悪魔が構えるマスケット
名前は日本からジョースターさん達にくっついてきた、因縁も理由もないただの女だった。
楽観主義なのか、はたまた情に厚いのか、きっと前者だろう。
彼女は、ひどくタフだった。
スタンドも戦力になるし、軽口にも付き合える、状況判断にも優れている。
確実に心身ともに痛手を負うこの旅でも、名前は極限の状況でお楽しみを見つける。
ひどくタフな女だ。少々姦しいといえば身も蓋もないのだが。
「ポルナレフはさ、この旅が終わったらどうするの?」
「まだ諸悪の根源まで到達してねえのに、先のことなんか考えられるわけ無いだろうが。」
「将来のヴィジョンは正確に持っておくべきだと思うよ。」
「名前にだけは言われたくなかったセリフだな。」
「失礼な人だな。」
名前と2人で休息の合間、買い物がてら乾燥した大地を踏みしめながら脳みそのない話をしていた時だった。
仲良くカカシになりながら、唐突にそんな話題を投げかける。
ふざけていたと思ったらこれだ。
ふざけたことに力を惜しまないくせに、こういった時に真面目な質問を投げかけてくる。
厄介だとは思う。こいつは唯の女ではないのだ。
「それで?聡い名前ちゃんはどういった未来を想像してるのかな?」
「とりあえず、SPW財団から謝礼金をもらうでしょ?それで、スタンド使ってお金を荒稼ぎする。」
「それってすれすれじゃあねーの?」
「私、善人ってわけじゃないもの。」
「悪人ってわけでもねーだろうよ。悪人だったら見ず知らずの他人の為に命なんかかけない。」
「わからないよ。今回旅に同行したのは成り行きだって事は知ってるでしょ?」
「ああ、聞いた。とんだ物好きだな。」
「もし、ジョースターさんに会わないでDIOに出会ってたら、多分そっちについていったと思うよ。私根っからの悪人ってわけじゃあないけど、お金はほしいもの。」
「お前な、」
「ポルナレフが怒るのも無理ないと思うけど。でも私はお金が大切。私得にならないことするの好きじゃあないの。」
厄介な女。名前は自分でよく損得勘定で動いていると豪語している。
値切るときは相手が衰弱するまで値切るし、無駄遣いを嫌う。二束三文でももらえるものはなんだってもらう。
計算高い嫌な女だろう。
「それにしたってリスクが高すぎねーか?お前はギャンブラーじゃないだろ。」
「そりゃそうだけどね、お金もらえるし。」
「命の危険を晒してまで?」
「それは、」
「そこにお前の大好きな損得勘定は動いてないんだろ。承太郎が言うお人好しってやつだろ。」
どうやら俺に図星を突かれた名前はおおよそ女が発しないような言葉を飛ばしながらさっさと先へ進んでしまった。
このごった煮の色物集団の皆に習うように、名前もまた善人なのだ。
ひどくタフな女は、黒く溶けることはなく、軽口を叩きながら正義の為に命をかける。
歴史に残ることのない立派な戦士だった。
なんだか愉快な気分になって名前の肩を抱いて俺達は巻き上がる砂埃の中を確実に進んだ。
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