さらさらと髪を手櫛で梳かしていく手付きはとても優しい。腰ほどまである私の髪は、あっという間に綺麗に纏められていく。
頭の少し高めの位置で二つに分け、リボンを結ばれる。今日は鮮やかなセルリアンブルーのようだ。只の布製の紐ひとつを取ってもひどく高級そうなのだ。
毎度毎度まあよく選んで来るものだとドレッサーの鏡越しにじっと見詰めれば、にこりと口角を上げた。
「どうかな、気に入ってくれたかい?」
結い終わった束に指を絡め、口付けをしてからすとんと落とす。
「…まあまあ」
「はは、僕のお姫様は手厳しいね」
そう言って私の頭をひと撫でする習にやはりどきりとしてしまう。引かれた椅子から降りて全身鏡の前に立つと、ピーコックグリーンが基調のパニエが入ったドレスワンピースに、リボンの色はとても良く合っている。
気に入らないなんて事は絶対にないのだ。事実この服も習がくれたもので、彼は私がこの色を好んでいると知っている。
ただ私は人より、ほんの、ちょっとばかり感情を素直に表すのが苦手なだけなのだ。しかしそんな私にも無性に誰かに甘えたい時がというものがある訳で。
「…処で、僕を突然呼び出したということは…会いたがってくれていたのかな」
「そんなんじゃないけど、習が私と会えなくて寂しくないかなって思っただけだよ。…それに暇だったの」
と言った彼女は、柔らかげなスカートの裾を揺らしてソファに座る。自分では気付いていないだろうが、早口で焦った様に捲し立てるなまえの気持ちはそこらにいる女性より遥かに解りやすい。
いま彼女が着ている洋服を贈った時も、ピンクが良かったと言いながらも口元は嬉しそうに緩んでいた。
それにちらりちらりと悩ましげに視線を投げ掛けてくるのは大抵、なまえが構って貰いたい時だ。
言葉にしないながらも、ありありと伝わってくるその可愛らしい葛藤は十分に僕を幸せにさせる。
「Amore,ありがとう、僕はなまえがいないと死んでしまうからね」
前まで歩いて行き、なまえの膝裏に腕を回して自分の上に座らせる。左耳にそっと唇を近付ければ、元々ほんのりと色付いていた頬はみるみるうちに紅くなっていく。
俯いて裾についている小さなリボンをいじくっている彼女の周りには、汗マークが見えるようだ。
あまり苛めては可哀想だからそろそろ抱きしめてあげようと腕を動かすと、不意に目前に青い蝶が踊った。
「…わたし、だって、おんなじだもん……」
「Santo…cielo……(なんということだ)」
首筋に寄せられた頬が熱い。自分の中の"何か"にも、じわりじわりと熱が広がっていった。
布造りの蝶
(嗚呼なまえ堪らなく可愛らしいよ今すぐにでも食べてしまいたい…)(……)(勿論あちらのベッドの上で)(調子に乗らないで!!!)