僕と彼女が目出度く結ばれてからというもの、月山家に関わることになったなまえは共に酒の席に呼ばれる事が格段に多くなった。
そして、なまえのその取っ付き易い人柄も相まって、僕の遠回しな静止も虚しく酔いすぎてしまうのだ。
「なまえ……だから言っただろう…?」
「うん〜〜…へへ…」
用意されている客室へと戻る為にパーティールームを後にするが、半歩前を歩くなまえの足取りはよたよたとおぼつかない。
一定の距離を保たず、遠のいたりぶつかったりと揺れ続けている彼女の肩を弱い力で引き寄せる。動かないように腰をホールドしてしまっても良いのだが、今の状態ではくっ付きすぎると足がもつれて転びかねない。
この様子だけ見ているとかなりの酒豪のようだが、なまえは人より大分アルコールに弱いのだ。実際に飲んだのはハーフボトルの3分の2程度ではないだろうか。なので酒臭いと思うほどではない。
部屋の前を通り過ぎて歩いて行こうとするのを捕まえて部屋に押し込み、ソファに落ち着けて水を汲みに行く。
「ほら、ミネラルウォーターをお飲み」
「ん〜〜」
自分の分もついでに入れてきて一気に煽った。ソファは厚みがあり、ふかふかとしていて気持ちが良い。両腕を背もたれにかけて伸びをして目を瞑ると、左腕に軽い衝撃を感じる。なまえが寄りかかっているのだろう。
思い返してみれば、結婚する事に決めてからやらなければならない事に追われ、ただ二人で生活していた頃のようにのんびりと過ごしたのはかなり久しぶりだったかもしれない。
折角少し遠出してきたのだから明日は何処かに寄ってデートでもしに行こうかと思案していると、腕にあった重みが胸に移動する。
「なまえ、眠いのかい」
否もう既に眠りかけているのか。返事はないがもそもそと自分の寝やすい角度を探している。手をシャツの襟口に掛けられて若干息が苦しい。
「ん〜しゅうーーーー…………」
結局、額を二の腕に押し付ける形で落ち着いて今度こそ眠ってしまったかと思ったが、不意に名前を呼ばれる。寝言ではなさそうだ。
「うん? どうかしたのかな、princess.」
「ん……………すき………」
鼻頭を首筋に押し当てすん、と息を吸う。いつもと立場が逆になっている。いま巷で噂の"犬系女子"というやつだろうか。
そのあまりに可愛らしい姿にガラにもなく心臓はどくどくとビートを打つ。平常を装って僕もだよ、と囁き、なまえの全身をすっぽり包み込んでしまう。
僕だけの可愛いなまえ。酒気を帯びて熱く蕩けそうな白い肌、彼女自身の甘い香り、薔薇の花弁のように紅く艶やかな唇。
この愛くるしい生物と毎日同じ空間で生活していて理性を保っている自分は如何に屈強かと、手前味噌も山盛りである。
だがしかし流石に我慢の限界はある訳で、それが顔を出す前になまえをベッドに寝かせて来てしまおうとそのまま体を持ち上げると、腕に鈍い痛みを感じた。
見るとなまえがかぷりと噛み付いていて、そのままはむはむと左腕を甘噛みする。痛すぎずくすぐったくもなく、ただ着々と色々な面に刺激を与えていっているのは確かだった。
「…はは……喰種ごっこでもしているのかい…」
なまえを抱えたまま立ち尽くす。
このちっぽけな役者が僕のリーズンを喰べきってしまうまで、あと何秒か。グラスの中の氷がことりと音を立てて笑った。
Câline