※食人表現に近いものがあります、ご注意ください。
※ふゆっぺ病んでます。






 河川敷のベンチで、手作りお菓子を食べるだけ。内容を話せばそれだけのことですが、それだけのことなのに秋さんは快い返事をくれました。その後にどこか遊びに行かない、と秋さんの言葉に浮かれて、いえ、理由はそれだけではないのですが、私は丁寧にラッピングをして、五つのマカロンを収容させました。うん、可愛く仕上がってる。
 秋さんの笑顔が見たいから。最初はそんな理由でした。私がお菓子を作ってきて、秋さんもお返しとしてお菓子を持ってきて。しばらく続きましたが、今でも楽しい。
 料理の腕が上がって自信がついてから、「私の料理を、大好きな秋さんが食べている」ことに改めて気付きました。大好きな秋さんに、生半可なものは食べさせられません。一つひとつ、丁寧に、心を込めて作るようにしました。
 確かに、私は秋さんが大好きですし、愛してやまない。しかし、手料理に自分の身体の一部とか血を混ぜる人がいるけれど、それは理解に苦しみます。大切な時間を頂いて、消化器官をはたらかせて、その人の栄養となるものに、異物を混ぜるとは。食べてもらう人に敬意を払っているのなら、純粋な食材で勝負するべきではないでしょうか。
 しかし、まあ、私のやり方も非がないとは言い切れませんが。

(ごめんね、秋さん)

 心の中で謝りつつも、私の身体はだんだんと火照ってきます。予期した瞬間と瞬間の興奮を待ち焦がれて。ああ、卑しい。秋さんは私のことを、心も身体も綺麗だと褒めてくれますが、私の心の奥にある汚い泥は、決して称えられるものではない。
 むしろ、褒めてくれなくていいんです。私の全てを認めてくれることは素晴らしいことですが、嫌なものは嫌、無理なものは無理だと、はっきり分別をつけてくれる秋さんが好きだから。秋さんが私を否定してくれる余地を残しておかないと、たぶん、私は、粉々に砕けてしまいます。

「食べてもいい?」
「はい。その、お口に合わなかったらごめんなさい」
「それはないから大丈夫!」

 味には自信があるから、余程のことがない限り吐き出されることはないでしょう。
 何かモノをつくる時、その作品を自分の子どものように感情移入をする人がいる。私も料理をする時、秋さんに食べてもらう時に限って、私と料理を投射させるんです。
 だからほら、いま秋さんが口に入れようとしている苺色のマカロンは、もうひとりの私。

「いただきます」

 菓子が口に運ばれる。唇につく。秋さんが私に接吻してくれた。一口齧って、丸が半月の形になる。秋さんが、私を、食べている。私の顔はおそらく、そのマカロンに挟んである苺ジャムと同じ色をしている。身震いが止まらない。快感に耐えようと手を握ると、指の腹に汗がついた。それでも快感は走る。秋さんが咀嚼するたびに、私が、秋さんとひとつになって、秋さんの口内に入って歯をなぞって喉を抜けて食道を通る。快楽を秘めた唾液の波にもまれる。心臓が痛いくらいに跳ねる。ああ……!
 私と秋さんはどうあってもひとつにはなれない。でも、その願いは段々と膨らんでいく。秋さんとひとつになりたい。秋さんの意志を無視して、私と秋さんはひとつになる。メレンゲに想いを込めて、ジャムにエゴをたっぷり含んで、私は胃へと入ってしまう。さようなら、私。でも、まだ、マカロンはあるの。

「うん、やっぱり冬花さん料理上手!すごくおいしいよ!」
「本当ですか?良かった……」

 少しくらくらするのを堪えて、秋さんに悟られないように、平静を装って笑顔を返しました。

「ねえ、もう一つ貰ってもいいかな?」
「はい。まだまだ有りますから」
「冬花さんは食べないの?」
「私は、味見でお腹いっぱいで……」

 というのは勿論、嘘です。共食いをするわけにはいきませんから。試食がぶっつけ本番というのは少し怖いですが、でも、秋さんだけに食べてもらいたいんです。

「じゃ、お言葉に甘えてもう一つ」
「ふふふ、一つと言わずいくらでも。魂込めて、作りましたから」

 こっそりと、疼く下腹部を撫でました。あら、今度はチョコレート。同じようによく味わってください、それも大切な私なんです。いってらっしゃい。秋さんの中は素敵なところなんでしょう、私も早く行けたらいいな。

Title:亡霊

20120817
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