暗黒に灯る

ああ、これでやっと全てが片付いた――

館を覆いつくさんばかりの勢いで燃え上がる炎を眺めながら、名前はうっとりとため息を吐く。
ジョースターの血族とDIOの因縁は、これで綺麗さっぱり消えてなくなった。ようやく明日から何の心配ごともなく平穏な気分で眠りにつける。

DIOを殺そうと決意したのは、単純に彼を始末しなければ自分に一生平穏な生活など訪れないだろうと察したからだ。
傘下に入らなければ彼の手下に狙われ続け、かといって従属すれば最終的にボロ雑巾のように 使い捨てられる。そのどちらも御免だった自分には、DIOを殺害する以外に選択肢はなかった。
しかしその旅の道中で感じたことは、このままジョースターについてDIOを殺しても何の解決にもならないだろうということだ。

ジョースターの血族は呪われている。それは決して戦いの運命からは逃れられないという忌まわしき呪いだ。
情報はスティールやヴィンズの話を聞きかじった程度だが、それは確信できた。
このままではこの旅が終わったとしても、いつか再び彼らから争いが飛び火してくるに違いない。そのことに気がついたとき、名前は発狂しそうになった。

この旅が終わったとしてもいつ終わるとも知れない戦いに身を投じることになるなど、彼女の価値観 の中ではありえないことだった。ならば、この忌まわしき因縁の全てを旅の間に断ち切ってしまわなければならない。
この瞬間から、彼女の極めて単純明快な計画は始動することとなる。
それはDIOを利用してジョースターの血族である承太郎とジョセフを始末させ、その戦いの中でDIOの能力と弱点を見極めることだった。

特に承太郎は油断ならない性格もあるが、能力的に自分に分が悪く、できることなら自分で相手をするのは避けたかった。
ナパーム・デスは威力ことあるものの、スタンドが小型なのでとっさに自分の身を守ることはできないし、文字を書いて能力が発火するという条件上、速度も精密さも大きく劣る。
正面から真っ当に戦えば殺されるのは自分だという確信があ った。
だから、承太郎を殺したがっている人間を利用して殺させる。恐らくこれがベストだ。

道中で襲ってくる有象無象では承太郎の相手は荷が重いだろう。だとすれば、やはりDIOか。
それは悪くない思いつきのように思えた。DIOの能力は未知数ではあったが、吸血鬼という不死身の体質を持ってすれば、承太郎を殺してもらえる確立は手下どもよりもずっと高い。
下ったように見せかけてDIOに協力すれば殺害できる可能性はもっと高まるだろう。それに、DIOの近くにいればその能力を観察しやすいし、弱点や付け入る隙も発見しやすくなる。もしその戦いの中で見つけられなかったとしても、手下の数を減らしておけばしばらくは消耗品としては扱われないはずだ。
大人しく従って いるふりをして、後はゆっくりチャンスを待てばいい。

こんな彼女の簡素な計画は、単純なだけに上手くいった。上手くいきすぎて拍子抜けしてしまいそうなほどだ。
DIOは自分の裏切りを疑いもしなかったし、承太郎たちを殺すのにも協力してくれた。しかも、承太郎とは正反対に他者を見下しているがために自分を買い被りすぎて油断しやすい傾向にあり、道中でこっそり買い溜めておいた特殊グレネードで不意打ちしてやったところ、こちらも無傷とはいかなかったが紫外線で焼ききることができた。

後は、この炎を見てSPW財団がやってくるのを待てばいい。言うことはもう決まっている。

「DIOは殺せたけど、みんな死んでしまった。私を庇って、 死んでしまった」

訥々と目に涙まで浮かべて、あえて色を失った顔でそう語る名前のことを、同情こそすれ誰も疑いはしなかった。
彼女はジョースター一行の中では唯一の女性だった彼女を周囲の人間が守ろうとしたのは自然なことだし、証言にも矛盾はなかった。
塔にあったDIOとジョースター一行の死体をSPW財団は回収したがったが、焼けて館も塔も崩れ落ちてしまったため、もろくなった骨は粉々に砕け散った状態で地面にばら撒かれており、誰のどの部位の骨なのかすら判別することが難しく、とりあえずひとまとめにして保管されているそうだ。
ジョースター一行の死体がきちんとした状態で残らなかったことも、名前にとっては幸運だった。
館に火を放ったのは証拠隠滅の ため、特にジョースター一行の死体の状態から自分の攻撃の痕跡をわからなくなるようにするためだったからだ。だから確実に消し炭になるように、死体にたっぷりと油をかけて火を放った。
死体を爆破してしまえば自分が殺したと疑われかねないため、火をつけるという不確定要素に頼らざるを得なかった。おまけに自分に引火しないようにすぐにその場から離れる必要があったのでちゃんと焼却できたか不安だったが、これならば誰がどんな死に方をしたかなんて、永遠にわからないだろう。

これで、全容を知る者は自分ただ1人となった。
やっと家に帰って何の心配をする必要もなく日常に戻れる――

彼女は運命に打ち勝ってみせたのだ。


深々と帽子を被り、紫煙を燻らせる青年が1人朝日を浴びて佇んでいた。
その精悍な横顔は彫りの深さと高い鼻梁を持って本来は彫刻のごとく整った顔立ちなのだろうが、目を背けたくなるほど顔全体に凄惨な火傷の痕があった。
彼は晴れ渡ったエジプトの空を、目に染みるような空の青を脳裏にこびりつけようとしているのか何度も何度も目を瞬いて眺め――そして踵を返す。

彼は運命に飲み込まれた。
しかし、まだ終わってはいない。

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