「なあ、SPフィクサーズって護衛もやるんやろ?」
「ああ。基本的にパパの護衛だけど」
「塔子は銃とか撃ったことあんねんか?」

 上京してきたリカの買い物に付き合わされた帰り道だ。二人して両手にたくさんのショッピングバッグをぶら提げて、疲れ切った足を無理矢理動かしてとぼとぼと歩く。サッカーで鍛えた足が、まさかバーゲンで役に立つなんて、リカに出会う前は思いもしなかった。

「銃?ああ、危ないからまだあたしは使っちゃいけないんだ」
「まぁまだ中学生やしなー。なら、大人になったら使うん?」
「あんまり使いたくないけどな。大切な人を守るためなら、少しは仕方がないとは思うけどね」

 リカとはよく他愛もない話になる。関東と関西の生活の違いとか、チームメイトの皆のこととか。今回の銃の話もその一つだと思っていた。
 だいたい、銃なんて。かっこいいのは構えだけだ。発砲音もうるさい。守るためとはいっても、使えば人が死ぬかもしれない。火薬の匂いも好きではない。一度だけ、駄々を捏ねて舞に、安全装置が付けられたのを持たせてもらったが、重いし、何より、両の掌の上で黒光りするそれが、人を殺せる力を持っていると思うと、恐怖で足が竦んだ。

「構える姿はかっこええとは思うねんけど、怖いわ」

 ため息交じりの文句が吐き出された。リカはあたしと全く同じこと考えていて、こんな話題なのに声が弾む。

「そうだよな!おっかないし、できるなら一生使いたくないよ」
「ウチも、なるべくなら塔子に使うてもらいたくない!」
「今のうちにパパに相談しとくよ!」

 にひひ、と歯を見せて笑いあった。でもリカがすぐに表情を崩して、「ふっふーん」と意味ありげにニヤリと笑う。

「なんだよその笑いは」
「いーや、なんでも」
「なんだよー!」
「塔子にはまだ早うございますよー」
「なら、この大量の袋、リカ一人で持って帰れよ!」
「わーわーそれはアカン堪忍な!言うって!」

 リカが反省の色をあまり見せない謝罪をした時に、ちょうどあたしの家に着いた。門をくぐっても玄関に着いても靴を脱いでも、リカが言い出す気配を見せなかった。「リカ!」と脅すと、「ちゃんと言う、腹ごしらえしてからや!」と逃げやがった。


 結局、晩ご飯を食べている間も、風呂に入っている間もはぐらかされた。あたしの部屋に戻って、このままではおとなしく就寝か、リカの怒涛のギャグ責めが始まる。あたしは先手を打って、拷問と称して真実を吐かせるためにしていたくすぐりの刑を強行した。ちょうどカフェオレを持ってきてくれた執事さんに見られてしまって、少し恥ずかしかった。

「あのな、恋や」

 カフェオレを啜りながら、リカは何故か胸を張って答えた。予想外の言葉に驚いて噎せてしまう。

「げほっ、ごっ、こ、恋?何言ってんだ?」
「だから、恋のキューピッドが矢を放つ言うやろ? それの拳銃版があるんや」
「へぇ。そんなんあるんだ」
「矢が行くよりも銃弾のが速いし、まぁ、ウチはダーリンの銃弾に射抜かれてもうて……随分経った今でも心臓が痛むんや」

 きゃっ、と可愛い声を出して、手で顔を覆うリカ。銃弾かぁ、キューピッドがスナイパーよろしく銃を構えている画を想像したらなんだか滑稽だった。

「だから塔子にはこの話は早うと思うたんや。はぁ〜ダーリンに会いたい」

 確かに早いかもしれないけど、決めるのは自分自身だ。
 まぁ、標的は……目の前に、いる。

「リカはさ、自分で撃ったことはないのか?」
「あー、昔はばんばん撃ってたで。でもあたしも見る目のうて、ママに怒られてばっかりやった。今はダーリンを射止めるのに必死や!」

 やったるで、待っててやダーリン!、とリカは窓から見える夜空に向かって吠えた。リカが一之瀬に照準を定めているということは、リカのガードががら空きになっている。リカはそれに気付いているのだろうか。多分、気づいてないだろう。恋愛に対して真っ直ぐすぎるリカが、仲の良い友達で、伏兵のあたしが、銃口を向けていることなど。
 口の渇きを癒すため、ぬるくなったカフェオレを飲み干す。

「リカ」
「なんや?」

 右手の親指を上に向け、人差し指を伸ばす。他の三本指は折り曲げて、拳銃の形を模す。人差し指をリカの心臓に向けて、

「ぱぁん」


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