青い空。
白い雲。
こんないい天気も、
彼らの手にかかれば…
晴れ時々
トントントントン
『〜♪』
綺麗な夕日の光が差し込む中、包丁で何かを刻む音と少女の歌声が狭い台所に響く。
『これでよし!っと…』
名前は刻んだネギを煮込み始めた鍋の中へと入れた。
『あとは大根…』
まな板の隣に山積みにされた大根を見てうなだれる。こんなに沢山ある大根を今から切らなければならないのかと思うと少し気落ちする。
しかしもうすぐ戦から腹を空かせた彼らが帰ってくる。食欲旺盛の彼らだからこんなにたくさんの材料があっても足りない程だ。
『よぉし!切るぞぉ!』
気合いを入れて作業に取りかかった。
『皆喜んでくれるかな』
堅い大根と格闘しながらも彼らが喜んで食べる姿を想像すると顔が緩む。
先程から名前が言っている彼らとは傭兵集団、七人隊のことだ。
名前はたびたび戦に出かける彼らのお手伝い係として彼らとひとつ屋根の下で暮らしている。
戦では冷酷だと恐れられているが名前にとって七人隊はとってもおもしろい人達。怖さなんてすぐに吹っ飛んだ。
もともと料理などが好きな名前はてきぱきと作業をこなし、七人隊の皆はそんな名前を頼もしく感じた。
短い期間ですでに名前と七人隊の間に家族、仲間の絆が出来上がっていた。七人隊の皆と一緒にいると悩みなんてものを感じない。
ただ、一つを除いては…だけど。
「名前ー!」
『きゃあっ!』
大根切りに集中していた名前の背中に突然何者かが抱きついてきた。
――この声は…、
『蛇骨!』
「へへー!ただいま、名前!」
そう、名前が抱えるたった一つの悩みの原因である、蛇骨だ。
『帰ってくるの早いわね』
「んー、お前に会いたくて急いで帰ってきたんだよ」
そう言いながらもまだ名前の体を後ろから抱きしめたままの蛇骨。
『ちょ…離してよ。皆が来るでしょ?』
段々顔が赤くなってくるのを感じ、蛇骨の腕の中からもぞもぞと抜け出そうとする。
「……すぐには来ねぇよ?」
『え?』
「戦が終わってすぐに走ってきたもんね。俺の超長い美脚の早さには誰も追いつけねぇよ」
『超長い美脚ってのは余計で…』
名前は笑いながら後ろを振り向くが、蛇骨の顔を見て思わず固まった。
名前の目を見つめる蛇骨の表情はいつもの女と見間違えるほどの可愛いものではない。
とてもかっこいい、所謂男の表情そのものだった。
「今、この家には俺とお前二人きりだ」
『え…』
サクッ
『イタッー!』
その表情、言葉に動揺した名前は包丁を滑らせ指を切ってしまった。
「おおぉい!何指切ってんだよ」
『だって蛇骨が変な事言うから』
「ったくバカだな、名前は。指貸してみろ」
『?』
蛇骨は血を流す名前の指を見るとそれを唇へと近づける。そしてそのまま口に含んだ。
「っ〜!何すんのよ!」
思いもよらぬ蛇骨の行動に目を丸める。
「何って血止めなきゃなんねぇだろ?」
『い…いいよ。自分でするから!』
名前は真っ赤になって必死に手を離そうとするが蛇骨が固く握っているため離れない。
『う〜離して…っ?』
それどころか握った手を突然ぐいっとひっぱられた。状況をのみ込めた時には既に蛇骨の顔まで数センチの距離。
『ちょっ…じゃ…』
「いつになったら俺の気持ちに答えてくれるの?」
『え…?』
顔を見ると眉をひそめ切なそうな表情をしている。そんな表情ですら名前をドキドキさせ、つくづく大人だなぁと思ってしまう。そんなことを考えていた名前だったが――、
「俺、もう限界…」
それだけ言うと蛇骨は名前にゆっくり顔を近付けてきた。
名前は慌てて体を離そうと必死に空いた右手で蛇骨の肩を押すが男の蛇骨に敵うはずがない。
そしていよいよ唇が重なりそうになった。
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