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※劇場版・ゼロの執行人沿い
(ネタバレばっかり)
※夢キャラのスペックが高い
降谷さんの協力者(という名のパシリ)
コナン君、哀ちゃん、少年探偵団、毛利のおっちゃんと蘭姉ちゃんとは面識あり
※全体的にコナン君が空気過ぎる
※Norについては、元ネタ参照


1.
「チェックメイト」

すぐ近くにある東京湾から運ばれて来る潮の匂いと、夜の闇に浮かぶお台場の煌びやかな夜景。

誰もが溜息を零してしまう程のロマンチックな光景をよそに、人工的な橙色の街灯に照らされた埠頭は、いくつものコンテナや大きな倉庫が建ち並ぶ。
白いスポーツカーのそばに、二輪バイクが転がっていた。

女は荒い息を上げながら、うつ伏せにされていた。彼女を抑えつけている一人の男の姿も橙色の中に浮かぶ。
彼女が悔しそうに歯噛みしながら、自分の両腕を締め上げている男を睨み付ければ。

「ああ、すみません。普段なら、女性に手荒な真似はしないのですが……」
橙色の灯りの中にいても一際目立つ淡いグレー混じりの蒼い瞳の持ち主は、にこりと、一見人の良さそうな顔で飄々と宣った。

「問答無用で僕のことを殺しにかかって来た貴女は別ですよ」

言葉尻は丁寧だが、彼の言葉には全く感情が篭っていない。
「良く言うわね、あんたが先にあの車で突っ込んで来たから応戦したまでよ」
女は吐き捨てたが、男はさほど気にしていないようだった。

それよりも、女の正体や目的について知りたがっている様子である。

「それで?貴女は一体何者なんですか?」
「人に名前を聞く時は、まずは自分から名乗るもんじゃないの?」
「これは失礼しました。僕はバーボン……これだけ言えば、解りますよね」

やっぱりそうかと、女は思った。
“秘密主義者の探り屋”が組織内で新しく幹部になったという話を、一度だけ耳にしたことがある。

情報収集及び観察力・洞察力に優れた人物で、実力が認められ幹部にのし上がった人物とはこの男らしい。
それで、あんたは?という視線が降って来る。

「……私にコードネームなんてない。まだ下っ端の構成員だもの」
「先に名乗れと言ったのは貴女じゃないですか。コードネームはなくても名前くらいあるでしょう」

バーボンと名乗る男の眼が細められ、相変わらず口調の端々には自信が宿っている。

「……みょうじなまえ」

表の仕事で名乗る偽名を口にすると、バーボンが不敵に笑った。
「ほぅ……。ただの構成員である貴女が、どうやって組織からこんなモノを盗み出せたんです?」

バーボンは、すっと女の服へ手が忍び込ませた後、まるで見せつけるかのように彼女の眼の前でUSBを振り翳す。
「あっ……、ちょっと――!」
返せと、身をよじって来たので更にグッと両腕を強く締め付けると女は痛みに呻いた。

「あそこの製薬会社は外部からアクセスが出来ないよう厳重に構築されている。
万が一不正アクセスされた場合、情報は即デリート。不正アクセスした端末にはウイルスがばら撒かれる仕様だ。ただのフリージャーナリストがこんなこと出来るとは思えません」
口調とは裏腹に男の瞳は冷徹だ。

「何で……、私のことを……」
見開かれた女の瞳。
彼女の反応を確認したバーボンこと降谷零は、満足気に微笑む。
こんな芸当が出来るとは、余程ネットワークに詳しいのだろう。

「……単なる噂ですよ。取材という名目で様々な情報を裏社会に流して金儲けしている泥棒猫を、組織が目を付けて引き込んだらしい、と」
「……泥棒猫だなんて酷い言い草ね」
「飼い主に楯突くとは……泥棒猫ではなく、とんだじゃじゃ馬娘だったようだ」

カチャ、とセーフティを解除する音が静かな埠頭に響いた。

「何が目的でこんなことをやったんです?」
「………知りたかったから」
女の唇から、溢れた一言。降谷は続きを話すよう彼女を促した。

「楠田陸道という男から私の両親について話を聞いたの。どうやら組織の一員として、ネットワーク構築を担当していたみたい。どういう訳か、試薬品の被験体に名乗り出て運悪く死んでしまったと聞いていたんだけど、実際は組織を抜けようとして半ば強引に試薬品を飲まされて殺されたとね。その薬について重要な内容があの製薬会社に保管されているから、知りたくないかって持ちかけられたの」
「楠田という男は一体何の目的で貴女にその話を持ちかけたんですか?」
「どうやらこのデータを別の製薬会社に売りつけて金儲けをしようとしているみたい。馬鹿な男だよね、私が盗聴しているとも知らないでさ。私がデータを盗んだという証拠もログも全て削除してあるから、バレたら危ないのは楠田なのに」
「そんな危ない綱渡りを貴女がするメリットが見当たらないが……」
「勿論楠田に渡すつもりはない。貴方が手にしているデータには、私の両親の死の真相が入っているんだから。匿名で警察に流すつもりだったの。組織が壊滅出来れば私にとっては良かったんだけど」

頭に銃を突き付けられているのに、女は慌てることも――命乞いすることもなく、至極冷静なままだ。諦めているのだろうか。

だが、この女が持つ高度なクラッキング技術をここで葬ってしまうのは勿体ない。
しかも彼女の両親が組織のシステムを構築したとなれば、脆弱部分も知っている訳だ。現に彼女は製薬会社へ不正アクセスしてデータを盗んでしまっている。

「貴方に命を握られている今……もう叶うことなんてないけれどね」

初めて女の声に湿っぽさが混じった。
その様子を、降谷は静かに眺める。

黒ずくめの組織を壊滅させるためなら――日本を守るためならば、手段は選ばない。使えるものなら何でも使う。
公安警察である自分の手元に置いておけば、彼女の動向を見張ることも出来る。

「それが貴女の“正義”だというのですか?」
ふっと鼻で嗤う女。
「“正義”?……そんな大層なもの私は持ち合わせていない。どちらかと言うと――エゴの方が近いかな」

この女は、両親の死の真相を探るために組織に入ったという。
見たところ組織に対して忠誠心はないように思えるが、そう見せかけてこちらの虚を突く可能性もある。
慎重に進めるに越したことはない。

「……貴女は運が良い。実は製薬会社からデータが盗まれたことを知っているのは僕だけなんです。他の幹部連中だったら、貴女は速攻で殺されてましたよ」
降谷は拳銃を一旦外して、押さえ付けていた女の両腕も解放した。
すると、彼女は怪訝そうにこちらに視線を投げつけているが、逃げようとはしない。

「……何のつもり?私を殺すんじゃなかったの?」
「僕と、取引をしませんか?」

2.
「エッジ・オブ・オーシャンの爆破は事故じゃないかもしれない?」

四月二十八日の正午過ぎ。
来週から始まる東京サミットの会場で突如爆発事故が起きたという速報が駆け巡った。

サミット会場で警備の下見をしていた警察官数名が死傷したという。施設自体はまだ一般オープンにされていないため、民間人の犠牲者が出なかったことは不幸中の幸いだろう。

自宅で原稿を執筆していた名前は、そのニュースに茫然としていると一本の電話がかかって来た。

「ガス爆発は事故だと報道されてますけど……」
『爆発現場にはガスが充満していたことが調査で解っている。ただ、気になる点があって』
「気になる点?ていうか、降谷さん爆発現場にいたんですか!?」
『かすり傷程度だから問題ない。それよりも、電気設備経路の図面で気になる点を見つけた。ガス線の開け閉めがネットで出来るんだが、少し変わったネット回線が使われているようだ。今、図面と捜査データを送るから現場に不正アクセスがあったかどうか直ぐに調べて欲しい』

一方的に捜査内容の要点を話す彼に、名前は今更なことを質問する。
「そもそも民間人に捜査内容を漏らして良いんですか」
『名前さんは僕の協力者だから、これくらい出来て当然だろう?』

電話越しからいつもの声が聴こえて名前は椅子に座ったまま脱力した。
顔が見えなくても、今相手がどんな顔をしているのか容易に想像出来てしまう。

「降谷さん、人使い荒くない?そもそも、私じゃなくてサイバー犯罪対策課に頼めば良いじゃないですか」
『それは出来ない』
即答で返って来た。

「は?」
『お得意の違法捜査中だ。事件化出来るまである人を犯人として利用させて貰うことにした』
降谷が悪びれる様子もなく言う。

「それは、降谷さんの判断なんですか……!?」
無関係な人間を犯人に仕立て上げるなんて。
『自ら行った違法な作業は、自らカタをつける。僕の方も色々と調べるつもりだ。それじゃあ、頼んだぞ』

名前の問いに降谷が答えることもなく、プツッと通話が切れた。受話器から無機質な機械音が規則正しく流れている。名前は溜息を吐いた。

降谷は個人の幸せより国家の幸せを優先する男だ。だけど、きっと何か考えがあるはず。そう信じて、書きかけの原稿作業を中断した。

メールボックスを開くと既に降谷から捜査データが届いていた。膨大な量のデータに目を通す。
あの速報を目にした時、真っ先に浮かんだのは黒の組織の仕業である。

以前キュラソー奪還で大観覧車が破壊されたことがあった。ここしばらく彼らの様子を探っているが、目立った行動は起こしていない。
もし組織の犯行なら、ベルモットから降谷零ことバーボンへ情報が来るだろうが、今回はなさそうだ。
とは言っても、組織ぐるみの犯行も視野に入れておいて損はないだろう。

名前は組織のただの構成員でありながらバーボン――降谷零の協力者である。
協力者といえば聞こえは良いが、ただのパシリなんじゃないかと――自分自身でそう思っている。

バーボンから頼まれることが多いのは、彼らに気付かれないよう情報を盗み出すことだ。
勿論、取材という名目で組織の息がかかっている企業や製薬会社に出向くこともある。

IPアドレスを偽り、盗聴からデータの書き換え、ウィルスの拡散など――何でもやった。
今でも組織壊滅を目指して組織のシステム構築を破壊するために試行錯誤している。

“みょうじなまえ”というフリージャーナリストとして活動すれば、周囲に怪しまれることなく情報収集も可能だ。
彼が“安室透”として知り得た情報と交換出来る。

「こんなはずじゃなかったんだけどな……」

黒の組織の一員として、何度かバーボンと仕事をしている内に、彼は自らの正体を口にした。
“安室透”は情報収集のための偽名で、“バーボン”とはスパイとしての名前である。

本当の正体は、警察庁警備局警備企画課所属で日本全国の公安を束ねる警察官だ。

“安室透”も“バーボン”もただの記号に過ぎない。
正体を明かされた時、名前は騙されたと舌打ちした。そして、このままでは逮捕されると思ったのだ。
そもそも名前だって犯罪者に等しい。たまたま公安警察官の協力者になっただけで、お目こぼししてもらっているに過ぎない。

降谷の目的は、犯罪シンジケートである黒の組織を壊滅させること。
名前は両親が殺された真相を探りながらも、組織の壊滅を願っている。
お互いの利害は一致した。

降谷零は、色々と謎めいている男だが、名前は自分から協力関係を終わらせるつもりはない。
黒の組織を壊滅させるまでは。

余談だが――降谷に初めて会ったあの晩に盗んだデータは、製薬会社のPC以外の端末で開くとデータが消えるようプログラミングされていた。
結局両親の死の真相に辿り着くことは出来なかった。

カチカチとクリックして画面をスクロールすると、サミット会場のネット回線情報が出て来た。そういえば、現場はネットを通じてガス栓の開封が可能だという。

よく調べてみると、降谷が言っていた通り、不明瞭なブラウザでアクセスされた痕跡がある。出所を辿れば辿る程、芋蔓式にIPアドレスが出て来た。
いくつものPCを経由することで接続元を解らなくする常套手段だ。

名前は不敵な笑みを浮かべて、接続元を辿る糸口を探すことにした。

3.
「毛利さんを犯人に仕立て上げたんですね」

五月一日の正午過ぎ。
どんよりとした雨雲から雨がしとしと降り続く。
まるで空が泣いているようだ。

頭上に通る首都高から、車の走行音が響く中。待ち人の姿を見つけた名前は声をかけた。

「開口一番それか」
傘も差さずに、手摺に凭れかかる降谷が自嘲気味に返す。少し疲れているように見えた。

「水も滴る良いオトコ……と言いたいところだけど、風邪引きますよ」
名前は、自分の傘に降谷が入れるようスペースを空けたが、彼は入ろうとしない。

その様子を横目で確認して無言のまま――せめてもの気持ちとして――少しだけ彼の方へ傘を傾ける。降谷もその場から動くこともなく、彼女からの気持ちを無言で受け取った。

「どの局もサミットより毛利さんのことばかり報道してます。降谷さんの思惑通り、事件化成功ってところですか?」
「……そうだな」

ああ、しまった。
言った後で、失言したと名前は思った。あれはただの嫌味以外の何物でもない。
降谷は不機嫌になることも、怒ることもなく――ただ事実として、それを認めた。

「怒ってるのか?無実の人間に罪を着せた僕のことを」
怒っているかいないかと問われれば前者だ。冤罪と同等で、その人の人生を壊してしまう恐れだってある。

毛利小五郎が送検されて、娘の蘭が哀しむことは目に見えている。
それに、眼鏡の少年が黙っていないことも降谷なら解っているはずなのに。
そこまで喉から出かかったが、名前はその言葉を呑み下す。

降谷零は公安警察だから。個よりも公を優先する男だ。

「……私がどうこう言うなんてお門違いですね」
自分に言い聞かせるように言うと、隣からふっと笑みが零れた雰囲気が伝わって来る。

「名前さんは相変わらず嘘を吐くのが下手だ。顔に出てる」
ちらりと見上げると、薄いスカイグレーの双眸がこちらを見下ろしていた。

あの夜。人工的な橙色の中に浮かんだ彼の瞳は、冷徹さを帯びていたのに。
今はその欠片もない。大切に想ってくれているのではないかと――自惚れというか、勘違いをしてしまう程の柔らかさを湛えている。優しい視線を受けた名前は何も言えなくなってしまった。

「そうそう、不正アクセスの件はどうだったか?」
ふいの質問に、名前は現実へと引き戻された。ここで待ち合わせした理由を名前は思い出す。

いけない。隣にいる男が醸し出す雰囲気にすっかり呑まれていた。
「ええ、不正だらけのアクセスばかりでさすがに接続元を割り出すのが難しかったですよ。いくつものPCを経由していたようだしね。およその接続元は東京都二十三区内しか絞れませんでした」
口を開くと、降谷零の協力者がそこにいた。

「それと……降谷さんももう知っているかもしれないけど、Norというブラウザが使われていました。アクセスしている間に自動的にIPアドレスが変わるという厄介な機能付きで、匿名性が高いです」
「やはりそうだったか」
「完全無欠に見えるけど、落とし穴もある。サーバーの中間地点経路は暗号化されていないんです。ここを暗号化してしまうと、通信先が内容を解読出来ないので暗号化しないんですよ」
「その中間地点を押さえることは可能か?」
「私も降谷さんと同じことを考えましたけど……残念ながらVPNプロバイダに接続されていて、全て暗号化されてました。割り出すのは難しいかと」
「僕の方でも調べてみたが、Norの追跡プログラムがNAZUによって開発されたらしい。ここから洗い出せれば犯人が見える可能性がある」
「そう言えば、Norって以前NAZU不正アクセスで使用されたネットブラウザですよね。ゲーム会社から不正アクセスした男が逮捕された事件」

名前はクラッカーの端くれとして、あの事件を注目していた。
しかし男は拘置所内で自殺し、被疑者死亡のまま書類送検で閉幕したとニュースで報道されていた。

降谷は険しい表情をしたまま考える。
羽場二三一を尋問したのは他でもない自分である。

「まさか、な……」
“Nor”と“NAZU”という単語。妙に符合して気持ち悪い。

あの男は司法修習生を罷免された後、危険人物として公安警察でマークしていた。
彼を監視し逐一報告をするようにと、公安警察の協力者である2291という人物に命じていたのだ。そんな矢先に、羽場は不正アクセスの発信元であるゲーム会社に忍び込んだところを、警視庁公安部に逮捕されたのだ。

公安警察の協力者は数字で管理されており、全てゼロである降谷に報告されているのだが、まさか公安検察が協力者を有していたとは予想外であった。
これは降谷が羽場を尋問した時に判明した情報だ。

「降谷さん?何か思い当たることでも?」
暫く思考の海に潜っているであろう降谷に、名前は声をかける。
「いや、何でもない」

たまに、名前は解らなくなる。
目の前にいる男が今はどのなのか。

降谷零。安室透。バーボン。
三つの顔を持つ男は秘密主義者だ。調べるのに必要な捜査資料はしっかり送ってくれるのに、彼が何を考えているのかは教えてくれない。

協力者だとしても、名前は黒の組織という犯罪シンジケートの構成員。
当たり前だと解っていても少し位頼って欲しい。彼女は降谷零という男に絆されている自覚がある。

「この情報をどう使うかは降谷さんに任せます」
「……いつも悪いな、助かる」

ほんの一瞬だけ。降谷の言葉の端に、申し訳なさが浮かんだ――ような気がした。

「あの爆破は警察庁に泥を塗ったようなものだし、毛利さんを起訴するように圧力をかけたのは貴方ですよね。そんなことしたら、コナン君が黙ってないと思いますけど」
「既にコナン君から敵意を向けられているよ。もう十分事件化出来たから毛利さんを不起訴にするよう公安総括検事に指示済みだ。コナン君のところにも、その知らせはじきに届くだろう」

降谷は右耳に嵌めているイヤホンを、トントンと軽く叩く。
「まさか……、コナン君を盗聴してるんですか?」
「彼の動向を探るのは、僕の捜査で重要なことさ。まぁ、向こうもこちら側を盗聴していたようだがね」

降谷がポケットから何かを取り出した。
ころりと掌に転がった丸みを帯びた白い物体。それは盗聴器だった。

「一体、あの子は何者なんですか」
大人ですら気付かない細かいところに良く気付くし、小学一年生が知らないような難しい知識も持っている。
そして、大人顔負けの推理力。
警察関係者にも顔が効き、刑事達から一目置かれている節もある。

「さぁね、僕も知りたいよ。まだほんの子供なのに恐ろしい子だ。盗聴器こんな物まで作ってしまう強力な協力者が、彼にはいるんだから」
「あの子は貴方の正体に気付いてるんでしたっけ?」
「……ああ、まぁな。お陰でNOC疑惑をかけられた時は協力することが出来た。ついでに、彼は貴女のことも何となく解っていると思う」

コナンとは時々ポアロで会うが、二言三言言葉を交わすだけなのに。あの少年の観察眼半端ない。

「場合によって、僕と貴女が彼の敵になるということも解っているだろう」
もしそうなら、これから言動には気を付けなければ。
「あの少年のこと評価してるんですね。……降谷さん?どうしたんですか、一体――」

形の良い眉を顰め、難しい顔をした降谷から“静かに”というジェスチャーが来た。
イヤホンから聴こえて来る盗聴内容を聴き漏らさぬよう、集中しているようだ。

「IOTテロか……、なんて子だ」
「IOTテロ!?今、街中で起きてるんですか?」
降谷が頷いた。

IOTテロとは、電子機器を乗っ取り暴発させるサイバーテロのことだ。
ネット回線の接続を切って仕舞えば機器は暴走しない。

「そういえば……、不正アクセスされたのはIOT圧力ポッドだった」
「……ネットを使って会場レストランのガスを充満させ、スマホ操作可能な圧力ポッドを爆発させたそうだ。名前さん!僕はまだ気になることがあるからもう行く。まだ何かある気がしてならない……。また連絡する」

踵を返してその場から離れようとする彼に、名前は声をかけた。

「今回の件、組織ヤツらは関与していないでしょう。ウォッカのPCに侵入して盗聴したけど、それらしい企みはなかった。降谷さんがそちらの件に集中出来るよう、こっちの調査は私に任せて下さい」
公安として、組織の関与も懸念しているはずだから。
降谷が緊張した面持ちから、小さく笑う。

「すまない……」
名前がちょっとの間、視線を外しただけなのに。既に降谷の姿はどこにもなかった。
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