・三年生設定


 告白したこと、後悔はしていません。秋さんが泣きながら謝ってくれたこと、秋さんは優しさゆえに泣いてしまうだろうから、せめて私は泣くまいとしていましたが、結局もらい泣きしてしまったこと。秋さんが泣きながら繰り返した「ごめんね」に、嗚咽の中から絞り出した「いつまでも友だちでいてね」という言葉に、ああ、やっぱり私はこのひとを愛することができて幸せだと、感じられたんです。わだかまりなんて残るはずありませんでした。
 絶対に忘れません。絶対――絶対って、永遠とは違って、本人の努力で「絶対」が完成すると思うんです。だから、私は秋さんとの思い出を、死んでも、絶対に、忘れません。絶対を、いいえ、秋さんとの思い出を永遠に無限にしたいから。

「冬花さん、冬花さんに出会えて本当に良かった」

 私たちはもう三年生ですから、もちろん卒業という分岐地点は見えています。それでもなんでもない日の、なにもない放課後の、特に寄り道をして帰るでもなく、「じゃあ、また明日ね」と言うべき四つ角でもない道の上で、秋さんは唐突に言いました。

「やだ、どうしたんですか、いきなり」

 告白して結ばれはしませんでした。秋さんに対しての度の過ぎた愛情も薄れてはきましたが、心の奥底では彼女のことを未だに愛し続けてはいました。もちろん友情止まりの友愛の類です。

「なんだか急に、冬花さんにお礼を言いたくて」

 ありがとう、と言う秋さんに、私はどうしたらいいか分からなくて、「どういたしまして、私からも、ありがとうございます秋さん」と返したらクスクス笑われてしまいました。私もつられて笑いました。

 卒業式でも今生の別れでもないのに。秋さんの行動原理、とは。

「昔のこと、昔っていうほど昔じゃないけれど、それを唐突に思い出してね」
「はい」

 あの告白のことだ、と瞬時に思いました。口には出せませんでした。

「わたし、冬花さんの言葉を、冬花さんとの思い出を、その――言葉だとちょっと伝わりにくいけど、大切にしているの。これからも、大切にするよ」

 大切に。秋さんが大切にしてくれるなら、私もだいぶ救われます。私は告白した時から秋さんとの日常を大切にしようと決めましたし、秋さんも心の内ではそう思っているはずです。優しすぎる秋さんは物事を突っ撥ねようとしない。私の告白を嫌なものとして突っ撥ねられても、私は仕方がないと思っていました。

「……私だって、大切にしてますよ。秋さんに負けないくらい」
「ふふ、ありがとう」

 じゃあ、また明日ね。来るべき四つ角にて秋さんは私に小さく手を振りました。私も振り返して、翻ります。

 いつまでも友だちでいること。気休めに聞こえるかもしれません。恋慕を否定した言葉です。それでも私は、これを誓いとすることで、秋さんが隣りにいなくても、前に進めることができているんです。指を絡ませずに、手を繋げらること。幸せなことじゃありませんか。
 しばらく立ち止まっていました。後ろを振り返っても、秋さんはもういないでしょう。分かっているうえで振り返って、やっぱり秋さんはいない。前を向いても秋さんはいない。それでもいいんです。それでもいいと思える理由があるから。

20111117
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