・俺ブン設定含みます
ぷにぷにぺたぺた、クララの手を触る。存在を確かめるように、握ったりさすったり撫でる。時にはキーパーも任される彼女の手は、柔らかさを持ちながらも、フィールドプレイヤーで手の使用を許されないわたしより、しっかりとした弾力と強さを持っていた。お日さま園でディフェンスの練習をして、向こうのチームではキーパーもこなす。
「愛、まだ?」
「もうちょっと」
手を触りたい、と言ったら二つ返事で許可が下りた。クララにしては珍しい。好きな人と手は繋いでも、こんな風に触ることはなかった。
わたしの知らない所でこの手はゴールを守っている。ゴールの最終ラインを、わたしが深く知らない人たちの背中を見守りながら。
「はい、おしまい」
クララの手がわたしの拘束からすり抜けた。減らないからいいじゃんケチ、と反論すれば「……心臓がすり減るわ」と返ってきた。目を逸らしてはいるが頬は紅い。かわいい。
「あれー?クララ照れてるのー?」
「別に」
「じゃあいいよね!もっと触らせて!」
「ちょっと、やめ……!」
飛びつこうとしたら避けられて、わたしは床に放り出されたように転がった。絨毯の上とはいえ少し痛い。
「おふざけがすぎたわね、愛」
「うー、だって……え、クララ!」
わたしが起き上がるより速くクララがわたしのふくらはぎを掴んだ。振り払おうと思ったけれど、暴れてクララに当たって傷つけてしまうのは嫌だし、何より彼女の力が強かった。
「私がタダで触らせると思った?」
うつ伏せで動けないので彼女の顔は見れないけれど、だいたい予想はつく。形勢逆転、わたしのふくらはぎから足の先まで、クララの手が這い回ることになるだろう。
「お、お手柔らかにねクララ……」
「……」
(返事がないのが怖い!)
いやらしく触ってくるのかと思っていた。ジャージの裾を捲くって靴下を脱がされ、クララのひんやりとした手が肉のついた曲線を包む。
わたしの時と同じように、クララは慎重にわたしの脚を揉んでいた。筋肉を何度も撫で、足首の筋を触って、力と成長を確かめるようなタッチだった。黙りこくっているので何を思っているのかは分からない。けど、わたしと似たようなことを思っていたらいいな。
(この足で、クララからゴールを奪えるような、強力なシュートを打ちたいの)
クララの知らない所でわたしは練習する。ミッドフィールダーだって前線に上がってからのシュートチャンスはある。何より、やっぱり負けたくないじゃない。クララは好き、由紀も好きだけど、ライバルであることには変わりはない。
「愛」
「なーに、クララ」
「私も、……いや、いいわ。なんでもない」
身体を捩らせてクララの表情を伺う。意志の強い瞳、わたしの好きなあなたの、一番好きな瞳だった。クララも同じことを考えた。それだけで嬉しいし、ふたりで同じ目標に向かって駆け抜けることができる。
あなたには負けない。
「え、何よ!気になる!」
「騒がないで、せっかく愛を組み敷いているのに」
「ひゃうっ!その、膝の裏をつーっとするのやめてよ!くすぐったい、ひっ、やめろー!」
20120111
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