※塔リカとオーガ俺ブンの皆さま
カレンダーを見て、ああこれは来るな、と思ったら案の定だった。おはようさん、と元気よく挨拶した次の、リカの表情は待てを喰らった犬のようにうずうずしていた。あたしは反応しないように、なるべく、なるべく平静を保って、挨拶を返す。おー、おはよ。
リカのことだから今日のことに触れてもらいたくて仕方がないんだろう。でもあたしは口には出さない。寝る前にそう決めたんだ。標的を別の人に移す直前にひっかかってやる。(夏未なんて恰好の的だろう)うずうずの雰囲気とにやにやの視線を全身に受けながら、ほら朝ごはん食べに行くぞ、と食堂へ促した。
「なあ塔子、知っとるか?」
「何が」
「春奈のメガネな、某名探偵と同じの機能ついとるんやって。犯人追跡メガネ」
「ふーん」
秋と夏未が顔を真っ赤にしながら、笑い続ける春奈を怒っていた。隣りの冬花も手で口を押さえつつも笑いで肩が揺れている。あたしは気にせずに配膳されている朝食を取りに行った。いつも通りの白米味噌汁鮭果物だ、そうだいつも通りなんだ。
マキが半泣きになってぎゃんぎゃん騒いでるけど、けど、気にしないことにした。クララは泣かせるほどどんな嘘言ったんだ。その後からにこにこ笑ってる布美子と、自分の胸を揉みながら「小さくなれ……小さくなれ……」と呟いている玲名がやってきた。
(今日の練習、大丈夫かな、色んな意味で)
「なあ塔子、知っとるか?」
「何が」
「玲名の髪の白いのな、あそこに玲名のストレスが凝縮されてるからなんやて」
「えっ……ふーん」
ついうっかり信じそうになったけど、そんなことあるわけないと、今の冷静なあたしなら難なく判断できた。でもちょっとだけうずうずした。ちょっとだけ。
お盆を持って席に着いて、いただきます、と両手を合わせた。向かって左のつくしが、鮭を見て涙を浮かべていた。そんなつくしを小鳥遊がおろおろしながら何か弁明してている。その奥の支倉は顔を両手で覆って俯いていた、耳が真っ赤なので照れているだけだ。支倉の前に座るヴァーゴはにこやかに鮭を解していた。うずうず。
「なあ塔子、知っとるか」
「何が」
「小鳥遊の眼な、オッドアイなんやで」
「……」
違う、絶対に違う。小鳥遊は両眼とも同じ色だ。リカも風呂ん時見た事あるだろ。でもここまで来たんだ、「嘘つけ」もしくは「マジで!?そうだったんだ!」等は禁句、言った時点であたしの負けである。もはやちっぽけな意地をかけた勝負になっていた。リカはどう思っているか知らない。
いつも通りのはずなのに、恭しく挨拶してきた舞の分け目が逆で、闇音の首のスカーフを頭に巻いているんだろう。もう嘘とか関係ないじゃん。「ふ、二人とも何やっとんねん!新手のボケか!」とリカがつっこんでくれたのであたしは心安らかに朝食にありつける。
(なんか、みんな、案外子どもなんだな)
自分でも高まる気持ちを抑えるのが大変になってきた。あたしも嘘を言いたい。でも、でも、ここまで来たら。いやでもなんか、もうめんどくさいや!
「なあ塔子、ウチな、塔子にひとつ嘘ついとったんや。ちょい場違いやけど、それ今謝りたいねん」
「えー、なんだよ?」
「ウチんちな、実は洋食屋だったんや……」
「嘘だぁ」
「嘘でしたー!!やっと引っかかったな塔子!」
「……この流れだから言うけどさ、あたしもリカに一つ謝りたいことがあったんだ」
「ん?なんや?」
「あたしのパパさ、昨日の夜に、総理から外務大臣になったんだ」
「え、ホンマ?」
「嘘だよ」
「そうだろうと思った!!」
「あとさ、あたし、リカが好きだよ。嘘じゃないよ」
「は」
「なあリカ、知ってる?」
「え、な、なんや」
「ご飯に味噌汁をかけるの、ねこまんまって言うだろ?あれ東京だと、いぬまんまなんだぜ!」
「ホンマ!?」
「嘘だよー!」
20120401
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