彼が逃げるのをやめた理由



ーー死にたくないと願った男が

死なない人間を旅の途中に

見つけた時のお話をしようかね。

男は死から逃げるかのように

ずっと旅を続けていたのさ

雨の日も風の日も……はたまた嵐の日でさえも


でも男は少しでも早く死なない方法を


見つけたかったんだろうねぇ

そんな変わらぬ旅を続けている最中


男の食料は底をついたのさ。

死なない方法を探しに来て

餓死なんて本末転倒も良いところだね

でも男は気力を振り絞り一件の

家を見つけた。

明かりもある。

自分は助かったんだ!

と思った筈さ。

男はヨタヨタしながら

その家に入った

そこには黒いローブに全身を隠した

人がいた

ローブを被った人は

男を一目見て、

「少ないが食い物はあるぞ」

といって、男に食べ物を与えたのさ

男は涙をこぼしながら

食べ物を獣のように貪り喰った



ーー腹が満たった男を見たあと

ローブを被った人は

「何故旅をしているんです?」

と問いかけた。

男は

死なない方法を探しているんだと

普通なら馬鹿なやつだと男を馬鹿にするだろうさ。

でもローブを被った人は違った

興味津々に旅の話とか成果を聞いた

男はゆっくり自分の旅の事を語った

辛い話、愉快な話、悲しかった話

まるでそれは一つの物語のように

ローブを被った人は全て話を聞いて

「死のある人の話とはなんと素晴らしいのだろう」といった

男は困惑したさ。まるで自分が不死の
ような言い草じゃないか

男は直ぐに死なない方法を知っているのかと質問した

するとローブを被った人は

「ええ……それはとても簡単だ、死から嫌われれば良い。もっとも俺は死にたいが」

と良いながらローブを外した

男は悲鳴をあげた。

そこにはカタカタと笑みを浮かべる

骸が座って喋っている

骸は続けた

「俺もこんな姿になる前はお前のように死から逃げる方法を探したさ。俺は死から逃げることが出来たが、間違いであった事に直ぐ気がついたさ。今更後悔しようが手遅れさ……なんなら変わってやろうか?俺は死にたい。お前は生きたい……そうだろ?」と

骸は手を男の頬に当て、カタカタ笑った。

男は絶叫しながらその家から逃げたのさ


ーーそれから男は死なない方法を探す旅をやめたのさ

死にたいと願う男が虚しいと教えてくれたから

男は近くの村に永住を決めて死が迎えに来るのをまつ事にしたのさ。

「ねえ、なんでおじいちゃんはその話を知っているの?」

沢山の少年少女たちの中でひとりの少年は私に問いかけた

さあ……なんでだろうね。

そう答えて私は家に帰った。彼は元気にしているだろうか……

家の花瓶に生けた花はもう散っていた



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written by sirozatou

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