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Part B ≫裏舞台

呑口重彦という政治家が、以前ピスコによって消されたことは記憶に新しい。収賄の発覚により、警視庁捜査二課の手が彼に伸びたからだ。
秘匿にしなければならない情報が、警察組織に漏れることを何よりも恐れた組織は、口封じのために呑口を速やかに暗殺対象にした。

ベルモット曰く、呑口の暗殺に失態を犯したピスコもあえなくジンに始末された。彼女はピスコについて“死んで当然だった”と吐き捨てたらしい。

組織が暗殺するのは極力ターゲットのみだが、暗殺の瞬間を目撃した一般人も抹殺対象だ。暗殺者の正体が露見した場合、例えそれが組織の幹部だとしても――問答無用で抹殺される。

現場に証拠を全く残さずに殺しを遂行するのが当たり前。失敗は死を意味する。
これが――僕が公安警察官という身分を隠し、バーボンとして潜入している――組織のやり方である。

車通りが多い国道を走っていると、聞き慣れたエンジンの音が聴こえた。
愛車の横にハーレーダビッドソンに乗った女がプラチナブロンドを夜風に靡かせて颯爽と登場した。

今夜、僕はベルモットと共にある政治家と取引することになっているのだ。後部座席には大きめなアタッシュケースが一つ。日常生活では拝むことがないであろう大金が入っている。組織の独自ルートで得た大金で、ベルモットが用意した。
闇社会で出回っている金の収支ルートを押さえることが出来れば、組織壊滅の大きな一歩となるのだが。

時刻は深夜零時過ぎ。
既に日付は変わり土曜日だ。国道からひと気のない路地へ曲がると、待ち合わせ場所である公園が見えた。街灯の薄暗い灯よりも、空に顔を出している月の方が明るい。この公園の街灯は役目を果たしていない。
ここから近くには倉庫街が広がっており、僕達二人以外人の気配はなかった。

「Hi,バーボン」

彼女は艶を帯びた声音で、いつものように僕のコードネームを呼んだ後、ハーレーから優雅に降りた。
ベルモットは黒のライダースーツに身を包み、夜の闇に上手く溶け込んでいる。

「こんばんは、ベルモット。どうしたんですか、何か良いことでも?」
「あら、そう見える?」
「ええ、何となく」
「残念だけど、良いことなんて早々ないのよ。神様は意地悪だもの」
「意地悪、ですか。あながち間違ってはいないですね」

のらりくらりと躱されたので、僕は必要以上に探るのを止めた。僕とベルモットはお互い秘密主義者である。余計なことは探らないし、探らせない。
僕達二人の徹底した秘密主義っぷりに、ジンは辟易しているらしい。

“探り屋・バーボン”。
これが組織内での僕の通り名らしい。風の噂で小耳に挟んだのだ。幹部は全員コードネームで呼び合っている。
“あの方”から酒の名前を与えられた人物は、組織の幹部として認められたと同義。
つまり、僕がバーボンというウイスキーの名前を与えられたということは、少なくとも組織内である程度信用されたと考えて良いだろう。油断は出来ないが。

隣にいるベルモットとは、一緒に任務をこなすことが比較的多い。彼女の秘密を掴んだ僕は、それをネタに何度か個人的な取引を行っているのだ。
“千の顔を持つ魔女”の異名を持つハリウッド女優の変装術の力を借り、以前赤井秀一の姿に扮してFBIの動向を探ったこともある。

仮にベルモットが僕を殺した場合、彼女の秘密は組織内にリークされる手筈になっている。ベルモットにとって都合が悪い情報なので、下手に僕のことを殺すことが出来ないでいる。切り札ジョーカーは最後まで残るからこそ意味がある。
生か死の隣り合わせ。ギリギリの綱渡り。

「ところで、場所と時間を指定した張本人はまだ来ないのかしら」
「彼も忙しい方ですから、少し待ってみましょう。すっぽかさないと思いますよ。何せ、こんな大金が……彼を待っているんですから」
僕はアタッシュケースをベルモットにチラつかせる。
「ふぅん、随分と肩を持つじゃないの」
「ほら、噂をすれば……いらっしゃったようですよ」
僕は黒のキャップをもう一度深く被った。

夜の闇に紛れて車のエンジン音が聴こえた。静まり返った公園内に、バタンと車の扉を閉める音と共に数人の足音が響く。
ぼんやりとした街灯の灯から、ぬっと男が姿を現した。男の周囲に感じる人の気配は、おそらくSPのものだろう。

「遅れてすみません。会合が長引きまして」

安良川義和あらかわよしかず
掲げた公約を有言実行に移す行動力。精悍な顔付きも相まって彼は国民にクリーンな印象を与えている。恐らく、今一番支持率が高い国会議員だろう。
これが、この男の表の顔。

本性は野心に満ち溢れており、裏金工作に勤しんでいる金の亡者。真っ黒な人物である。

有権者から人気な男が、まさか国際的大規模な犯罪組織の息がかかっているとは誰も思わないだろう。抹殺した呑口議員の代わりを務めているのがこの男である。

「いえ。僕達も丁度来たばかりですから」
「なら良かったです。それで、例の物は?」
「安良川さんのことを待っていたようですよ」
僕はアタッシュケースを持ち上げた。

「ちょっと。まさかタダで渡すと思ってるのかしら?ムシが良過ぎると思わない?」
ベルモットが牽制をかけるが、安良川さんは特に気に留めずにフッと鼻で笑う。
「そうでしょうな。口を開けていれば欲しいものが手に入る雛鳥でもあるまい。世界は生易しくありません。貴方達から金を貰う代わりに、僕からは情報をあげましょう。これぞ取引というもの……違いますか?」
「フフフ、解っているじゃない」
ベルモットは満足げに笑い、煙草に火を付けた。

「我々組織と提携している麻薬密売組織内で、近々内部抗争が起きそうです。あそこはリーダーが暗殺されて以降、体制が揺れ動いて不安定でしたから。典型的な派閥争いですよ。分裂するか……潰されるか。このままでは、我々も巻き込まれる可能性があるかと」
「それは貴方が麻薬組織に潜り込ませたスパイからの情報……ですか?」
「さすが“探り屋・バーボン”。相変わらず情報収集能力が高いですな」
「いえいえ、それ程でも。これが僕の仕事ですから」
「なら話は早い。この情報、まだ警察組織は掴んでいないが時間の問題……。氷山の一角でしょう。芋蔓式で摘発されるでしょうから、今の内に麻薬組織との提携を切った方が良いと思いますよ」

日本の未来を憂い、国民の生活を守る国会議員の皮を被った日本の敵。
今はまだ時期ではないものの――その内ヤツらの喉元に噛み付いてやる。公安は、日本主人の犬と揶揄されているが、猟犬は一度噛み付いたら死んでも離さない。執念深いのだ。

僕が肚の中でその機会を待っているのも知らず、男は語り続ける。政治家というものは、どうも話が長くなりがちだ。

「それを決めるのはボスよ。貴方じゃないわ」
「ははは。だから彼だけでなく、この場に貴女も同席させたんじゃないですか、ベルモット」
「……貴方、私を顎で使うつもり?私からボスにそう進言させようと?」
「想像力が豊かなお方だ。ご想像にお任せします。私も貴方達のようにコードネームがあれば……良かったんですが」
「いけしゃあしゃあと言うじゃない。良い度胸だけど……いけ好かない男はキライよ」

ハリウッド女優の命である美しい顔が不愉快そうに歪む。安良川さんの言葉は、プライドの高いベルモットの逆鱗に触れたらしい。
ビリッと電流に似た一瞬の殺気。ベルモットの右手にあるのは、愛用の拳銃――ワルサーPPKが握られていた。向けられた先は、安良川義和。

僕達の周囲から殺気と共に、拳銃が向けられた音が響く。安良川さんのSP達が僕とベルモットへ銃を向けたのだろう。

僕達だけしかいない筈の夜の公園。目撃者は空に浮かぶ月ひとつの筈なのに。
極限に張られた糸のような鋭い殺気の中に、ひとつだけ混じる異物。どうやらベルモットが気付いてしまったようだ。
僕は舌打ちしたい気持ちになった。

「貴女が手を下す程の者じゃありませんよ」
僕は彼女へ、銃を下げるよう目配せする。
「……何ですって?」
「ネズミの始末は僕で十分。わざわざ貴女が手を汚す必要はないと言っているんです。それに、彼からの情報は無駄という訳でもないでしょう――さあ、お目当ての大金だ」
僕は――受け取れと言わんばかりに――彼にアタッシュケースを乱雑に渡した。
さっさとこの場から立ち去ってもらわねばならない。

「ネズミの始末?おい、まさか誰かいるのか!?私の顔を見られたら困るじゃないか!」
「大丈夫ですよ。相手は貴方のずっと背後の茂みに潜伏しているようですが、気配の消し方も知らない素人だ。それに顔を見られたとしても、この暗闇では良く解らないでしょう。まあ――早くここから立ち去った方が身のためですが」

急に慌てて逃げ出した政治家は、見た目や態度に反して小物らしい。恐るるに足らない。
必ず証拠を揃えて噛み付いてやるから、その時まで首を洗って大人しく待ってろ。

「ネズミの後始末、上手くやってちょうだいね。任せるわよ――バーボン」
「僕が任務に失敗したことあります?」
「貴方の自信過剰、どうにかならないの?」

猫のようにしなやかに――ハーレーダビッドソンに乗った女は不敵に嗤った後、その場から走り去った。




さてと。どこかから迷い込んだ猫を捕まえるとしよう。
一歩足を踏み出すと、コツ――と不気味に響く靴音。ガンホルダーから取り出したH&K P7M8を右手に握った。

組織から配給されたこの拳銃は、すっかり僕の掌に馴染んでしまっている。それは、僕が長い間潜入していることを意味する。流石にベルモットや安良川さんの目の前で、公安警察官として使っている愛銃を晒す訳にはいかない。
出来ることなら、コイツは使いたくないのだが致し方ない。
向かう先は茂みの向こう。相手は息を殺してやり過ごすようだが、気配は消せていない。

「……盗み聞きするとは悪い子ですねぇ。さあ、隠れんぼは終わりにしましょうか」

僕は銃の標準を茂みに向けるが発砲するつもりはない。その証拠に、銃の安全装置は解除していない。暫くの沈黙の後。
茂みを掻き分け、ガサッと黒い塊が勢い良く飛び出して来た。
一瞬、こちらに向けられた相手の顔を確認することが出来た。

茂みに身を潜めていた女は、宵闇にヒールの音を響かせて懸命に逃げる。
「やっぱり……!」
僕は舌打ちして、逃げて行く女の後ろ姿を追う。ヒールでは走りにくいし、何より走れる距離は高が知れている。
この公園の街灯は薄暗いので、不安定なヒールでは足元がおぼつかず躓いてしまうだろう。しかも、相手はパニックになっているようだ。
走り易いように“靴を脱ぐ”という行為が頭から抜け落ちてしまっている。

女は泣きながら走る。僕との距離を確認しながら、左側へ逃げて行く。
人間は無意識に、大事な臓器である心臓を守ろうとして左側を選ぶ習性がある。
人間の習性を逆手に取った僕は先回りした。
走っても走っても変わり映えしない夜の公園は、どこを走っているのか解らなくなる筈だ。

地の利は僕にある。取引場所の周辺情報、出入り口、公衆トイレ、公園の広さから死角まで頭に叩き込んでいるからだ。
ゆっくりと。彼女に近付いて行く。
公園内のどこかから、ハーレーで去って行った女の気配が幽かに漂っている。

「逃げないで下さいよ。僕は貴女に危害を加えるつもりはありませんから」

ようやく撒いたと思った男が目の前にいる恐怖を感じたのか、彼女は躓いてしまった。荒い息を吐きながら。
もう走るのが苦しいのか、はたまた恐怖で腰が抜けてしまったのか。立ち上がる素振りもない。

僕は静かな足取りで女に近づいて行く。彼女がこれ以上逃げないよう、手に握った拳銃を向けながら。
女は怯え切った表情で――僕を見上げた。

「やっぱりその声――安室さん、ですよね?」
「人違いですよ」

黒いキャップを目深に被ったまま、僕は何とか平静を装って答える。
裏の世界なんて、彼女が知る必要なんてなかった。
陽だまりの元で平和に暮らすのがお似合いなのに。

どうしてこんな所にいるんだと、問い質したい気持ちを胸の中に押し込んで――“バーボン”を演じ続ける。
頭に被っているキャップで顔が見え辛いのか、彼女は“声”で僕だと判断したようだった。

「う、嘘よ!だってその声、安室さんと同じだもの!さっき、女の人とスーツを着た男の人に“バーボン”って呼ばれていたけど、どういう事ですか……?」
「……バーボンはケンタッキー州で作られているウイスキーの名前ですよ」

僕が戯けて答えると、怒りと怯えが半分ずつ混じり合った口調で彼女は叫ぶ。僕の言葉なんて何一つ受け入れるつもりはないらしい。

「ふざけないで!!急に逃げるように男の人も女の人もいなくなったかと思えば、安室さんは私のことを追って来た……さっきの場面は見られたら都合が悪かったからですよね!?」
「貴女はどこまで我々の話を聞いていたのですか?悪いが、場合によってはこのまま生かしておく訳にはいかないのでね」
「……ッそれなら尚更言う訳ない!」

僕は知らなければならない。
目の前で涙を流し――怯えながらも僕のことを睨んでいる女が、知らなくても良いことをどこまで知ってしまったのか。
自白剤を打つまでもないだろう。そもそも薬物を彼女に投与したくない。

「貴女は見かけによらず強情な方だ。だけど、良く考えてみて下さい。この状況で、貴女が沈黙する利点がありますか?このまま口を閉ざし続けるなら、僕は拳銃で貴女を撃つだけで良い。僕としてもそっちの方が手っ取り早いんですよ」
「だって……、言っても言わなくても殺すつもりなんでしょう?どっちにしろ変わらないじゃない!」
「僕は、場合によっては・・・・・・・――と言いました。
つまり、貴女が知り得た内容によっては違う手段を講じるつもりです」

僕は黙ったままの彼女に、黒い鉄の塊を見せ付ける。
「悪いようにはしません。さあ、どこまで聞いていたのか、教えてもらいましょうか。さもないと……どうなるか、解ってますよね」

続きの言葉を言う必要はなかった。
大きな瞳に涙を溜めて、震えながらも彼女は漸く口を開いたのだ。

「スーツを着た男性がやって来たところから……。安室さんも金髪の女性のことを“ベルモット”って呼んでたから、それがあの人の名前――なんですよね。麻薬密売組織で内部抗争があるとか何とか……、安室さん達は何を企んでいるんですか?貴方は……悪い人、何ですか!?」
「その通り。バーボンは悪い人間ですよ」

“私立探偵・安室透”は“探り屋・バーボン”として動き易くするためのキャラクター。謂わば架空の人物に過ぎない。
人の良さそうな笑みを浮かべて嘘を吐き、周囲を観察する役割だ。

組織の裏切り者であるシェリーを差し出せば、より中枢に食い込める。入手困難な情報も手に入れることが出来るのだ。そのために、“安室透”は毛利小五郎に近付いた。
そんなこと、目の前の女が知る由もない。

グッとマズルを彼女の頭に押し付けると、パニックになった女が僕に縋って来る。僕は――怜悧な眼差しで、女を眺めていた。

「……最初から最後までですか。今日、ここで僕達に遭遇してしまった自分の運の悪さを嘆くんですね」
「どうして……!教えろって言ったのは、安室さんなのに……っ!」

僕はもう一度舌打ちしたい気持ちになった。今、僕はどんな顔をしているのだろう。
しっかりと“バーボン”を演じられているだろうか。

冷たいマズルをこめかみに当てられて。両目をきつく閉じた彼女は身体を強張らせた。
僕が引金を引けば、マズルが火を噴いて彼女は即死だ。その瞬間が来るのを、彼女は泣きながら待っているのだろう。

数分間。均衡状態が続いたものの――幽かに漂っていたハリウッド女優の気配が完全に消えた。それを合図に僕は拳銃をガンホルダーにしまう。軽く息を吐き出す。

「もう大丈夫ですよ。彼女の気配がなくなりました」
どうやらどこかに潜んでいたようだが、最後まで確認するつもりはなかったらしい。恐らく、茂みに隠れていた相手がどんな人物だったのか確認したかっただけだろう。

「……え?」
僕の一声で、彼女が恐る恐る目を開ける。涙で潤んだ瞳と視線がかち合った。
「怖がらせてしまって本当にすみません」
目尻から零れる透明な雫を、僕は優しく指の腹で掬い取る。

「あ……」
「いつまでもここにいる訳にはいきません。さあ、僕の車に行きましょう」

ポカンとしていた彼女だったが、ふと我に返ったようだ。そして拒絶の言葉を吐き出した。

「やめて……!嫌……、絶対行かない!」
青白い顔をしたままズルズルと後退る。完全に僕のことを怖がっている。

「私のこと殺すんでしょう!?」
ベルモットがどこかにいた状況で下手なことは出来ないと踏んだ僕は、敢えて“バーボン”を演じたのだが、後退りしている彼女の反応はもっともである。
その証拠に、瞳は“何も信じられない”と言わんばかりの猜疑心や敵対心に染まっていた。

チクリと、棘が刺さった時と同じような痛みが心に生まれたが無視する。
「け、警察……呼ぶから!だから私に……触らないで」
彼女は震える手でスマホを手にした。

ならば、やむを得まい。このままでは埒が明かない。手荒な真似はしたくないのだが。

「失礼します」

僕は拳を握って、彼女の喉元に一撃を与えた。彼女が苦しそうに頭を下げた瞬間を見逃さない。女の細い首の側面へ、適度な強さで手刀を打ち込んだ。
「うっ……、あむ、ろ……さん」
ふらりと、蹌踉めく女の身体を僕は受け止める。

僕の腕の中にある温かい体温。生きている証だ。気絶したため、全身から力が抜けてしまった彼女を僕は抱き締める。
思っていた通り華奢だ。このまま強く抱き締めれば折れてしまうのではなかろうか。儚げで繊細さを思わせた。

もう、元の関係には戻れない。彼女の前で“安室透”として接することは、もうないのだ。あの温かな喫茶店から、そして梓さんからも彼女を奪ってしまったのだから。
これは名前さんのため。組織の魔の手から守るためだ。彼女が目を覚ましたら――僕にかなりきつく当たるだろう。
ポアロで見せた笑顔も影も形もない筈だ。

それは僕も同じである。ここまで来たら、正体を偽って接する必要もない。
これからは“公安警察官・降谷零”として彼女と接することになる。安室のように、柔和な笑みを顔に貼り付ける必要はなくなった。

ひとまず車に戻り、別の場所で待機中の風見に連絡を取らなくては。やらなければならないことは山程あるのだ。

「……名前さん。貴女の人生を狂わすことになって、本当にすまない」

僕は彼女の髪の毛を優しく梳くように撫でた後、暗闇を睨み付けた。
辺り一面が黒の世界。降谷零は進むべき道を知っている。
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