイクをしてもらい、サンプルの中にあった一番気に入った一着を最初に着せてもらってから、習に呼び掛けた。



「もういいよ〜」

「本当かい!では、失礼するよ」

あんなに騒がしくしていたのは何処へやら、こほんと咳払いをしてから怖いものを見るように恐る恐るドアを開く様子が堪らなく面白い。


「こんな色いいな〜って思ったんだけど、どうかな?」

習は開け放たれた入口に突っ立ったまま、両手を微妙な高さに上げて微動だにしない。


「習…?」

「なまえ……すごく、綺麗だよ………嗚呼…!こんな在り来たりな言葉しか贈れない僕をどうか許しておくれ…人は本当に美しいものに直面した瞬間、言葉を失くすんだね……?」

「あ、ありがとう…」


今着ているのはお色直し用の葡萄色のカクテルドレス。螺旋状に大胆なフリルがあしらわれている。腰の辺りに添えられている同色の薔薇のコサージュも気に入った。習はぐるりと私の周りを回ると、傍の女性に声を掛けた。


「生地のグラデーションは可能かい?」

「はい、可能で御座います」

「模様の追加と部分的な色の変更も?」

「勿論大丈夫で御座います」


すると着ていた自分のジャケットを脱いでひっくり返すと、びっしりとよく分からない幾何学模様が描かれた裏地を見せて言った。


「では側面にこれと同じ模様を…ああ、色は白色半透明で。それと裾にかけてクリムゾンレッドのグラデーションを入れてくれたまえ。後は…」

「ちょ、っちょっと!ちょっと待って!!!なんで勝手に決めて…というかこれ以上模様を入れるの?!このままでも十分綺麗だと…」


「あぁっ、すまない…またしても僕は…!なまえの意見を聞かなくてはね。グリッターはどのパターンがお好みかな?僕はBパターンが良いと思うのだが…」

「えっ、うーん…私はAかな…じゃなくて!もう!やっぱり外に出てて!」



そのまま背中をぎゅうぎゅうと押して再び廊下に放り出す。
結婚式当日に、用意したウェディングドレスとカクテルドレスの他にもう一着ドレスが運び込まれる事など、今の私は知るよしもなかった。



花筐
(僕からの贈り物は気に入ってくれたかい?)
(こ、これは確かあの時の………!!!)


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