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「やっぱり格好いいなあ……」


お気に入りのヘッドホンからは私の憧れるバンドグループのギタリスト、ウタさんのソロパートが大音量で流れている。

派手でパンキッシュな装いに反してとても繊細な手付きをしている彼のギタープレイは実に魅力的だ。しかし弱々しいことはなく、ギュイギュイと唸る旋律は激しく私の心を揺さぶる。



「うわっ、もうこんな時間だ!」


壁に立てかけてあるギターケースを肩に担ぎ、音楽プレーヤーのボリュームを少し落として家を出る。

ウタさんに憧れる私は、彼を好きになってからお小遣いを貯めてギターを買い、友達とバンドを組んだ。未熟ながらも少しずつ上達してきていて、今日は初めてのスタジオ練習なのだ。


遅れてはいけないと思い全力疾走しすぎてしまったからだろうか、スタジオに着いたはいいものの待ち合わせ時間まであと30分はあった。


勿論、時間に厳格とは言えない友人達の姿はまだなく、仕方なくロビーのソファに腰を下ろした。今のうちにまだ出来ない箇所をおさらいしておこうとギターを取り出す。



「ううん……やっぱり…よっと、ここが………」

この間から練習しているFコードがどうしても上手くいかないのだ。2弦の音が上手く出せず、投げ出してしまいたい時もあった。



「はあ………私もウタさんみたいに出来たらな…」

スマートフォンのロック画面に設定してあるギターを弾くウタの姿を眺めると、ふと前に人が立ち止まった。

友達が来たのかと顔を上げれば、そこには手元の液晶に映っているその人が目の前に立っていた。



「僕のこと、呼んだ?」

「………えええええあ、う、う、う……!!!!」


黒いハットにサングラス、黒いタンクトップとパンツにラフなカーディガンを羽織ったウタさんは、当たり前だが遠いステージ越しやテレビの液晶腰に見る姿そのままであった。

驚きと感動で手が震える。これが俗に言う"遭遇"というやつだ。



「ふふ、落ち着いて」

「あっあのっ、ウタさん…大ファンです!!!」

「ありがとう。ギター、僕と同じ色だね」


そうなのだ。ウタの使っているクリムゾンレッドの派手な出で立ちのギターが格好良かったのが半分と、やはり好きな人と似た物を使いたいという乙女心半分で同じ色のギターを選んだのだ。


「その様子を見ると、Fコードの練習かな?」

「はい……2弦とセーハがどうしても難しくて…」


Fコードは僕も苦労したな。と笑うウタを見て、こんな凄い人にも行き詰まった時があったのかと信じられない思いになった。


「最初は1フレットじゃ難しいと思うから、ここくらい下の方がいいよ」

ヘッド下を掴んでいた私の手を握り、そのまま下の方に下げた。そして次に指を一本ずつ弦に配置して、更にはピックを持つ右手を上下に動かし始めた。



「指の側面で6弦から……そう、そしたらここを挟んで、うん、上手」

正に手とり足取り。丁寧に説明するウタさんの声に必死に耳を傾け実行するも、やはり掴まれている手に意識がいってしまう。手汗はもうびしょびしょだ。


「あとはしっかりアンプに繋いで綺麗に全部の音が出るまで試してみて。そしたらすぐに1フレットでも出せるようになるよ」

「ありがとうございます……!!!!」



その時階段の下の方から友達の声が聞こえてくる。時計を見ると待ち合わせ時間を5分過ぎたところだった。


「お友達が来たのかな?じゃあ僕はこの辺で」

「あっ、あのっ…!」

踵を返そうとしたウタさんが再びこちらを向く。


「応援…してます……!」


ありがとう、頑張ってね。とにこりと笑って背を向けて去っていくウタさんの姿を見つめ、今起こった事は夢ではないのだと実感した。




「なまえー!遅くなってごめーん!」

「電車が遅れてたんだって!」

「ええ?ほんとに〜?」

本当だし!と言うと、その場にいる全員の目が私のギターへと向く。なんだろうと思い自分も見てみると、そこには黒いマジックで英字が書かれていた。






クリムゾンレッドの憧憬

(ウタのサインじゃん!!!どうして?!?)(え…あ、いや、その……色々…)


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