愛しい彼女の躾には
風も冷たくなり、空も高く感じるようになった秋晴れの日。
大学に提出しなければならないレポートを作成していた。
別に急ぐもんじゃあねぇが、ちょっとした遊びに利用するのには良い用事だな。
パラリと内容確認したレポートを机に置くと、隣りからの視線と気配が強くなった。
ちらりと気配がした方向を見やれば、名前が此方をキラキラと期待に満ちた眼差しで見ている…。
名前の頭と尻に、ピンと立った犬の耳と千切れんばかりに降られる尻尾がみえた気がした。
あれか、本人がこれだからスタンドも犬…おっと、アレは狼型だったか…
それとも、スタンドが狼型(?)だからコイツがこんな感じなのか……
「お、終わった!?」
何度目か分からない考察を阻んだのは、他でもない件の本人で、弾む声からも喜んでるのがわかる。
まあ、此処で『終わった』と構い倒してやるのも悪くは無いが……。
「…まだ終わってねぇ」
それでは面白くない…。
レポートの提出期限は来週の物で、しかも兼ねてより纏めてあったから先程の確認で既に作成など終わってしまっている。
「えぇ〜、まだなの…??」
沈んだ名前の声を聞きながら、関心などないかの様に振る舞いつつ様子を伺い見た。
面白い位に分かりやすい顔をしている。
キラキラと期待に満ちた眼差しは寂し気に揺らめき、ピシッとした佇まいは今や緩く力が抜けて明らかに残念そうだ。
そういう姿を見ると、そろそろ構ってやるかという気になってくる。
まぁ、素直に構うなんて事はないが。
「…名前、『待て』だ、出来るな??」
なおも何かを言い募ろうとする名前の前に右手を前に出して言う。
随分と焦らしたからな、コイツも我慢の限界だろう、いつものように「構って」と駄々をこねだす頃…。
それに便乗して「仕方のないヤツだ」と構い倒そう…。
俺もいい加減コイツを構いたくなっている。
が、事は以外な展開をみせた。
「…ん〜、分かったぁ」
コクリと、祖父譲りなのだと自慢していた長い金の髪を揺らし俺の『待て』を承諾してしまったのだ。
どうした事か…、素直に「分かった」と言われてしまっては此方も構えない。
いつもと違う展開に打開策を巡らせながら、
今月末に出せば良いレポートの作成まで始めてしまった。
レポートが進むのは構わないが、好きな女がベッドの上で転がっているという好シチュエーションを横にやる気など皆無だろう。
…いや、別のヤる気はあるが。
レポート用紙の空白を埋めていく俺の横で、何やら背を向けゴソゴソと作業する名前。
ぽそぽそと小さな声も聞こえる。
?
集中して声を拾うと…
「『…良く我慢出来たな、やるじゃねぇか』」
??
「うん、私ちゃんと待ってたよ、偉い?」
???
「『あぁ、惚れ直したぜ、流石は俺の女だな…
「おい、さっきから何をしてやがる??」
まさかとは思うが、それは俺の真似か??
自然と眉間にシワがより、名前の後ろに立つ。
「あ、承太郎くん!レポート終わった!?」
先程のキラキラした眼差しで振り返る名前、その手には何かを持っている。
ソレを確認した俺は思わず時を止め、名前の手から奪い、スタープラチナの握力をもって破壊し、全力で窓の外に廃棄した。
そして時は動き出す…
「…ん?あぁああっ!!??」
手に持っていたソレが無くなった事に気付いたらしい名前が声をあげた。
「やかましい!」
俺が一喝すると、渋々と大人しくなるが、とても恨みがましい眼差しを向けてくる。
「酷いよ、承太郎くん…!!花京院くんが作ってくれたミニ承太郎くんを何処へやったの??」
「ちょっと待て、色々突っ込みたい所だが、何をどうしたら花京院があんな物を作る事になった」
そう、コイツがコソコソ下手くそな俺の真似をしていたその手には、俺の姿を模したであろう人形があったのだ。
しかも恐ろしい位に精巧。
花京院、お前に何があったんだ…??
説明をしろと睨めば、しまったとばかりに視線を泳がせる名前。
「……ピューピュー♪」
口笛を吹きながら明後日の方向に顔を背けだした。それで誤魔化しているつもりか??
「舐めた真似しやがって、いい度胸じゃねぇか……」
俺の低い声にびくりと名前の細い肩が揺れる。
人差し指で名前の額を軽く押してやると、ポフリと情けない音をたてて後ろに倒れた。
本人は大きな眼をクルクルとさせて自分の状況を把握しようとしている…。
着ているシャツの襟を強めに引っ張れば、簡単に俺の前が肌けた。
千切れたボタンは後でコイツに直させる…。
「じょ、承太郎くん!ま、待って!?」
「あ"ぁ?なんだ、構って欲しかったんだろうが…??」
逃げられないよう、名前の両手をシーツの上に押さえつけた。
「いやぁ、勿論とっても構って欲しかったんだけど…、いつもなら大歓迎なんですけどね!?」
「なら構わないだろうが」
名前の着ているワンピースの裾から右手を忍ばせ胸元のリボンを口で解いてやる。
「だって、だって…」
「だって…、なんだ」
頬を赤く染め、その眼は涙で潤んできていた。
「承太郎くん、なんかゴゴゴゴッ!ってなってる!!甘くないっ!!敵のスタンド使いに対する狩人の顔だよ?!」
「テメェが俺に隠し事しようとするからだろうが…、いつものが良いっていうなら早いとこ白状しな…」
名前侵攻の手は休めずに淡々と言ってやれば、へにょりと情けない顔をして迷いだす名前。
「…最近、承太郎くんが忙しそうで寂しいって花京院くんに相談したらね…、この間あのミニ承太郎くんを作ってくれたの。」
「……」
確かに、最近は学祭での研究発表の資料を纏めたりで忙しかったな…。
それで花京院に相談したら、あの人形を貰ったと…
いや花京院、本当に何があったんだ…?
人形ってなんだ、しかも花京院によるオーダーメイド…だ、と??
まぁ、今回は俺にも少なからず責任があったようだ…。
少しは考慮してやるか…。
にしても…。
「お前は馬鹿か」
「!?」
俺に馬鹿扱いを受け、酷くショックを受けたらしい名前はぷるぷると震えている。
目元が大洪水一歩手前だ。
「寂しいなら俺に直接言え、違うヤツに言って解決する筈がねぇだろうが」
「…え、でも、やかましいって言われると思って…」
良く分かってるじゃねぇか…。
「言ったとしても、テメェが寂しがってるってのが分かりゃあ、作業を急いで時間作る位は出来るだろうが…」
会えないのが寂しいと思っているのが自分だけだなんて、勝手に考えんな。
「どうしよう、承太郎くんが好きすぎて苦しい」
「とりあえず、美味しく俺に捕食されとけ」
先程押した額に口付ければ、擽ったかったのか、キャーキャー騒ぎながらケラケラと笑っている。
「ふふっ、食べられちゃうの?」
「ふん、明日はベッドから動けると思うなよ」
「え、ダメダメ!だって、明日は…」
「やかましい、俺に隠し事しようとした仕置きだ。黙って鳴いてろ」
鞭と根気と深い愛情が必要だ
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