別れはある日突然に

あの日、私は1人で決意した。
綺麗になった私を見せ付けて、逃した魚は大きかったのだと――あの日のことを後悔させてやることを。
絶対に見返してやると――洗面所の鏡に映っている憎き腹の脂肪を摘み、私は決意する。
涙で赤く腫れた目元を冷やすために、タオルを水に浸すことにした。



私には付き合って4年目の同い年の彼がいる。彼とは大学生の頃、同じゼミ仲間として結構仲が良かった。話の馬も合い、2人だけで遊びに行くことも多くなった。いつからか、彼からの熱烈なアプローチがきっかけで付き合い始めたのだ。

大学卒業後彼は総合商社、私はIT企業にそれぞれ就職し、忙しい毎日を過ごしていた。
最近は、私の仕事が忙しくて中々デートも出来ていなかったけど明日は久しぶりのデートだ。気合いで仕事を片付けて、たった今帰宅した。
そういえば……明日何をするのか、どこで何時に待ち合わせするのか、まだ決めていなかった。
そのことを思い出した私は、スマホをポチポチといじって大好きな彼に電話を掛ける。心地良いコール音が耳に馴染み、早く出ないかな何て思った。

付き合い始めに比べたらお互い落ち着いて来たから、物足りなさは、まあ……あるけど、一緒にいるだけで落ち着く関係ってこういうことだと思う。

学生カップルは卒業後、生活環境が大きく変わることで別れることが多いといわれるけれど、私達はそんなこともなく今まで順調にやって来たと――、

『ごめん、ナマエ。俺達もう終わりにしよう』
「え?」

……どうやら、私だけそう思っていたらしい。

『今更泣いても……もう遅い。そういう時が来ただけだ』

電話口で泣いている私をよそに、彼は静かにそう言ってからそれじゃあ、と言葉短めに言って電話を切った。ツーツーと無機質な音が耳に入って来る。

私はスマホをポイと投げた後、ごろりと力なくベッドに横になる。
気が付けば、私は暫くぼんやりと天井を眺めていた。突然の別れ話は、あまりにも呆気なさ過ぎてどう反応すれば良いか私の脳は解らなかったようだ。

今までの4年間は一体何だったのだろう。
喧嘩も沢山数え切れない程した。だけどそれ以上に、彼のことが好きで。彼から、『結婚したいと思っている』と半ばプロポーズ紛いの言葉を貰ったことだってある。まだお互い仕事が忙しいから追い追いね、何て二人で話し合ったりしたっけ。

『いい加減痩せろ』と何度言われたか解らない。
その度に、流行りのダイエットに飛びついては飽きて……の繰り返し。痩せられない私を見ても彼は、何も言わずに受け入れてくれた。
本気でダイエットをして、付き合い当時の体重に戻すことが出来れば……。

「あーー!!やめやめ!」

勢い良く起き上がって顔を横に振った。
考えたって無駄!過ぎたことは変えられないのだから。涙を拭いてティッシュで勢い良く鼻をかむ。ダイエットに失敗する度に、心のどこかで彼に甘えていたことは自覚している。

『ご飯を美味しそうに食べているナマエが好き』
『太っていようがいまいが、君は君だろ?』

彼はありのままの私を好きでいてくれるって。その言葉に甘んじて来た私はダイエットに失敗する度にその言葉を免罪符にして来たから。根拠も何もないものを信じていたなんて、ほとほと自分が嫌になった。
決めた。今度こそは。

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